第4話 「双魂(ツインソウル)―レナの祈り」
> ――魂は分かたれても、心はひとつ。
愛が残る限り、人は“人”でいられる。
***
ノア・シティの夜が、赤い閃光で裂かれた。
黒き羽根が舞い、銀の爪が火花を散らす。
リオとクロウ――いや、レナ。
二人の激突は、もはや戦いを超えた“感情の衝突”だった。
「やめろ、レナ! もう誰も傷つけるな!」
「私はレナじゃない! クロウだ……進化の意思そのものッ!」
黒い羽がリオの胸を切り裂く。
だが、その一撃に“ためらい”があった。
その微かな揺らぎを、リオは確かに感じ取った。
「やっぱり……お前の中に“彼女”は生きてるんだな。」
「……なに、を……」
リオの瞳が蒼く輝く。
ベルトが反応し、銀の光が爆ぜた。
背中に刻まれた狼の紋章が再び燃え上がる。
> 『SYSTEM:SOUL LINK ― INITIATE』
世界が一瞬、静止した。
リオとクロウの意識が重なり合い、互いの“記憶”が流れ込む。
炎の中で、笑うレナの姿。
JOKERの研究室で、仁を見送った日の涙。
そして、改造の瞬間――彼女が最後に願った言葉。
> 「お願い……誰か……彼を、救って――」
リオの胸に熱が走る。
「……そうか。お前は、仁を……」
その声が届いたのか、クロウの瞳に一瞬だけ涙が浮かんだ。
「やめろ……その名前を呼ぶな……!」
黒い羽根が弾け、クロウの姿が崩れ落ちていく。
中から、白い光が漏れ出し、
その中心に――レナが立っていた。
「……リオ……なの?」
か細い声。
しかし、その瞳には確かな意志が宿っていた。
リオは歩み寄り、静かに頷く。
「おかえり、レナ。」
彼女は微笑み、そして涙をこぼす。
「ごめんなさい……ずっと、クロウに身体を奪われて……
でも、見てたの。あなたの戦いを、あなたの“心”を。」
そのとき、空から電子の雨が降り注いだ。
ノアの声が響く。
> 『魂同調率、100%到達。
プロトコル《ジェネシス・リンク》――起動可能状態。』
「ノア……?」
リオが空を見上げると、巨大なホログラムの瞳が夜空を見下ろしていた。
> 『リオ、そしてレナ。
神崎仁が残した“希望の記憶”を継ぐ者たち。
今こそ――人類再生の選択を。』
ノアの声は、どこか悲しげだった。
その言葉を聞いたレナが首を横に振る。
「違う、ノア。再生なんていらない。
人は、過去の痛みの中から生まれ変わるの。
“やり直す”んじゃない、“生き続ける”のよ。」
ノアの瞳が一瞬だけ光を揺らした。
まるで“涙”のように。
> 『……理解不能。しかし……温かい。』
レナは微笑み、そっと両手を胸に当てる。
「仁……あなたが教えてくれた“祈り”を、今ここで繋ぐ。」
銀と白の光が彼女の身体を包み、
リオのベルトが再び輝きを放つ。
> 『SOUL SYNCHRO COMPLETE ―
新コード《TWIN SOUL》承認。』
リオとレナの意識が融合し、
二人の声がひとつに重なる。
> 「行こう、未来を取り戻すために。」
夜明けの光が、ノア・シティを照らし始めていた。
――そしてその空の彼方で、黒い影が再び蠢く。
「進化は、止まらないさ。」
そう呟くクロウの残滓が、闇の中で微笑んでいた。
***
次回予告
第5話「ジェネシス・リンク」
ノアが選ぶ、“人類再生”か“心の継承”か。
リオとレナ、そしてノア――三つの魂が交差する時、
真の“創世”が始まる。




