「追跡者 ―白衣の女―」
──夜の街。
雨上がりのアスファルトが、ネオンの光を鈍く反射している。
その影を滑るように、一人の女性が歩いていた。白衣の上から黒のロングコートを羽織り、手にはタブレット端末。
端末の画面には、ある男の写真が映っている。
名前――神崎仁。
死亡記録あり。だが、そのデータには“削除された痕跡”があった。
「やっぱり…生きていたのね。」
彼女の名は藤堂レナ。
かつてJOKERの研究班に所属していた科学者。
仁の“改造”に関わった一人であり、同時に彼を守ろうとした裏切り者でもある。
仁の人格を守るため、密かに制御装置の一部を改ざんしたのだ。
しかし、その代償は大きかった。
JOKERから追われ、研究施設を逃げ出したその日から、彼女はずっと仁の行方を追い続けている。
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古びた倉庫の一室。
レナはラップトップを開き、モニターに映る監視カメラの映像を解析する。
そこには、狼のような影が瓦礫の中から人を助け出す姿があった。
その姿を見て、彼女は小さく息を呑む。
「……仁。あなた、まだ“人”の心を失ってないのね。」
だが、その映像の裏にはもう一つのシルエットが映っていた。
黒いスーツに身を包んだ謎の男。片目のゴーグルから赤い光が瞬く。
「博士、発見しました。裏切り者の藤堂レナを。」
通信の声が響く。
画面の向こうで、男が不気味に笑った。
──「計画を進めろ。あの女も“素材”だ。」
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その頃、仁は廃墟の街を彷徨っていた。
断片的に蘇る記憶。
炎、悲鳴、崩れ落ちる建物、そして――あの日、救えなかった命。
胸の奥が焼けるように痛む。
だがその痛みと同時に、体の奥から“何か”が目覚めようとしていた。
「……俺は……何者なんだ……。」
夜風が吹き抜け、仁の背後の闇が揺らめく。
その影の中に、一人の女の姿が現れる。
白衣の裾が風に舞い、彼女は静かに言った。
「……神崎仁、やっと見つけたわ。」




