「記録 ―血の契約―」
嵐の夜が明け、街は静寂に包まれていた。
崩れたビルの中で、仁は倒れ伏していた。
獣の姿は消え、人の形に戻っている。
しかし、肌には金属の紋様が浮かび、体の奥ではまだ“何か”がうごめいていた。
レナは仁のそばで端末を操作していた。
彼のベルトに内蔵されたデータコアを解析するためだ。
「……やっぱり、見覚えがある。」
レナの指が震える。
画面に浮かび上がったのは、JOKERの機密ファイル――《PROJECT GENE WOLF》。
---
《実験記録 第271号》
対象:神崎仁(消防士)
遺伝子適合率:98.7%
備考:耐久性・精神安定性ともに高水準。
“狼コード”適合個体として採用。
《補足》
本個体は、過去に特殊血清投与の履歴あり。
被験者の母体が「旧・生体防衛研究所」の出身者であることを確認。
──つまり、この男の血には“初代被験者”の遺伝子が流れている。
---
レナは唇を噛み締めた。
「……あなたは、最初から選ばれていたのよ。
災害で死んだのも、偶然じゃない。彼らが仕組んだことだったの。」
仁の目がゆっくりと開く。
「どういう……ことだ?」
「あなたの遺伝子には“制御因子”が組み込まれている。
つまり、あのベルト――あれがJOKERの支配装置なの。」
仁は無言でベルトを見つめた。
金属の輝きが、まるで嘲笑うかのように光っていた。
「俺は……奴らの実験で、生かされたのか。」
「違うわ。」
レナは強く首を振る。
「あなたは“素材”じゃない。生きていたいと願った“人間”の証明よ。」
その言葉に、仁の拳が震えた。
怒りと哀しみが胸に溢れる。
そして、彼は静かに立ち上がった。
---
遠くで、轟音。
空を切り裂くように、巨大な黒い影が姿を現す。
無数のドローンを従えた、JOKERの実戦怪人――リーパー・タイプ01。
通信機から冷酷な声が響く。
「神崎仁。再収容を開始する。抵抗は無意味だ。」
仁はベルトに手を添え、ゆっくりと笑った。
「抵抗? 違うな。」
金属のバックルがカチリと鳴る。
赤い光が走り、空気が震えた。
「俺は――」
仁の瞳が黄金に輝く。
その声は雷鳴のように響いた。
「俺は、JOKERに購う戦士――銀狼だぁッ!!」
咆哮と共に光が爆ぜ、銀の装甲が彼を包み込む。
雷鳴が街を照らし、狼の遠吠えが夜を裂いた。
「行くぞ、JOKER……俺の戦いは、ここからだ!」




