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転生する時に選んだ【記憶】スキルが自重を忘れてきた  作者: ゆらゆら


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僕、自身の自重を捨てる

 あれから一週間と少し経った。

 結局、霊獣がいなくなることで起こる可能性のあった氾濫は起こらなかった。

 霊獣は住処を離れてから三日程で戻ってきたそうなのだ。

 霊獣ほどの濃密な魔力は一週間——この世界で五日間——ならまだしも三日そこらで霧散することはない。よって、村が被害を被る事も、死者が出ることもなかった。


 僕とエレアお姉ちゃんはとんだ赤っ恥をかくことになった。

 霊獣が三日で帰ってきたと分かった時には、喜んで喜びつくした後に、羞恥心が湧いてきたのだ。僕らはそれから三日ほど家の周囲からは出なかったね。


 でもね、何も起こらなかったから良かったものの、村のやつらめ……あの時のことを肴にするのも、揶揄うのも神経を疑う所業だ。

 ……揶揄ってきた奴の顔と名前は【記憶】してやったよ。俺は《《忘れねえ》》からよ、憶えとけよ!



 まあ、怪我の功名と言いますか、なんだかんだ僕はすごく大事なことを学ぶことが出来た、そこは感謝しても良い。


 今回の出来事は総合的に見てプラスマイナスで言うなら…………圧倒的にマイナスですう!!

 はーやだやだ。まだ時々あの日のことを思い出しては震えてるんだからね!? 眠る前に思い出した時なんておねしょをしてしまった。

 僕の三つ目のスキル【浄化】で事なきを得たが、【浄化】の最初の使いどころがまさかのおねしょの処理とは思わなかったよ。使用用途は排泄物の処理を想定していたとは言えね、おねしょかぁって…………。


 一応、【浄化】スキルのおかげで隣で寝ていたエレアお姉ちゃんにそれがバレることはなかった。さらには布団もベッドもめちゃくちゃ綺麗になった。綺麗になり過ぎて怪しまれたくらいだ。思わぬ副次効果だったよ。


 ……はあ、過ぎた話を蒸し返しても仕方が無い、この話は頭の片隅に追いやろう。


 季節はまだ春。

 最近はだんだんと日差しが強くなってきており、気温が上がってきている。

 今日はつい先日僕が決めた、稽古も何もない一週間に一度の休息日なので、久しぶりにあの丘の上の大樹の下で涼んでいるところだ。


 一人でここに居るのだが、見える景色も感じるものも大きく変わって見える。

 村の強さを知り、歴史を少し知り、優しさも、血生臭さも知った。


 そりゃ変わって見えるか! 僕らがずっと守られてきたことを自覚したんだもんな。


 ……前回ここに来たときは、悪ガキ四人組で来て、後からエレアお姉ちゃん率いる年上女性陣が来てひっちゃかめっちゃかになったんだよな。

 くつろぐ暇もなく、羽を伸ばすこともなく、タフな子ども達だよまったく。


 過去を振り返りながら、大きく息を吐き体を伸ばすが、全身が筋肉痛でしんどい。


 実は、家周辺に引きこもった三日間のうちに話し合いをして、稽古を普段より厳しくしてもらい、基礎トレーニングも二倍に増やした。魔法に関してもどんどん専門的な方向に深堀りして教えてほしいとエレアお姉ちゃんと一緒に頭を下げた。


 僕らの覚悟を感じ取ってくれたのか、了承はしてくれたが無理だけはしないようにと念を押された。


 その稽古の成果がこの全身筋肉痛だ。これの一番の要因は、打ち合い以外での身体強化の使用をやめた事があげられる。

 筋トレも、ランニングも、受け身も、素振りも全部自力で行う。幼いうちに鍛えると身長が伸びにくいという話も聞いたことがあるので、過度にはしていない! はずだ……。

 でもこの痛みこそが努力の証にも思えて癖になってしまいそうだ。


 筋肉痛をこらえながら、寝転んで僕らの村を眺めていると、僕ではない誰かの足音が耳に入る。それもほど近いところに居る。


 今ここに居るのは僕一人で、音も風に揺れる葉が擦れる音ぐらい、なのにすぐそこまで人が近づいていることに気付かなかった。

 恐る恐る、音のした方を確認してみるとそこにはゼフィア先生が立っていた。


「どうしてゼフィア先生がここに? と言うか、いつからそこに?」

「つい先ほどだ。村からここに一人で誰かがいるのが見えてな。確認のために来たら君がいた、という訳だ」

「ああ、それは、ご迷惑お掛けしました」

「全くだぞ。霊獣が帰ってきたとはいえ、ここを離れていた影響がまだ残っているかもしれないんだ、あまり迂闊なことはしてくれるなアッシュ」


 村からここに人がいることに注意が向いたことがそもおかしい気がするが、この世界の強者はそれが出来ると言うなら、僕もいつか出来るようにならないとだな。


 それはそれとして、心配をかけた上にわざわざご足労くださったらしい。


 この村の人は基本的にとても優しいね。僕を揶揄ったやつら以外はだけどね?


