僕、頭を整理する
教会で四人仲良く項垂れながら知らない神様や霊獣の事を相談し終え各々の家路に着く。
村長さんが僕を家まで送ってくれるそうで、陽が傾き始めてオレンジ色に染まった道を二人してとぼとぼと歩いた。
「……村長さん、とりあえずまた明日、僕のつくった神様の像持っていくね?」
「おぅ、そうじゃな。そうしておくれ……あぁそうじゃっ。ついでと言ってははなんじゃが絵描きも呼ぶ故、霊獣の見た目を出来る限り詳細に鮮明に教えておくれ」
「えぇ、分かりました。憶えることは得意なので任せてくださいっ」
そんな会話をしている内に気が付けば家に着いていた。
村長さんは疲れた様な笑顔を浮かべながら、ご両親を呼んで来ておくれと僕を送り出す。
そんな村長さんに罪悪感と感謝を感じながらも家のドアを開けてカル父さんとサフィー母さんを呼ぶ。
僕の帰りが遅かったからかすぐに駆け寄ってくる二人の足音に心が温かくなりながらも、明日には今の僕と村長さんの様な疲れた顔になるのだろうと思うと申し訳なくなる。
「村長さん、今日は色々とありがとうございました。ご迷惑もおかけして……その、ごめんなさい」
「よいよい。村の子どもを守るのも村長の、そして大人の役目じゃ。アッシュよ、お主はお主のやりたいようにやりなさい。生きたい様に生きなさい。今日はゆっくりと休むんじゃぞ? ほっほっほ」
僕は大きく頷いてから家に入り、カル父さんとサフィー母さんに外で村長さんが呼んでいることを告げると食事の用意が出来ている食卓に座る。
エレアお姉ちゃんが何か話しかけてきているのは分かったのだが答える気力が無い。
僕はそのまま食卓の椅子に座ったまま眠ってしまった。
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目が覚めると僕はエレアお姉ちゃんと同じベッドに入っていた。
家族のみんなはまだ眠っているようだが、外からは小鳥のさえずりが聞こえて来るので、おそらく日が昇り始める少し前と言ったところかな。
どうやら僕は、晩御飯も食べずに眠ってしまったようだ。
余程疲れていたんだろうね、ねっウィンドウさん。
…………
反応は無い。仕方無いか。
にしても、なんと言うか。昨日はウィンドウさんと霊獣にことごとく振り回された一日だったな……。ウィンドウさんに加護を貰って、霊獣と寛いだら舐められて姿を一目見せてくれて、霊獣と接触したことでゼフィア先生と獣人の長であるフェーグさんに詰め寄られて、村長が気を利かせて教会の部屋を貸してくれて話をしていたかと思えば、種族が生まれた理由を知って……。
挙句の果てには、自分の能力を確認できる能力を突如として与えられて、それに村長さんがおったまげて……濃い一日だった。
みんなを起こさないように寝室から抜け出して、顔を洗う。
まだ空は暗く、東の空が白み始めようとしているくらいだ。
なんだか未だに現実感が無い。神様や霊獣や、これからの自分の立ち位置、全部が信じ難い。
僕はそんな大層な人間じゃないのに。僕は大きな事を成したいとは思っていないのに。
僕を取り巻く環境が一気に変わり過ぎた。
「はぁ、駄目だ。思考がまとまらない。もう一度昨日の会話を思い出して、かみ砕いて、飲み込んでいこう。こういう時こそ【記憶】スキルが役に立つんだ」
ゆっくりとゆっくりと昨日の教会での会話を思い出していく。
そう、霊獣の力を分け与えられた人間が、エルフや獣人、ドワーフの祖先となったんだ。人の種族を変えてしまうほどの力を分け与えられる霊獣との交流をどの国も欲しているから、僕のことがバレてしまえば、身に危険が及ぶと言う話。
そしてどうせ危険が及ぶなら、それに備える意味でも僕を鍛えてほしいと申し出たんだ。三日後にコルハの家に来いって言ってたっけ? あっもう二日後か。
それでその後、何か言ってたんだよな。確か……『霊獣がお前に力を貸すって時点で、人種族同士で争う段階はとうに過ぎ去ってるってことだな』これだ。
霊獣が人間に力を貸したのは、精霊や霊獣だけでは世界の魔力のバランスを保てなくなって、凶悪な魔物が溢れだした時。
もし、僕と霊獣の出会いが意味のあるものだとしたら、そんな混沌とした世界が訪れようとしていることになる。
…………どうか僕と霊獣の出会いが意味のないものでありますように!
