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転生する時に選んだ【記憶】スキルが自重を忘れてきた  作者: ゆらゆら


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僕、魔法は美しいと思う

 剣の稽古はその後も続けられたのだが、今日のエレアお姉ちゃんはいつにも増して勢いがあって凄かった。


 エレアお姉ちゃんは剣の才能というか、戦闘の勘が非常に良い。

 カル父さんの意表を突いた攻撃をほぼ見ずに防いで見せたり、戦闘法が柔軟で土を蹴り上げたり、剣で打ちながら蹴ったり殴ったりしている。


 実戦的というのだろうか、野蛮というのだろうか……戦う上ではどちらにしても厄介なことに変わりはない。


 さらにはカル父さんがそれを褒めて伸ばす物だから、最近は相手の死角や呼吸にまで気を使い始める程で、戦闘民族化が心配になる。



 エレアお姉ちゃんに、稽古でカル父さんと戦っている時に何を考えてるのかを聞いてみると、あんまり考えてないのだとか。

 目に入るものだけじゃなくて、音や空気の振動を感じたりしてたら勝手に体が動くのと言っていた。


 僕、いつか稽古で地面に小さなクレーターを作って真ん中でうつ伏せに倒れてないかな? 無茶しやがって! って。

 でもお陰で五感から入る情報全てが大事なのだと認識できたので感謝してる。


 まあ現状、僕にはパゥワァー! が必要だから、戦闘技術は二の次だね!


 そんな事を考えつつクールダウンの柔軟をしていると、カル父さんが話しかけてきた。


「アッシュは戦う際の行動に無理が無くていいね。受けるのもとても上手い。ただ今はもう少し体が出来上がるのを待たないとね? エレアは体も大きくなってきて、もう十分戦えそうだ。少し早いけど、今度の魔物や動物の間引きに一緒に来るかい?」

「えっ!? 良いの! 私行くよっ、絶対行く!」

「身体強化を使えば僕もそこそこ戦闘できると思うんだけど……」

「アッシュはまだ六歳だからね~流石にね? 十歳になった時、アッシュにその意思があるなら、その時は一緒に行こうか」

「は~い」


 どうやら、エレアお姉ちゃんは一足先に魔物との戦闘を行うようだ。


 怪我しないといいのだけど……。


 その後は、家の裏の地面を僕が魔法の練習がてら直してから夕飯を食べる。


 夕飯時にはカル父さんが僕らの成長が余程嬉しかったのかよく喋っていた。稽古は終わったというのに、ずーっと「あそこは良かった」「あんな動きは教えてないのにすごいっ」とか褒めちぎっていて聞いてる僕らが恥ずかしかったほどだ。