「それは大変申し訳ございません。そして心配してくれてありがとうございます。……ですが、今の僕はそこまで弱くないですよ?」

「ほう? 言うじゃないか? 私には筋肉痛が辛そうに見えるが?」

「うぐぅ……この程度の痛みならある程度は無視できますから! それに、僕は僕なりに強さを求めて少しだけ手に入れました。この見晴らしの良い場所で魔物と一対一なら逃げることは難しくありません」

「君が明言するほどか。少し興味があるな、私に見せてくれないか?」


 ……! これはとても都合が良い展開かもしれない。無理を承知でお願いだけでもしてみるか!


「僕の強さを見せる代わりに、ゼフィア先生にはお願いを一つ聞いてもらいますがよろしいですか?」

「……けっ結婚は、もっと大きくなってからだぞ?」


 顔を赤くしながら言わないでください! こっちが恥ずかしい!


「違います! 結婚じゃないですっ!!」

「っ……そうか。それはすまない。ではお願いとは何だろうか?」


 何でちょっと残念そうな顔するんだこのエルフ!? 

 僕まだ六歳だよ? 正気か? いや、早いうちの婚約なのか??

 って今は良い、ちょっと問い詰めたくなるけど、本題に入ろう。


「おっほん! ……ゼフィア先生さえ良ければ、僕に稽古をつけてもらえませんか」

「ん~、そう言ってくれるのは嬉しいが、生憎私はあまり暇が無くてな」

「実際に稽古をつけなくても、ちょっとしたアドバイスとか、方向性だとか、そういうものを教えてもらえるだけで十分です! それでも駄目ですか?」

「それだけなら、まあいいが。だがアッシュ、君は何を学びたいんだ? 私が教えられるものでなければ、土台無理な話だ」

「気配を探る方法を教えてください。さっき僕はゼフィア先生の接近に全く気付けなかったので」

「なるほど……了解した。それならば交渉成立だな! ではさっそく君の強さを見せてくれ」

「約束ですからね? ふぅ、それではお見せしましょう」


 なんとか話がまとまって良かったあ~。

 カンロ村でも指折りの実力者にちょっとした指導をしてもらえるなら願ったり叶ったりだ!


 そいじゃあ、約束通りお見せしようかな。

 稽古では使わなくなったけど、魔力操作の色んな使い方を試した結果至った、新・身体強化を!



 第一の身体強化は、単純に体の隅々まで魔力を循環させることで発動していた。

 第二の身体強化は、指向性をもって魔力を動かし、骨と筋肉と皮膚に重点を置いたものだ。

 そして今回お見せする第三の身体強化はというと、魔力そのものの密度を上げた上で第二の身体強化を行うというものだ。


 これの恐ろしい点は、単純に出力が跳ね上がることだ。

 魔力を粒子として見た時の魔力一つ分の大きさに、三つ分の魔力を押し込め練り上げる。

 そしてその魔力を全身に均等に配分して行く。この時しっかりと動体視力関係にも割り振ることを忘れずに。ついでに聴覚もだな。

 風で音が拾えないのは致命的なデメリットに成り得る。

 ゆくゆくは、身体強化と風魔法を併用して風圧や風切り音を無効化したいと思っている。


 とまあ、圧縮からの循環からの骨、筋肉、皮膚への浸透。

 ある程度は全身を漠然と強化する。血管や神経が切れても嫌だしね。


 と言うか実はこれ、ほとんど苦労せずに完成した技だ。おそらく【魔法の才】ががんばってくれた。そしてそれを【記憶】したことで、アレンジも加減も出来る。

 ほんとこの二つのシナジーが強すぎる。


「出来ました。それじゃあ、丘を降りてからまた昇ってきますね!」


 一先ず靴だけは脱いでおく。おそらく靴が耐えられないだろうから。


 僕が裸足で地面を蹴ったその時、土がめくれ上がるような感覚を覚えた。

 踏み込んで、土がえぐれると同時に十数メートルは進んでいる。


 今の脚力は馬の獣人のポーラすら余裕で凌駕していることだろう。


 だが、やっぱり風が轟轟と五月蝿い。

 皮膚も強化していなかったら、目蓋や口が捲れていそうだ。


 そんなことを考えている間にもう折り返し。

 丘の下から上るということで、先ほどよりも強く踏み込んで跳んでみる。

 蹴った部分にちょっとした穴が出来ているな。


 まだまだ余力はあるけど、この場所には合わないな。

 それか僕がまだ持て余しているんだろう。

 魔力の密度は三倍程度なのだが、次はもう少し減らしてみるか。


 頭を回す余裕もあるので、ブレーキもしっかりとかけられるし止まれる。うん、とりあえずは及第点。悪くないね!


