僕、剣を握る?
我が家の最終兵器への日頃からの感謝を忘れていた結果、虎の尾を踏み抜き、そこで家族みんなを巻き込んで褒め称えることで事なきを得た僕たち。
その場は乗り切ったものの、カル父さんとエレアお姉ちゃんの不興を買ってしまったらしく、目の前でこそこそ話しをしていた。今から未来が少し怖い。
魔法の練習は順調というかとどまることを知らない僕。
その僕の魔力の運用法を参考にサフィー母さん、エレアお姉ちゃん双方共に確実に魔法の腕が上がった。
そんな賑やかで充実した一日はあっという間に過ぎ去って行った。
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翌日、魔法の練習を行うのかと思っていたのだが、予想を裏切り今日は剣の稽古を行うらしい。
カル父さんが酷くにこやかに僕を見ながらそう言っていたよ。
我が家の最終兵器はどうやら二つあるらしい。
取り扱い説明書はありますか?? ないですか。そうですか。
きっと待っているのは、昨日の巻き添えからのサフィー母さんをあーんで籠絡して封殺されたことを根に持って居る二人だ。
三歳児相手に無体はしないだろうが、ギリギリを責める稽古かもしれない。どうにか時間を引き伸ばそう。
「今日は外が暖かそうだねー! 僕、魔法で美味しいお水つくっておくよ!」
「昨日アッシュが出してくれたお水が残っているから大丈夫だよ? さあ? 裏庭に行こうか!」
「っ……」
カル父さんが退路を断ってきた!?
……これならどうだ!!
「じゃあお皿洗い手伝うよ母さん!」
「アッシュは先に稽古してて良いよっ? 私がお皿洗うからねっ?」
エレア……お姉ちゃん……!?
万事休すか!?
「アッシュ、剣の稽古は大事よ? しっかり学んできなさい!」
サフィー母さん.……察してくれえぇ!!
「さあ、アッシュ。行こうか?」
「うん……」
カル父さんさんに背中を押されながら裏庭へと出る。
警察に連行される時ってこんな気持ちなのかな。
家の裏口から庭に出ると立てかけてあった木剣を持ってくるカル父さん。
「アッシュのために、アッシュに合う木剣を作っておいたんだ。まずは持ってみようか?」
「あれ? きつーいお仕置きが待っているはずじゃ?」
まさかの普通の対応に思わず言葉が漏れてしまった。
「あっはは! 持ち方も振り方も知らなかったら打ち合いもできないじゃないか?」
「ひぇっ」
「なんて、冗談だよ。やっぱりアッシュは賢い子だ。お父さんやお姉ちゃんがなにを思って考えているのか理解している。何か生まれつきのスキルを持っているのかもしれないね?」
えっ、そんなことまで分かってしまうのか。
「僕、一度見たものや聞いたものを忘れないんだ。これってそのすきる? っていうものなの?」
「おや、そうなのかい? だとしたら、珍しいスキルを授かっているのかもしれないね!」
僕のスキルがどういうものかまでは分かっていないのかな?
「良いスキルをもらったね、アッシュ」
「……うん!」
自分で選んだスキルではあるけれど、カル父さんに褒められるとそれだけで嬉しい。そう思える。
転生者である「俺」を捨てるつもりは無い。でも今の「僕」はカル父さんの息子でいたい。純粋にそう思う。
僕には父さんとカル父さん、母さんとサフィー母さん、そしてエレアお姉ちゃんがいる。
それでいいんだ。僕は俺で、俺は僕で。そして今の僕はアッシュだ。
ありがとうカル父さん。
大した意図はなかったのだろうけど、そんななんでもない一言でまた僕は救われた気分だ。
【記憶】スキル。良いスキルだってさ? ふふっ。
ウィンドウさんに感謝の祈りを捧げておこう。スキルを与えてくれた僕にとっての神様だからね。
「神様、良いスキルをくれてありがとうございますっ!」
「お祈りかい? 偉いねアッシュ。光の神レインリース様のおかげでこの国はとっても治安が良いからね、お父さんも時々教会にお祈りに行ってるよ」
んっ? 光の神レインリース?
