「再会 ―獣の目覚め―」
夜の街外れ、瓦礫に覆われた旧防災施設。
雨が屋根を叩く音が、静寂の中で響いていた。
仁は壁にもたれ、荒い息をついていた。
脈打つ鼓動が速すぎる。
体の奥で何かが暴れている。まるで、血の中に獣が棲んでいるようだった。
「……俺は……どうなってしまったんだ……」
拳を握りしめる。爪のように尖った指先が、無意識にコンクリートを抉った。
その時、背後からかすかな足音。
反射的に振り向き、仁は身構える。
光の中に現れたのは、白衣の女性――藤堂レナだった。
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「やっぱり、あなた……生きていたのね。」
レナはゆっくりと歩み寄り、仁の傷だらけの体を見つめた。
その瞳は、安堵と罪悪感の入り混じった色をしている。
「俺を……知っているのか?」
仁の声は低く、かすれていた。
「私は……あなたの“再生プロジェクト”の主任研究員。
JOKERがあなたを素材に選んだとき……止めようとしたの。」
「JOKER……?」
その名前を聞いた瞬間、仁の脳裏に閃光が走る。
手術台、冷たい金属の感触、そして耳元で響くあの声。
──“素材としては完璧だ、神崎仁。”
「やめろッ!」
仁は頭を抱え、叫んだ。
記憶の断片が、炎のように蘇る。
レナは駆け寄り、仁の肩に手を置こうとした――その瞬間。
仁の瞳が、黄金に光った。
「下がれッ!」
仁の声が獣の唸りに変わる。
全身の筋肉が膨張し、腰のベルトが赤く輝いた。
──《BLOOD CODE:WOLF》
《ACCESS GRANTED》
金属音と共に、光が仁を包む。
獣の咆哮が夜を裂き、瓦礫が弾け飛ぶ。
そこに立っていたのは――
鋭い牙と銀の毛皮を纏った狼の戦士。
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「……仁、やめて! あなたは“怪人”なんかじゃない!」
レナの声が届く。
だが、仁の瞳には混乱と怒りしか残っていなかった。
「俺は……人を助けたはずだ。なのに……なぜ、こんな姿に……!」
雷鳴が轟き、雨が降り出す。
仁の叫びが、夜の街に響き渡った。
レナは涙を滲ませながら、そっと呟く。
「……あなたを取り戻す。必ず……」
その時、通信機が鳴った。
“追跡完了。対象:神崎仁、怪人化確認。”
“確保班を派遣する。博士を消せ。”
レナの顔色が変わった。
「……もう時間がないわ。」
闇の中、複数の黒い影が動き出す。
JOKERの処理班――獣と科学者を“処分”するために。




