僕、友達が増えた
休息を取るついでに汚れを落としていたらポーラが絡んできたのでついでに洗ってあげた。
汚れを落とす筈がポーラを落としたらしく、洗髪屋さんは即日廃業。二次被害を産まない為に以降、同性にしかやらない様にしようと思う。
その後請われて魔法を教えながら、いつも通りの空気を出しつつ有耶無耶にして今日を乗り切りたい所存。
まさかの事態に僕の心が持たない所だった。こんな事なら【浄化】を使って手抜きすれば良かったかもしれない。
でも【浄化】はやたら魔力を使うから、後の訓練で魔力を必要とした場合を考えて出し渋ったんだよね。一体何が正解だったのやら……。
間も無く全員が百周を終えて昼食が始まった。
訓練場に並べられた大量のご飯と言う名の干し肉と乾燥野菜と黒パン。
干し肉と乾燥野菜を使ったスープを自分たちで作って黒パンを浸してたべろとのこと。
どうやら食事まで実戦を想定していた様だ。
食事は五人づつで適当に組めという指示がフェーグさんから出たが、それは社交性がないときつい指示だよ。優しくないよ……。
僕らのいつもの面子は僕含めて八人。そして今回は女性陣四人とグロックが一組を作ったようで、残ったお馬鹿三人は残る二人を探すことになった。
「お前ら、俺ら以外にダチいねえの?」
「そう言うコルハ君はどうなんですか?」
「俺は孤高の一匹狼なんだよ!」
「知ってますか? 一匹の狼って群れを追放された弱者らしいですよ? さらに言えばいつも僕らと居る時点で一匹じゃ無いです」
「ゼガン。許してあげなよ。コルハが可哀想だよ?」
「あっ……すみません。言葉が過ぎましたね」
「その喧嘩高く買ってやろうじゃねえかあああ!!!!」
人を探すはずがいつの間にかいつもの流れが出来上がるんだもんな。息するように煽り文句が出てくるのは流石僕らだ。
こうして騒いで居たのが逆に目についたのか、後ろから盛大な妨害をしてきたエルフの男子と狐獣人の女の子が寄ってきた。
「あの、見たところ三人の様だけど、良かったら俺たちと組まないかい?」
「私達もちょうどあぶれていて、お邪魔でなければ……」
これ幸いと僕たちは揃って申し出を受け入れる。
「邪魔なわけないよ! 組もう!」
「俺達も探してたんだよー!」
「是非、よろしくお願いします!」
二人とも競走中の鬼気迫る感じはどこへやら、組めると分かると嬉しそうに笑う。
妨害行為で不孝を買っていないか僕が一番不安だったんだよ、助かった。
無事五人組を作った僕たちはまずは自己紹介から始める。
「見ての通り人間のアッシュです。六歳です。よろしくね!」
「見ての通りの狼の獣人! コルハだ! タッパはそこそこあるが六歳だぜ!」
「見ての通りのエルフのゼガンです。同じく六歳です。お見知り置きを」
「っ…見ての通りの狐の獣人のミルですっ。年は8つです。おっお願いしますっ」
「見ての通りって言わなくて良いよね? エルフのザント、十二歳だよ。よろしく」
僕の適当なノリに瞬時に乗ってくる馬鹿二人はともかく、若干躊躇しても流れに乗ってきたミルさんは素直そうな人だ。
ぱっと見白髪にも見える程の薄い青色の毛色を持っており、背中の中程まで伸びた髪が綺麗なのと同時に、とても儚げな印象を与える。
話し方からして自信なさげだが、能力的には上から数えたほうが早いくらいには優秀だ。
ピンと天を指す狐耳は元気いっぱいに見えて可愛い。
流れに乗ると見せかけてバッサリ切ったザントさんは十二歳。この中で唯一スキル確認の儀を終えているのかな?