「それが僕にスキルをくれた神様なの?」
「うーん、神様のことはお父さんもよくは分かっていないんだけど、僕らが今住んでいるこの国イーティリアム王国では、光の神レインリース様を国で祀っているんだ」
要はレインリース教を国教にしているということか。光の神とは言っているが祀るだけでなにか益があるのだろうか。この世界では神様がもっと身近な存在なのだろうか。
疑問が尽きないが、カル父さんを質問責めすることも出来ない。
いくらか絞って聞いてみようかな。
「そもそも光って何? 一週間は火の日、水の日、風の日、土の日、無の日の五つの属性で五日間だよね? 光ってなくない?」
「ああ、そうか。まだ教えていなかったね。その五つの属性には含まれない特殊属性というものがあるんだ。その特殊属性に光の属性と、光と対をなす闇属性というのがあるんだ。」
特殊属性……光と闇……まだ知らない事が多いなぁ。
今度、村の教会とやらで神様のことを質問責めしてやろう。特に、四角い半透明な神様がいないか聞かなくては!
「ちなみにお母さんの回復魔法は光の属性なんだよ」
これすごい面倒な話なのでは……? 属性と魔法って一致しないんだ。
「僕もそのレインリース様にありがとうって言ったら回復魔法を使えるようになるの?」
「そこは魔法の練習次第じゃないかな?」
あれ? 予想外の返答だ。サフィー母さんのことで感謝を抱いていてもおかしくないと思うのだけど。
「母さんの回復魔法は光属性なんでしょう? 光の神様は関係ないの?」
「実はお父さんも最初はそう思ってたんだ。でもねーー……」
カル父さん曰く、最初はサフィー母さんも教会を訪ねて回復魔法の習得しようとしたみたいなのだが、祈りがどうたら、心の在り方がどうたらと鬱陶しかったらしい。それでも自分の思い描く回復魔法を覚えるために積極的に通っていたそうなのだがある時気付いたんだそうな。
魔法はもっと《《適当で良い》》と。
当時、他にも回復魔法の習得を目指す人たちがいたのだが、その人たちの回復魔法に統一性はなかった。もちろん自分にも。
回復魔法を覚えたころよりも今のほうが回復量や魔力の効率も上がっており、一定以上の回復量を超えると『ローヒーリング』から『ミドルヒーリング』と言われており、それはおかしくないかと。使用者のさじ加減ではないかと。
そこからサフィー母さんは教会に通うことをやめ、魔法への干渉を研究し、今の微弱な回復魔法を全身に纏い続ける離れ業に辿り着いたのだとか。
「ということで、魔法さえ習得してしまえばあとは個人の練度と発想と魔力次第らしいよ?」
カル父さんは呆れ半分感心半分で苦笑しながらそう言った。
剣の稽古に来たはずなのに、神様と魔法談議で結構な時間を使ってしまったようで、後ろからエレアお姉ちゃんの声が聞こえてきた。
「あれ? 稽古してないの? アッシュ~~! さぼっちゃ駄目だよ!」
「えっ!? ちっ違うよ! 父さんに神様とか魔法のこと聞いてただけだよ!」
「ほんと~? アッシュは変なところでとっても賢いからなあ」
「本当だよ、エレア。お父さんがちょっと長話をしてしまったんだ」
僕がずる賢いと言いたいのだろうか? そして苦笑しながらもフォローしてくれるカル父さんは最終兵器などではなかった。
ありがとうカル父さん! 大好きだよカル父さん! もう最終兵器なんて呼ばないよ!
「ん? アッシュ? 何か失礼なことでも考えたかな? お父さんこれでも【直感】っていうスキルを持っていてね、なんとなくわかるんだよ?」
「うえっ……あの、その……ごめんなさい……」
そのスキル僕も取ろうか迷ったスキルだよ……良いの持ってるね、さすがカル父さん。
「まったく……さあ! 剣の稽古を改めて始めようか!」
「「はいっ!!」」
時間稼ぎには成功したけど、必要なことなんだもんね。真面目にやろう! 【記憶】スキルを使ってねっ!




