僕、出会う
朝起きてすぐに昨日つくったウィンドウさん像を見に言った僕は状況が飲み込めなかった。
どうして台座にウィンドウさんの菱形が刻まれているのか。どうしてそこに文字が刻まれているのか。
そして……どうして前世の僕の名前が刻まれているんだ!?
いや分かるけど刻まないでよ……。
「書いてある内容的にウィンドウさんがやったんだよね? これ……加護とかどうでもいいから文字消してよ……」
前世を捨てるつもりは無いけど、それはこの世界の人が知る必要はないし、余計な混乱を招くだけだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
配慮が足りず申し訳ありません。
加護はすでに与えてしまったので取り消せません。
それでは。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
うわあ!? 文字変わったあああ!?
……あれ、なんか怒ってる? 言葉がさっきと比べるまでもなく素っ気ない気がする。
「えっ待って、そもそも加護ってなんだ? なんか意味があるの? ウィンドウさん!? ウィンドウさん!」
やっちまったぁ……最初に書いてあった文面的にオリジナリティに溢れていたとは言え、像をつくってもらえて嬉しかったんだろうな。
そのお礼に加護をくれたんだろうに、それを無下にして文字消せって言ったんだそりゃ怒るか。
「だとしても加護の内容くらい教えてよ」
◇教えません◇
「うわああ!!?」
なんか出たあああ!!!
四角の枠の中に菱形で挟まれた文字が目の前に突如出現した。驚くなと言う方が無理な話だ。
なんなんだ? お茶目か? なんでこんなに遊び心満載なんだよこのウィンドウ。
というか、これが加護の内容なのか? ウィンドウさんとおしゃべり出来る加護?
有り難いような有り難くないような……。
◇当分の間は教えません◇
思考まで拾って来るらしい。そしてさらに怒らせてしまったらしい。
にしても神様とはこんなにも気軽に接触できるものなんだな。この世界の信仰心の強さが良く分かる。
実際に存在し、加護と言う形で手を貸してくれる(?)存在なのだ、信仰されて当然だ。
だが、それならば何故ウィンドウさんは神として祀られていないのか。話にも聞いたことは無いし、祀られていれば僕が神像をつくっただけでこの様なアクションを起こすはずがない。
弱小神様? それとも生まれたばかりの神様?
僕の転生には実は何か意図がある可能性。何もしなくて良いとは言ったが、何もしなくて良いとは言っていない的な?
「ウィンドウさんは何を求めているの?」
…………
「ウィンドウさんは僕にあなたと言う存在を広めてほしいの?」
…………
その後何を問うても返事が帰ってくることは無かった。
・
・
・
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ウィンドウさんの事を考えてしまい稽古にも身が入らず、エレアお姉ちゃんにも心配されてしまった僕は、自分を落ち着かせるためにもドライフルーツを持って丘の上の大樹にまた来ていた。
いつもの如く、大樹に背中を預けて転がり、ドライフルーツを口に含み、おいしい水で口の中の酸味や甘味を流していく。
ここの緩やかに流れる時間を感じて、目を閉じる。
……ウィンドウさんは転生する前も今朝も、自由に生きろと言っていた。
そんな中で像をつくってもらえて嬉しかった、そして僕の感謝に応えて加護を与えるとも。
本当に純粋にただそれだけの理由で加護を与えてくれたのだとしたら……すごく失礼なことをしてしまったかもしれないな。
「ごめんね、ウィンドウさん。加護をくれてありがとうね」
…………
返事は帰ってこないけど、今はそれでいいや。
また話す機会は来るはずだ。その時にまた謝るし感謝も告げる。今はそれで良い。
「うん、すっきりした! 納得できた! 今はこの極楽を楽しもう」
空を眺めて、村を眺めて、木の葉が擦れる音に癒されて、またしても僕が大地に溶けていく。
でももう怖くない。今はとても心地良い。
そうして寛いでいると、僕の横の草が倒れていることに気付いた。
風で靡いて倒れているのではなく、何かが上に乗っているように倒れている。
えっ怖い……。
目に見えないものがそこにあるように見えるが、命を感じてみても分からない。
魔力視はどうだろう……視えた、のか? これは。
膨大な魔力が生き物の形をとっているように見える。
すごく大きいことが分かる。四肢を曲げてお腹を地面につけているから四足歩行の動物なのは分かるが大きすぎてイメージが追いつかない。
もう一つ分かるのは尻尾が多いことくらい。
次から次へと今日は何なんだよ……流石にキャパ―オーバーだ。
もういい。何も気にせずのんびりしよ~っと。
横の謎の存在は無視して僕は再度ドライフルーツとおいしい水を飲み口内の幸せに目を細めていたのだが、僕のすぐ隣の草が倒れだした。
いや流石に怖い。
なんなんだ、何も感じないことが余計に怖い。
……察するに、ドライフルーツか僕のつくる水に興味があるのかな?
