「咆哮 ―狼の夜―」
激しい雨が瓦礫を叩く。
黒い影が数体、廃ビルの屋上から飛び降りた。
全員、無表情の仮面をつけた男たち。
胸には同じ紋章――《JOKER》。
その中央に、銀色の狼が立っていた。
仁。
彼の体からは蒸気のような熱気が立ち上り、黄金の瞳が闇を射抜く。
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「対象確認。コードネーム・ウルフ。制御不能個体。」
冷たい声が響く。
JOKERの処理班リーダーが手を上げた瞬間、黒服の兵士たちが一斉に動いた。
電磁銃の閃光が夜を裂き、仁の体を撃ち抜く。
だが、仁は動じない。
獣の反射神経で弾丸を掴み取り、地面を踏み砕いて跳躍する。
「ガァアアッ!!」
雷鳴のような咆哮。
狼の腕が振り下ろされ、コンクリートが砕け、兵士の一人が壁に叩きつけられる。
「な、なんだこの力は……!」
「まるで、人間じゃ――」
恐怖に後ずさる兵士たち。
仁の瞳が、獣のように細く光った。
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その時、遠くでレナが叫んだ。
「仁! 落ち着いて! その力は、あなたの中の“もう一つの本能”よ!」
しかし仁にはもう届かない。
頭の奥で、別の声が響いていた。
──“戦え、獣。生き残れ。それが“進化”だ。”
JOKERの博士の声。
脳裏に焼き付いたあの悪魔の囁き。
仁は頭を抱え、苦痛に呻いた。
「うるさい……やめろ……俺は……人間だッ!」
再び咆哮。
その声が夜空を裂き、雷光が彼の姿を照らす。
血のような赤いエネルギーがベルトから迸り、仁の背に金属の刃が展開する。
──《MODE CHANGE:BERSERK WOLF》
「……制御不能、完全覚醒状態だッ!」
JOKERの兵が叫ぶ。
狼が地を蹴る。
瞬間、三人の兵士が視界から消えた。
残ったのは、散ったマスクと破壊された装備。
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レナは涙を流しながら、彼の背中を見つめた。
「お願い……あなたまで“怪物”にならないで……」
だが仁の中では、怒りと悲しみが混じり合い、もはや境界はなかった。
その夜、廃墟の街で一匹の狼が咆哮した。
それは、人間の魂が怪物を拒絶する最後の叫びだった。