ゼガンとは違って似非インテリっぽく無く、ちゃんと賢そうだ。
ザントさんはエルフだけど金髪ではなく深緑色の髪で、その色合いがより一層落ち着きを与えてくれる気がする。
簡単な自己紹介を終えたら材料をもらってレクチャーを受けつつ、コルハが火を起こし、僕が乾燥野菜を程よく砕いて、ゼガンとザントさんが干し肉を削ったりした。
ミルさんは監修と味の調整だ。料理は普段からやるのか、指示も的確で行動にも迷いが無かった。
将来は奥ゆかしいながらも旦那を尻に敷いていそうだ。
「ミルさん美味しいよ! これだけの具材でも意外と美味しくなるもんなんだね〜」
「うめー! 黒パンも歯応えがあって俺は好きだな!」
「流石にスープに浸してふやかしませんか? あっ、とっても美味しいです」
「うん。すごいね。干し肉から出る塩気も考えて少し多めに水を入れていたのか……野菜の旨みも感じられてとても良いね。普段から食べたいぐらいだ」
「いえいえ! 皆さんの下拵えあってこそですよっ。でもあんなに小さかったお野菜が丁度良く食べやすいサイズになって驚きました。アッシュくんは乾燥野菜使った事あったんですか?」
「ないですよ? 今回の野菜が乾燥させると縮むのを知っていただけです。水に戻せばそこそこ大きくなるだろうな〜って」
野菜なんてほとんどが水で出来てるんだから乾燥させれば縮むよねって話だ。
今回は見た事ある葉野菜だったから見当付いただけだしね。
保存食も使い方を知っておく必要がある事を知れた良い機会だった。
食事を取りながら軽く話してみた感じ、なるほど二人には思考の柔軟性と言うか遊びが足りない事が分かったので、魔法や魔力の自由さを軽く説いて遊ぼう! と言っておいた。
明日も今日と同じランニングがあれば僕らに食らいついてくるかもしれない。少し楽しみだ。
僕らの組は、ミルさんのおかげで満足度の高い昼食を取れたのだが、周囲の騒がしさからして中々苦戦している組もあるようで……。
うら若き乙女達は花嫁修行よろしく普段から家事をこなしている人が多かったのだが、女性陣がいない組は少し大変な思いをした様だ。
例えば、水が少なくてしょっぱかったり、野菜に水が浸透していなかったり、肉が硬かったり、何があったのか知らないが鍋をひっくり返している所もあったな。ご愁傷様と言うほかない。
カロリーを摂取しないと、午後の訓練でぶっ倒れるんじゃないかな?
「ミルさん、ザントさん、このスープを他の組に分けてあげても構いませんか? 二人も良いかな? ご飯食べられ無かったら午後の訓練で倒れかねないから。 あっ僕の分少なくして良いからね!」
「お前が少なくするなら俺はもっと少なくするぜ!」
「いや、コルハ君は無駄に体力使ったんだから食べなきゃ自分が倒れますよ? 一応僕もアッシュ君に賛成です」
「俺も良いと思うよ。ここに居るのはライバルかも知れないけど敵ではないものね。それに助けておけば、いつか僕らを助けてくれるかも知れない」
「あのあのっ私もそう言おうと思ってて……その、良いと思いますっ!」
ザントさんの打算的なとこ良いね! 恩を売るなら見返り欲しいよね! 返ってこない前提で売るものでもあると思うけど。
全員の意見が一致した所で、鍋ひっくり返し組に残りのミル印のスープを進呈しておいた。
土下座する勢いで感謝を述べた後にスープを口に含んで、その美味しさに土下座しながら感謝を述べていた。
ミル印なのでみんなでミルさんを矢面に立たせて感謝を一身に受けさせていたのだが、照れて顔を真っ赤にしている様はとても可愛らしかった。
狐耳もね、へなってしてて可愛かったんだ……!
