第9話 鮮烈なる赤、シャロ=コールデット
国一番の人気スイーツ店で、あくまで仕事道具であるケーキやマカロンを包んでもらう。
その後、人目に付きづらい裏路地へ移動し――俺は一応の同業者、シャロ=コールデットと対峙していた。
「……で、何の用だ。俺は今の仕事の準備で忙しいのだが……」
「ふふんっ、相変わらずの完璧主義、さすがね……でも、その仕事の話で来たのよ。国一番の暗殺者、ミッション達成率150%越えのソウマ=クサナギさんにしちゃ……随分と手こずってるみたいじゃない? ターゲットは有名な、悪逆王女だっけ?」
「120%越えかなあというくらいだ、今はな。……フンッ、なんだ、不甲斐ないと笑いに来たのか? だが、笑われる筋合いはないな。仕事は今も進行中、ゆえに失敗したというわけではないのだからな」
「さすがね、ソウマ……その執念、国一番の暗殺者と呼ばれるだけあるわ。でもね……ちょっとのんびりしすぎじゃないかしら? モタモタしてると……獲物を横取りされても仕方ない、暗殺者なんて、そういう世界の住人でしょ?」
「……何だと? どういう意味だ?」
俺が眉間に皺を寄せながら、問いかける。
するとシャロは、いかにも気の強い眼差しと共に、言い放った。
「このアタシ、シャロ=コールデットが、アンタが達成できないミッションを。
悪逆王女の暗殺を、成し遂げてやるって言ってんのよ――」
「…………」
ドヤ顔で宣言する、シャロ=コールデットは―――
どちらかといえば小柄な方で、身軽そうな体格ではあるが、その端正ながら気の強い相貌を、更に引き立ててしまう要素。
鮮烈なる赤い髪――薄闇にあっても火を燈すような、有無を言わさず人目を惹くような、黙っていても存在感を醸してしまうような。
もう、ぶっちゃけてしまうが――クッソ目立つ赤髪を見て、俺は告げた。
「おまえ、暗殺者やめろ」
「なっなななんでよっ!? どういう意味よイキナリッ!?」
「なんでも何も無いだろう……おまえ、暗殺はおろか、潜入ミッションすら全滅ではないか。もうこの際だからハッキリ言うが、その赤髪、目立ち過ぎるのだ。最初に出会った時も、そうだったろう」
「ぐっ。……ぐっ、ぐぬぬっ……!」
悔しそうな顔をしつつ言い返せないシャロに、俺もため息を吐きながら、彼女との出会いを思い出す――……。
―――――――――★回想★―――――――――
草木も眠る深夜、赤髪の暗殺者(自称)は、悪徳商人の暗殺に失敗し――数え切れぬほどの衛兵に追い回され、とうとう追い詰められた。
『っ。なんてこと……このアタシが、まさかミッション失敗しちゃうなんて……まあコレ、初仕事なんだけど!』
初仕事でいきなり大口の仕事を受ける、本人にも斡旋者にも問題ある気はするが、とにかく――見た目は麗しい暗殺者に、粗暴な雰囲気の衛兵たちが口々に囀る。
『へへへ、可愛らしいお嬢ちゃんじゃねぇか、じっくり可愛がってやるぜ……なんて思うことは一切なく』
『何なんだよ、この女……逃げ回ってる間に、追っかけた衛兵が半分以上も殴り倒されたんだけど……しかも素手だぞほとんど……』
『シンプルにコエェよ……下手な真似しようモンなら、握り潰されそう……』
『見た感じ小柄な美少女なのに、なんかもうゴリラすぎて、遠巻きに矢を射かけるか槍を投げつけるくらいしか思いつかねぇよ……怖すぎる……』
『クッ……なんかえらく失礼なこと言われてる気がするわっ……なるほど、精神攻撃ってわけね。随分と陰湿じゃない!』
兵士の感想は素直な気はする、が――この窮地にシャロは歯噛みする。
遠巻きに矢を射かけられ、槍を投げつけられ――それら全てを余裕でキャッチし、何なら投げ返して反撃をしていた。
そんなシャロが『ちょっと疲れてきたかな』と呟き、むしろ衛兵の方がビビり散らす中、彼女は悔しそうに述べる。
『くっ、アタシの暗殺者としての活躍の日々(今日が初仕事)も、これでおしまいか……ここまで、かしら……!』
『ざけんなよ、絶対まだまだ余裕あんだろ……コエェよコイツ……』
『オイ、こうなったら全員同時に、ありったけ射ち込むぞ!』
『爆弾もってこい爆弾! もうこの辺一帯、ぶっ飛ばすしかねぇ!』
『っ、こんな最期……いいえ、暗殺者には、お似合いか……ふふっ』
今日が初仕事で、しかもミッションは失敗しているので、厳密には暗殺者として始まってもいない気はする。
しかし、もはやこれまで、と迎撃態勢を取りながら、見た感じ余力が存分にありそうなシャロが覚悟を決めたらしい――その時だ。
『『『――――グエッ』』』
『…………へっ?』
取り囲んでいた衛兵たちが一様に、同時に倒れ伏したことで、赤髪の女暗殺者が目を白黒させる。
そんなシャロを横目で見つつ――俺、ソウマ=クサナギは呟いた。
『衛兵が一人もいないと思えば……なんだこの状況は』
『へ? え……なっ、何よアンタ、一体何者――』
『何者と問われれば、答えてやろう――俺はこの国一番の暗殺者にして、ミッション達成率140%越えのソウマ=クサナギだ』
『! あ、アンタが、噂の……そんな暗殺者が、何でこんなとこに……』
『何でもなにも。……仕事以外にあるまい。終わった帰りだがな』
『……んなっ!? それって……』
カッ、と頬を紅潮させた暗殺者が、赤髪と相まって真っ赤な顔で怒りを吐く。
『つまりアタシの獲物を、横取りしたってこと!? ふ、ふざけんじゃないわよ! アタシの初仕事だったのにっ!』
『いやそうは言うが、おまえ既に失敗しているだろ。むしろ俺は、拙い新人の尻拭いをしてやったようなものなんだが……結果的にだがな』
『それはっ! ……盲点だったわ……!』
『あのな? ……というか、これだけ暴れまわれるなら……隙を突くなり何なり、いくらでも逃げるチャンスはあっただろう。俺も最後にチョロッと倒しはしたが、ここへ来るまで見た限りでも、八割くらい倒してたぞ、おまえ』
『それはっ! ……それも盲点だったわ……!』
『盲点が多すぎるだろ、暗殺者ならもっと状況を良く見ろよ。……まあとにかく』
赤髪のビギナー暗殺者に背を向けながら、俺はあくまで冷静に告げる。
『そうしてモタモタしていれば、獲物を横取りされても仕方ない――暗殺者など、そういう世界の住人だ。よく理解しておくのだな』
『! なっ、なっ……なあっ……!?』
『まあそうでなくとも、おまえは向いてないから別の職を探すべきだと思うのだが……まあ俺の知ったことではない。では――さらばだ』
『え……っ! き、消え……な、何よ、何なのよ……アイツ……アイツっ』
自らの気配を〝殺し〟て、悠々と立ち去る俺は、去り際に耳にした。
『……ちょ、超カッコイイじゃない……♡』
国一番の暗殺者に対して当然の評価が聞こえてきたが、まあ別に思うことはないので、そのまま去ることにしたのである――
――――――――★回想終了★――――――――




