覚醒 ―リーパーとの対峙―
瓦礫の街を駆け抜ける銀色の影――神崎仁。
その胸の奥には、なおも燃え続ける“炎の記憶”があった。
かつて、救えなかった命。助けを求める声。
あの日の後悔が、彼を突き動かしている。
「ここがリーパーの出現地点か……」
闇の中に立つその怪物は、死を象る鎌を持つ“黒い死神”。
JOKERの実験によって生まれた怪人――リーパー。
その存在は、まるで人間が進化の道を踏み外した象徴のようだった。
「ようやく来たのね……神崎仁」
声が響く。
振り返ると、白衣の女性――レナが立っていた。
かすかに震える瞳が、仁をまっすぐ見つめている。
「……お前、俺を追っていたのはJOKERの命令か?」
レナは黙って一歩、仁に近づく。
その唇が、震えるように動いた。
「……私の中にも、JOKERがいるの。
彼らは私を改造した。精神の奥に“もう一人”を埋め込んだのよ。
それが――“クロウ”」
瞬間、彼女の瞳が暗く濁り、声の調子が変わった。
「フフ……ようやく思い出したか、銀狼。
私を誰だと思っていた? JOKERの翼よ」
仁は息を呑む。
レナの顔は同じでも、そこにある気配はまるで別人だった。
冷たい殺意と、狂気じみた微笑。
「やめろ、レナ! お前はそんな奴じゃない!
あの日、俺を助けようとしたあの瞳を、俺は忘れてない!」
一瞬、クロウの表情が揺れた。
そして苦しげに額を押さえる。
「やめて……仁……そんな名前で呼ばないで……」
レナの声が漏れ、彼女の身体がふらつく。
その隙を見て、リーパーが咆哮を上げ、突進してきた。
仁は即座にベルトへ手を伸ばす。
「――変身!」
蒼白い光が弾け、銀狼の装甲が彼を包む。
獣の咆哮が夜空に響き渡った。
「俺はJOKERに抗う戦士――銀狼だぁッ!!」
その叫びに呼応するように、狼の紋章が輝く。
リーパーの鎌が火花を散らし、銀狼の爪がそれを受け止めた。
戦場の隅で、レナが見つめる。
彼女の瞳の奥で、クロウとレナの意識が交錯する。
(仁……お願い……私を、止めて……)
銀狼は叫びながらリーパーを打ち砕く。
衝撃で爆風が吹き荒れ、夜の街に光が走った。
戦いが終わったあと、仁は倒れ込むレナの傍に膝をつく。
彼女は微かに笑った。
「……次にあなたが見る私が、“どちら”かは……分からない……」
仁は唇を噛む。
救いたい相手が、敵として作り変えられた現実。
その痛みが、胸を焼くようだった。
遠くで、JOKERの通信が響く。
『実験体No.09 銀狼、覚醒確認。次段階、リーパー級殲滅完了。
クロウ、次は“影狼”の封印を解け』
仁は空を見上げた。
月が血のように赤く染まっていた。