落ち着いた後で、僕の出す美味しい水とこっそり持ってきていたドライフルーツを五人で分けて食べた。評判はすこぶる良かった。
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「ガキどもー! 昼飯食い終わったら腹ごなしの訓練再開だ! 各々身体をほぐすなり、軽く動いておくなりしておけよ! じゃねえと吐くぞ!」
吐くんかい。満腹まで食べずに残りを渡したのは正解だったかもしれないな。
とりあえず言われた通りに少し動いておくとしよう。
僕が軽いストレッチを行っているとザントさんが話しかけてくる。
「アッシュ君ちょっといいかな? 一つ聞いておきたい事があったんだ、僕らの妨害について。意識をミルさんに向けさせる意味も込めた特大の水球を見た上で、君はどうして僕の魔法に気づけたんだろうか」
「あぁ、それには姉が関係していまして。僕の瞬きする瞬間を狙って悪戯してくるものですから、意識の裏や死角にまで気を払う癖がついてただけなんですよ。あとは単純に魔力視で見えたからですよ」
「そうか……俺はまだまだ鍛錬が足りていなかった訳だね……うん、ありがとう! おかげで俺はもっと強くなれそうだ」
「ええ。でも遊び心は忘れないで下さいね? 綺麗な壁じゃ足場にされちゃいますからね!」
「はっはっは! そうだね! 肝に銘じておくよ」
強い意志を宿した瞳で僕を見据えるザントさんに軽く笑みを返し会話を終える。
その後、訓練場を改めて一周して身体強化中の身体の動かし方を再確認する事に残りの時間を使う。
ある程度の調整が出来た僕の目に所在なさげに立っているミルさんが映る。
先程までのミルさんはどこへやら、眉を八の字にしており、端的に言えば嫌そうな顔をしている。
ついでに言えば狐耳を立てている。立った耳も良い。
「ミルさん?」
「ッ!? あっ、アッシュくん。どうしたんですか?」
「何か嫌な事でもありましたか? 眉間に皺出来ちゃいますよ?」
「あっえっと……対人戦だったら嫌だなあって思って。私、人に攻撃するのとか苦手で……」
「仮に対人戦をするにしても、子ども同士ではやらせないと思いますから大丈夫ですよ」
「そうではなくて、人を狙うのがちょっと……」
なるほど、そう言う事なら。
「人を傷つけたり殺すのが怖いなら、殺さずに捕えると言う道もあります。回復要員も大事な戦力ですし、サポートや妨害も大事です。やれる事はたくさんありますよ?」
「妨害やサポート……」
「水を顔を狙って打ち出す事で目眩しが出来ますし、足元を泥濘ませる事だって。顔に打ち出す水を鍛えれば、武器を弾いたり狙いを反らせたりするかも?」
「武器を弾く……」
「さっきも言いましたよ! 魔法は自由です。ミルさんの思うままに扱える様になるには練習は必要ではありますけどね」
「そっか……そうですね。傷つけるだけが戦いじゃないですよね、私、頑張ってみたいですっ」
「見てますから! 何かあったら頼って下さいねー!」
顔つきも変わったしミルさんはもう大丈夫だろう。
ここからは自分の心配をする番だ。
出来る限りを尽くして挑む。そして技を盗む。そして【記憶】して自分のものにする。
僕に出来るのは憶えて再現する事なんだから、徹底的にやってやるんだ。
「おーうし! そろそろ始めっぞー! 今から行うのは、俺とゼフィアを相手にした、模擬戦だ。お前達の鼻っ柱を叩き折って、俺達が鍛え直してもっと太え鼻っ柱を生やしてやる。叩き折られる覚悟の出来たやつからこい」
「魔法だから私、近接だからフェーグと言った縛りはない。どちらでも何人でも良い。思う存分向かってきなさい!」
すごい迫力。やる気が物理的に僕にのしかかってきてるんじゃないかと思うような圧を感じる。
そう言えば、サフィー母さんを怒らせた時もよく感じるな……これも技術の一つなのか?
これに関しては追々探っていこう。今はただ全力で挑ませてもらう!
「はい! アッシュです! フェーグさんお相手お願いします!!」
「おめえは最後だバカ坊主!! 最初っからお前相手にしたらめんどくせえんだよ!!」
「じゃあゼフィア先生!!」
「すまないアッシュ。右に同じだ……あとはエレアにも同じ事を言っておこうか」
「「え゛え゛〜〜!!」」
鼻っ柱じゃなくて、勢いを削がれたんですけど!