 エレアお姉ちゃんと一緒に照れながらもそもそとご飯を口に運んでいると、急にドンドンドンッとドアが叩かれる。

 すぐにカル父さんが席を立って対応してくれる。

 すると、扉の前からは動かずにこちらを振り返る。


「サフィーこの後時間は空いてるかい?」

「っ……ええ、いくらでも」


 デートのお誘いのように聞こえるが、二人の顔が物語っている。これは緊急性のある話だと。

 場の空気を感じ取ってか、エレアお姉ちゃんも体がこわばって警戒しているように見える。


「エレア、アッシュ、今日は二人で仲良く寝てちょうだい。お母さんとお父さんはロマンチックな夜のデートに行ってくるわ!」

「エレア。アッシュのことを見ていてあげてね? お姉ちゃんに任せたよ!」

「うん。……いってらっしゃい。早く帰ってきてね?」

「「行ってきます!」」


 そう行って二人はすぐに家を出ていった。

 家の横にある物置小屋に向かったのが音でわかる。そこで少しガサガサすると二人の足音が先ほどと違って聞こえてくる。

 金属の擦れる音や、何か棒を突くような音も聞こえる。おそらくは戦闘用の装備に着替えたのだろう。


 つまり、あの二人が装備に着替える必要のある事態が迫っていると言える。

 だが僕は六歳だ。何が出来るわけでもない。まだ力をつけていない。何もできない……。


 ふと、エレアお姉ちゃんが静かなことに気が付く。一体どうしたのかと目を向けると、訳知り顔で両手を握りしめたエレアお姉ちゃんの姿があった。


「エレアお姉ちゃん。これどういうこと? 何か知ってるでしょ、教えてよ」

「……アッシュももう少し大きくなったら教わってたと思うけど、分かった、教える。でも落ち着いて聞いてほしいの。何度もあったことで、これまでも乗り越えてきたことだから。だから、騒がず今日は私と一緒に早く寝ること、約束して?」

「……約束する。エレアお姉ちゃんと一緒に寝る」


 一瞬、エレアお姉ちゃんの願望が入った約束をさせられるのかと思ったけど、顔が真面目だった。茶化すことも躊躇われるほどに。


「うん、約束だよ。それじゃあ言うよ。カンロ村は霊獣の住処の中にある村でしょ。霊獣の力を感じて強い魔物が入ってこない、でも自然がいっぱいである程度の魔物や動物はすごい勢いで増えてしまう。だから、頻繁に間引く必要があるの」


 すごく納得のいく話だ。実際カル父さんは結構な頻度で間引きに赴き、美味しい獲物をお土産として持って帰ってきていた。

 だが、だからこそ分からない。あれだけ間引きを行っていたというのに、なぜこんな日が落ちた後に戦闘用の装備を着る必要があるんだ?


「大事なのは、ここが霊獣の《《住処》》ってことなの。私たちで言えば、家になるよね? でも私たちはずっと家に居るわけじゃない。それは霊獣も同じってこと」

「それって、今周りの山には霊獣がいないってこと?」

「そう。そして霊獣がいないってことは、霊獣を恐れて近づいてこなかった魔物たちが山に入ってくるということでもあるの。本来なら霊獣の魔力に警戒して入ってこないけど、霊獣は一度住処を出ると、一週間は帰ってこないんだって。長いときは一月も」

「仮に一月も離れていたら、霊獣の魔力も弱まって強い魔物たちが入ってくるってことなんだね……」

「今は霊獣がいなくなったことが分かっただけだと思う。お父さん達も、一応で向かっただけだから大丈夫のはずだよ」


 そうか、そういうことだったのか……住処だもんな、ずっと居る訳がない。んで住処を長いこと開けると、よそ者がここぞとばかりに押し入ってくると。

 そのよそ者が強い魔物であれば、弱い魔物や動物たちは怯えて逃げ惑うはず。逃げた先がカンロ村だったということもあるはずだ。


 この盆地を囲う山はとても広大でそこに住む生物の数なんて途方もないだろう。最悪の場合は魔物の氾濫が起こるってわけだ。

 だからこそ、各家庭で戦闘訓練が行われているのか……もしもの時に隠れる力や逃げる力、あるいは戦う力を育てるために。


「アッシュ。大丈夫だからね? お姉ちゃんがいるからね」


 気付けば僕はエレアお姉ちゃんに抱きしめられていた。無意識に力んでいたのか、肩の力や緊張が解れていくのが分かる。

 あぁ……すごく安心する。でもそれと同時に恐怖も感じる。僕にはまだ力が無い、生きる力もなければ守る力もない。強くならなきゃいけないんだ……。


 そのための力を僕は持っている。鍛錬しよう。もっと。魔法も剣も。もっと!


「ありがと。エレアお姉ちゃん。父さんが言ってたように早く寝よう!」

「そうだね! お姉ちゃんがぎゅーってしながら寝たげるよー!」


 今日は、まあ、それでも良いかな? 怖いとかじゃないけど。別に心細いとかじゃないですけど! でもぎゅーってするとお互いに安心するしね?


