第10話 同業者にも容赦無用、国一番の暗殺者の恐るべき脅し――!
その後、シャロ=コールデットは以前まで所属していた(というか一回仕事を請け負っただけ)のギルドを去り、なぜか俺と同じ暗殺者ギルドに移ってきた。
しかし何度も言うように、暗殺者は向いていないから転職した方が良いと思う。これは本気で。
「……シャロ、何でおまえ、そんなに暗殺者という職に固執するのだ?」
「何言ってるのよ、決まってんじゃない――なんかカッコイイからよ!」
「……はあ、やれやれ……全く」
あまりにも能天気なシャロの発言に――俺が首を横に振りつつ、答えを返した。
「まあ、それは理解」
「でしょ~っ!?」
まあ俺が、一切の感情を排して仕事を成し遂げるプロであることは周知の事実だが、シャロの発言にも一定の理解は示せる。別にテンション上がっていない。一切の感情を排しているのだから、テンション上がるはずない。
……とはいえ、だ。
「まあそれはともかく……おまえは本当に向いていないから、やはり別の職を探すべきだと思うのだが」
「う、うっさいわね! だからこそ言ってんでしょ、国一番の暗殺者であるアンタが達成できないミッションを……アタシがやってやる、って!」
「……それは」
しかし今そんなシャロが、国一番の暗殺者である俺でさえ達成困難(出来ないとは言っていない)なミッション――〝悪逆王女の暗殺〟を成し遂げようと口走っている。
(……妄言、とスルーしてしまっても構わないだろう。そもそも、潜入することからして不可能だろうし。だが、問題は……俺の仕事に、横槍を入れようという宣言。即ち、そう……何というか、そう……)
「とにかく――珍しくモタモタしちゃってる、ソウマに代わって。
このアタシが悪逆王女を――殺してみせるんだからねっ」
(王女を、殺すとか言われるのは……なぜか、死ぬほど腹が立つ……!)
〝悪逆王女を殺す〟という宣言に――悪逆王女の命を奪わんとする、暗殺者である俺の怒りに火が付く――!
………………。
いや腹が立つ理由は、アレだ、〝俺の獲物を横取りしようとしている〟ことに関してだろう。俺は国一番の暗殺者であり、だからこその矜持がある。
ゆえにこそ、他の誰かが王女の命を狙うなど、それ自体が許せないのだ。王女の命を奪うのは、この俺でなくてはならぬのだから。論破である。
……ちなみに悪逆王女が命を落としたところを想像すると、それだけで自分の腹を掻っ捌きたい衝動に駆られるのだが、それはアレだ、いまだにミッション達成できない自分自身への不甲斐なさというか、憤りというか、そういうアレに違いない。
何はともあれ、だ――全ての感情を排した俺の激情で行動を起こす。
「まっ、そんなわけだから……悪逆王女の命は、アタシがいただくわっ。悔しかったら、アタシより先にミッション達成してみなさ――」
「――――待て」
「へっ。……ひぇ、ひゃわわわわぁっ!?」
短く呼び止め、シャロが振り返ろうとした瞬間――その体勢の乱れを見逃さず、俺はシャロを壁際に追いつめる。
そして、その端正な顔の横の壁に、ドン、と右手を突いた。
「ひ、えっ……こここれ、か、壁ドっ……やっ、ソソソウマ、なになんなの急に……ちかっ、近いっ――」
「――囀るな。俺の獲物を横取りする、などと妄言を吐いたな。そんな真似、国一番の暗殺者である俺が許すとでも思ったか? ……いいか、良く聞け」
「はひゃっ。へあ、ん、ぁ、あ? ……っ……」
俺は、空いている方の左手で――シャロの顎先を、くい、と持ち上げる。
そして顔を近づけ――赤髪の下の耳元へ、威圧感たっぷりに囁いた。
「俺のターゲットである悪逆王女を、殺そうというなら。
その前に、俺が――おまえを、殺す――」
「――――――」
国一番の暗殺者である俺の、文字通り殺し文句だ。
その恐るべき威圧を受けた赤髪の暗殺者は、へろへろと体から力が抜けている。
「……ふ、えぇ……はわぁん……も、むりぃ……♡」
(フッ、どうやら恐ろしすぎて腰が抜けた模様……さすが国一番の暗殺者である俺、言葉のみで戦意を〝殺す〟とは……自分で自分が恐ろしいな)
とにかくこうなってしまえば、間違えても俺の獲物を横取りしようなどという考えは、浮かばないだろう。
そう確信し、俺は――
『……い、いっそ、ころされたぃ……♡』
なんか目がハート型になっている気がするシャロに背を向け、その場を立ち去ったのだった。
◆ ◆ ◆
「――は!? シャロが悪逆王女を暗殺するため出かけた!? 何故!?」
仕事前の夕方時、暗殺者ギルド備え付けの酒場で、俺は他の同業者から聞いた話に絶句していた。
同業者の男が、続けて教えてくれる。
「さ、さあ、良く分かんねぇけど……何やら、えらくやる気に満ち溢れてた、って話だぜ……ほんと何でか知らねぇけど」
「くっ、何故なんだ、全く意味が分からないッ……いやしかし、そうは言ってもシャロだからな……普通に失敗して帰ってきそうだが……」
「あ、そういえば、メイドとして潜入する、とか聞いたな……ははっ、まあ潜入とか苦手なの、さすがに自覚してるだろうし……今回は、珍しく頭使ったな!」
「フンッ、メイドだと? そんなことで……」
ふー、やれやれ、と頭を振った後、俺は目を見開いた。
「意外といけるかもしれん……盲点だった……!」
「割とありそうな話だけど、国一番の暗殺者そんなに盲点だった?」
「俺は変装とか必要ないから……っ、とにかく、こうしてはいられんっ……このままでは、王女の命が危うい!」
「アンタ確か、その悪逆王女の命を狙ってたんじゃなかったっけ?」
同業者の男が何か言っている気はするが、もはや聞こえん、一切聞こえん。
とにかく俺は、国一番の暗殺者の全速で、酒場を飛び出した。
「悪逆王女を暗殺しようなどと、そんな暗殺者は絶対に許しておけん――!
じゃあ俺は何なのだ何を言っているのだクッソーーーーーッ!!」
自分自身にツッコみつつ、とにかく俺は〝手遅れにならぬように〟と心の底から祈りながら、王女の住まう塔へ向けて猛然と駆けるのだった。