そう言えば、ウィンドウさんぽろっと言ってたっけ。『霊獣はあの場所で休息をとる必要があった』とかなんとか。
だとしたら、霊獣が僕のところに来たんじゃない、僕が霊獣の居るべき場所に居ただけだ! じゃあ大丈夫だな! うん、そう思っておこう! その方が心に優しいもん……。
そして最後に、自分のスキル一覧を見れるようになりましたよっと。相手のスキルは見れないらしいので、完全に僕の自己満足の為のスキルだな。
自分が何が出来て、何が出来ないのかが一目でわかるのは有り難いけど、微弱ではあれど回復魔法が使えるのにスキル一覧に回復魔法が載っていなかった。
もしかすると、一定の基準を超えた練度に達しないとスキルとしては認められないとかなのかな?
基準が分からないと参考にも出来ないし、さらに言えばプラネタリウムがスキル一覧に載っていたことから、光魔法とはまた別の技術として認められたのだろうか? ならばその差異は? 土壌活性もそれに近いか。
アビリティサーマライズに関しては、ゲームで言うところの称号やトロフィーといった記念となるものという認識でいようかな。現状、最もどうすることも出来ないものがこれだからね。
……こんなもんかな。うん。
強くなる。それだけ分かってりゃいいや。
あーでも、ウィンドウさんには疑問がいっぱいあるんだよね。
一体何の神様なのかとか、どうして他の神様の像の台座にウィンドウさんの菱形が刻まれているのかとか、貰った加護の内容とか……。
とりあえず、自作のウィンドウさん像に祈りでも捧げつつ、疑問と文句を垂れておこう。
…………それでも反応は無かった。
自分に都合のいい時だけ話しかけてくるんだもんな~ちぇっ。
その後は、みんなが起きてくるまで瞑想したり木剣を振ったりして訓練に費やした。
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朝、みんなが起きてきて朝食を取ったあと、真っ先に家族みんなで教会に向かうことになった。
そう、「家族みんなで」だ。
カル父さんとサフィー母さんの考えとしては、エレアお姉ちゃんを除け者にする方が後々面倒になるとのことだ。
これ以上ないくらい理解できた。それに僕自身、エレアお姉ちゃんに隠し事をするのが堪えそうだったので助かったと言うのが正直な思いだよ。
道中、僕は僕が作った神像を抱えているので、エレアお姉ちゃんが手を繋げなくて寂しそうにしていた。
申し訳ないが、流石に僕も恩神をぞんざいに扱うことは出来ないので、教会まで寂しい思いをしていてほしい。ごめんね?
でも、そんなエレアお姉ちゃんを見て子煩悩な二人が放っておくわけもなく、見ていて微笑ましくなるぐらい二人に構い倒されていたよ。
気を使われてるのに気づいたエレアお姉ちゃんもおざなりな対応が出来ず、途中からは楽しそうだった。……本当に良い家族だ。
賑やかな道中を終え教会に入ると、村長さんが教会の隅にある扉の前で手招きしていた。
僕らはすぐに手招かれた、昨日嫌と言うほど長居した部屋に入る。
「朝早くから助かるのぅ。おや、お姉ちゃんにも話すのかい?」
「えぇ、エレアはとても勘が良いので変に隠すよりも素直に打ち明けてしまった方が良いと考えました」
「そうか、父親譲りなのかね? ほっほっほ。 じゃがその前に、アッシュ君の持っとるその神像を見せてはくれんか?」
「はい。どうぞ」
村長さんに応えながら、僕はウィンドウさんの神像を机の上に置く。
「おぉ……おぉぉぉぉ。こちらの神様は何と言う神様なのか教えてもらえるだろうかアッシュ君…!」
「えぇっと……正式名称は知りませんし、この神像を気に入ったと言っていただけで、この神像の形をしているわけではないと思いますが、それでもこの像は神像でよろしいのですか?」
「見なさい、台座のこの菱形が連なった模様を。これは象られた神自身が認めた神像にのみ刻まれる模様でね、それが刻まれた神像はたしかに神像なんだよ。さらには、この模様が刻まれた神像は傷つくことが無くなるそうだ、まさに神の御業と言える」
本当に傷つかないのかはさておき、れっきとした神像であることはたしかと言う事か~。
「それで、この神像の神様は一体何と言う御方なのか教えてくれないかい? アッシュ君が普段呼んでいる名前で良いから教えておくれ?」
「……ウィンドウさんです」
「ウィンドウと言うんだね……ウィンドウ神……今まで御身の存在に気付くことが出来ず大変申し訳ございません。そして、これからはどうか、我らを見守りお導き下され……」
村長さんがそう言いながら深く祈りを捧げていると、《《何も刻まれていなかった》》台座の菱形の模様の内側に言葉が刻まれていた。
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「ウィンドウさん」です。お間違え無きよう
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僕がつけた適当な名前気に入り過ぎだろおおお!!!!