 僕らはすぐに寝支度を整えて、ベッドに二人並んで横になる。

 だが、気が高ぶって中々寝付けない。それはエレアお姉ちゃんも同様だった。


 折角の機会なので、暇つぶしに僕が練習していた魔法を使ってみようと思う。夜に使うのが最適な魔法だ。



 両手の指を天井に伸ばし、魔力のラインを十本天井近くにまで伸ばす。

 その状態で、サフィー母さんに教わった光の魔法を低出力で使用し小さな光を灯す。


 それらを維持したまま、さらに魔力のラインを増やして小さな光を天井にたくさん出す。

 

「なにやってるの? ……なんか、知らない間にすごい数の魔法を同時に使えるようになってるみたいだけど?」

「練習してたらできるようになったんだ。あとこれは暇つぶし」


 そうこれは、暇つぶし。手慰みにどこまで魔法の数を増やせるかやってみたら、維持するだけなら百近い数の魔法を同時に発動することが出来た。

 だがこの魔法の目的はまた別のところにある。


 少しづつ光の数を増やし、微かな光や、少し強めの光などを天井付近に無数に出す。


「見て、エレアお姉ちゃん。夜空! 星みたいで綺麗じゃない?」

「ふわぁ……ほんとだ、きれ~い。すごいねアッシュ」


 そうこれはプラネタリウムだ! ゆくゆくは部屋の中に光が漂って瞬くような幻想的で立体的なプラネタリウムを目指してるんだ!


 僕は、この世界で戦うつもりなんてなかった。今までみたいに楽しくわちゃわちゃして、畑を耕して、穏やかに生きたかった。

 でもそれは許されない世界。積極的に人間を襲う生物のいる世界。僕らが生きるためには、戦う必要がある。魔法はそのための力の一つだ。


 だが、だからこそ心を癒す魔法があっても良いじゃないか! 怯えて不安を感じる夜に、魔法の光で笑い合えるそんな使い方があったって良いじゃないか!

 少なくとも僕は、傷付ける魔法よりも人に感動を与える美しい魔法の方が好きだ。


 僕は魔法をそういう風に使いたい。

 そんな酔狂な魔法使いが一人居たって別にいいでしょ?


 それに今、僕の魔法で感動してくれる人が隣に居るんだ。僕の魔法に見とれて綺麗だと言ってくれた人がいる。……今はもう寝息を立てているけど。

 命を奪うための魔法だってもちろん練習する。だけど、同じくらい誰かの心を癒せる魔法も作り出していこう。

 そのためにも、今は魔力を使い切るんだ。


 この百近い光の維持には結構な量の魔力がいる。僕の魔力は三歳の魔力に目覚めた当時から多かったのだが、魔法を使うほど魔力の器のようなものが大きくなっていく。

 一度使いきった翌日などにはさらに増えている。


 ……まるで筋肉だ。いじめればいじめるほど、より強靭になる筋肉のようだ。

 僕はひたすら筋トレをすればいいんだ!! 肉体筋トレと魔力筋トレ!


 魔力の器は大きければ大きいほど良い! それに収まる範囲なら魔力も多ければ多いほど良い!

 筋肉はつきすぎないぐらいが丁度良い! 柔軟性を持っていると尚良い!


 明日からはもっと筋トレしよう!


 なーんて真面目に馬鹿なことを考えていると、魔力が尽きたらしい。ひどく気分が悪い。

 馬鹿なことではあるが、真剣な僕の気持ちだ。魔法も剣ももっと上手くなって強くなる。

 そして生きる。やりたいことがたくさんあるんだ。まずはこの世界で生きるための力をつけなくちゃね。


 エレアお姉ちゃんの話によれば、少なくとも今日は大丈夫らしいし、このまま眠ろう。


 明日、またみんなで朝ご飯が食べれますようにと、僕の神様——ウィンドウさんに祈って。






 翌朝、隣のベッドには誰もいなかった。


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