「まあまあかな、どうでしたか? 逃げるくらいならいけると思います」

「あっ、あぁ………オーガの頭を蹴りで叩き割れそうな身体能力だな…………」


 そのちょっと引き気味の反応は認めてくれたってことでいいのかな?


 あとやっぱりオーガっているんだ。ゼフィア先生の鬼畜さを例える時に使ったけど、実在するのかは知らんかったんだよね。

 やっぱり角が生えてて、筋骨隆々で、赤い肌をしてて、悪人顔なのだろうか?


「君のそれはいったいどうやっているんだ、アッシュ……」

「えぇ? 知りたいんですかあ?? それなら新しい交換条件が必要になりますね~?」

「結婚はまだ出来ないが、婚約なら……まあ……」

「誰もそこまで言ってないですよお!!」

「ふっふふ……冗談だよ。でも本当にすごい力だ。だからこそ言わなければならないな。アッシュ、力に飲まれるなよ。その力は人に向けて良いものではないぞ」

「ああ、それに関しては心配いりません。そもそも人前で使う気もありませんでしたし。もっと言えば、この力は僕の大切なものを守るための力です。そして楽をするための力です。……そう決めています!」


 そう、これは、《《僕にとっての大切を》》守るための力なんだ。それを壊そうとするものや奪おうとするものに容赦するつもりは無い。

 楽をするためっていうのはそのままの意味だけど、力なんてあればあるだけいいからね、魔力や魔法の改造、略して魔改造をやめるつもりは無い!


 それに、力の使い方をきっと僕は間違えない。

 僕の中には、一度かいた赤っ恥も、家族を失ったかもしれないと言う絶望も、その後に固めた決意も、全部そのまま、《《忘れず》》残り続けるのだから。


「楽をするため、か。それはいいな! では私も楽をするために、気配に関するアドバイスを先んじて出しておこう。気配とは、命であり魔力でもある。どちらかでもあり、どちらもでもある。上手く掴んでみせろ、アッシュ」

「……命と、魔力……」


 正直全然わからない。

 魔力は魔力視をより高精度に出来れば、サーモグラフィー並みに見分けがつくかもしれないけど、命…………?? わっからない。


「アッシュ、悩んでいるところ悪いが頼みごとを二つ良いだろうか?」

「ん? ああはい、僕に出来ることなら」

「では、明日からサフィー殿の魔法の稽古にジェイナも加わることになってな、面倒を見てやってくれ」


 おお、ジェイナが。まあ焚き付けたの僕だし責任は果たすべきだな。

 そう言えば身体強化はずっと使ってたみたいだし、第二の身体強化を教えてみようかな?

 明日が楽しみになってきたな!


「ああ~。そういうことでしたら、喜んで! それで二つ目は?」

「うむ。よろしく頼むよ。二つ目は——」



「なんか色々勘弁してください……」

「楽が出来て私は助かったよ! ありがとうアッシュ!」



 ゼフィア先生の二つ目の頼み事はとても簡単でとても苦しいものだった……。


 ——二つ目は、私を抱えて村まで送ってくれと言うもの。


 ええ、抱えましたとも。身長的に背負うことは出来ないので、必然お姫様抱っこになった。

 ゼフィア先生って僕の中のエルフ像に合わないレベルでスタイルも良いから、いろいろ当たってて男の子として辛く苦しかった……。


 なんで僕は同年代じゃなくて、年齢不詳のスタイル抜群の美人エルフさんとラブコメのイベントじみたことをしているのだろうか?


 とりあえず釘だけは刺しておこう。


「ゼフィア先生は良い匂いがして柔らかくて、細くて、抱えて走ってる時なんて笑顔がとっても可愛くて……いろいろと気を付けてくださいね? 他の男の人にこんなことさせたら襲われちゃいますよ」

「ばっ!! きっきみ以外に頼むわけないだろう!」

「それはそれでどうなんですか!?」


 釘さしたら、さし返されたような気分だ。

 ゼフィア先生フラグ立ってます。と言わんばかりのセリフだよ。いつ攻略ルートに入ったんだ? 結婚どうのこうの下りだけで入っちゃったのか??


 いつもの如く透き通るような白い肌を真っ赤に染めて、前世の価値観に合わせてみても可愛らしい人だ。思わず微笑んでしまう。


「笑うな馬鹿者! 早く家に帰れ! 馬鹿アッシュ!」


 そんなことを言いながら、少し雑に頭を撫でられた。

 僕を撫でた後すぐに歩き出し振り返らずに手を振って去っていった。


 去り際も、耳の先は赤く染まっていた。



 その後なんとなく、撫でられた頭を自分で触ってみた。

 僕よりも大きな手で、僕よりも子どもっぽくもあって、僕よりも硬い手だった。

 それと少し、良い匂いがした気がした……。


 頭を振って僕は家へと駆けだす!

 これ以上は何かが危ない!!



 翌日、夢にゼフィア先生が出てきて重症だと思った。

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