「良かったら、食べる?」
そう問うと、周囲の空気がゆっくりと変わっていく。
澄んでいくような、綺麗で心地の良い空気になったのだ。
僕はこの時、果てしなく遠い目をしていたと思う。
何せ空気が浄化されるのだ、理解が及ばない。埒外の存在だ。
きっとこやつが霊獣に違いない。ドライフルーツと水で釣れる安い霊獣さんだよ。
ドライフルーツを片手の上に十数個ほど乗せて、魔力視でもって口と思しき物の前に差し出す。
「噛んで食べると、甘味や酸味が溢れ出てきて美味しいんだよ」
僕の言葉を聞いた後にゆっくりとドライフルーツが半分ほど浮き上がった後に消えた。
獣って頬袋がないから口の中で噛めない気がするけどどうなんだろう。
そんな風に考えていると、空気がまた変わった。
今度は浮足立つような、高揚感のある空気だ。
なんだその空気はと言いたいけど、そう感じるのだから仕方がない。
なんにしても、お気に召している可能性が高いので、ここで僕のおいしい水をいつもの水球の三倍くらいの大きさで出して飲むように言ってみる。
「ドライフルーツの味をこの水で流すように飲むんだ。そうすると水の味も変わっておいしいんだよ」
今度はすぐに動き出し、口と思しき場所から舌の様なものを出して水を掬い取って飲んでいく。
空気がまた変わった。
今度はまた落ち着いた空気に変わっていく。それと同時に強めの風が吹く。
三度目だからね、もう驚かないよ。
にしても今の風ってため息かな? 幸せをかみしめる時に出るあのため息。
良いね、分かってるね霊獣さん。ちょっと人間臭いのポイント高いよ。
「この組み合わせが良いんだ。それをこの場所で食べるのが僕は好きなんだ。君も気に入ってくれたなら嬉しいよ」
それからしばらくはお互い喋らずにただぼんやりとしていた。
僕がドライフルーツをつまむ時に口らしきものがこっちに向くので一緒に食べて一緒に水を飲んで口から溢れた幸せを風に乗せてお裾分けする。
僕の手持ちのドライフルーツが無くなると僕らは同時に立ち上がった。
「それじゃあ、僕はそろそろ村に帰るよ。またね」
「くるるるるううぅぅ」
「っ!?」
鳴いた。その後、舌みたいなものに舐められた。
びっくりして肩が跳ね上がっちゃった。鳴くなら鳴くと、舐めるなら舐めると言ってくれ、心臓に悪いよ。
舐められた場所は不思議と濡れたりはしていなかった。なんなら良い匂いがする。害が無いならもう何でもいいや。
「びっくりした~もう。まあいいか、またね!」
僕が手を振りながら村の方に歩いていく時、一瞬だけ姿が見えた。
それは大きな白い狐の姿をしていた。凄まじく大きく長い尻尾が五つほど生えた白い狐。
一瞬だけ見えた幻想的なその姿に僕は思わず足を止めて魅入ってしまった。
だが、当の狐さんは姿を見せたすぐ後にはかき消えるように居なくなっていた。
「まったく、最後まで心臓に悪いんだから……」
僕の信仰対象がまた増えた瞬間だった。
次は五尾の白い狐の像か、腕が鳴るね!




