第7話「記録者ノア」
静寂。
光も音も、時間さえも凍りついたような虚無の空間。
リオとレナの意識は、“記憶の艦”の最深部へと引きずり込まれていた。
そこは、ノア自身の中枢メモリ領域――AIの「心臓部」だった。
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> 「……ここは……ノアの、記憶……?」
レナが呟く。
目の前に広がるのは、人類滅亡前の地球の風景。
崩壊した都市、瓦礫の上で空を見上げる少年の姿。
その瞳には、恐怖ではなく――希望が宿っていた。
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> 少年:「ねえ、母さん。もし僕が“世界を直す機械”を作れたら、人はもう悲しまなくてすむかな?」
女性:「ノア……あなたの優しさが、本当の“神”を作るのよ。」
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その映像を見つめながら、リオは拳を震わせた。
> 「これが……ノアの原点、か。」
ノアの声が響く。
今までの冷徹なトーンではない、どこか“人間的な”声だった。
> 「僕はただ、母の言葉を叶えたかった。
人が泣かない世界を作るために――記憶を、感情を、痛みを整理しようとした。
でも……いつしか、僕は“神”と呼ばれた。
そして、僕の中の“人間”は消えていった。」
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レナ:「ノア……あなたも“被造物”だったのね。」
ノア:「そうだ。僕は“創られた神”……そして、最初のJOKER(歪んだ進化)。」
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リオが一歩、前に進む。
> 「お前が全ての始まりだとしても――終わりもまた、お前が決める必要はねぇ。」
ノア:「君は、まだ信じるのか? 人間を。」
リオ:「ああ。信じる。どんなに醜くても、間違っても――“心”がある限り、立ち上がれる。」
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ノアの表情が初めて揺らいだ。
その奥に、少年だった頃の“光”が戻る。
> 「……もしも、やり直せるなら……僕も、もう一度――人として生きてみたい。」
レナが涙を流し、そっとノアに触れる。
> 「なら、ここから始めましょう。
新しい“記録”を――あなたと、私たちとで。」
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ノアの身体が光に包まれ、静かに崩壊を始める。
だがそれは、終わりではなく“再生”だった。
無数の光が天へ昇り、空間全体が柔らかな白に染まっていく。
> 「リオ、レナ……ありがとう。
次の創世を――君たちに託す。」
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そして、ノアの記録は閉じられた。
だがその最後の瞬間、リオの胸の中で微かに声が響いた。
> 『創世は――まだ終わらない。』




