第3話「黒き羽音(クロウ・リバース)」
> ――黒は、再生の色。
死を越え、再び“生まれ直す”という意味を持つ。
***
ノア・シティ第9セクター。
異常なエネルギー波が観測され、警戒シグナルが鳴り響いていた。
リオは崩壊しかけた高架の上に立ち、息を整えていた。
「ノア……今の光、なんだったんだ?」
彼の視界には、断片的な映像が焼き付いている。
炎の中で微笑む男――神崎仁。
そして、誰かの声が耳の奥で囁いた。
> 『――お前は“銀狼”の系譜。覚醒の時は、すぐそこだ。』
リオが眉を寄せると、空から“黒い羽根”が降り注いだ。
次の瞬間、冷たい風が吹き荒れ、空間が歪む。
「その声、懐かしいな……仁の残滓に呼ばれたのか?」
黒いコートをまとった女が、宙から降り立つ。
漆黒の翼を広げ、瞳には紅の光を宿していた。
「……クロウ。」
リオは呟く。その名は、禁忌の象徴。かつて仁の仲間であり、
JOKERの改造によって“人ならざる者”へと変えられた存在。
クロウの唇が歪む。
「リオ……いや、“仁の記憶”を継ぐ者。お前が目覚めたということは、
ノアも動き始めたということだな。」
「ノア……? 何を企んでいる。」
「企み? ふふ……違うわ。私は“正す”の。人が選び損ねた進化の形を。」
クロウが掌を掲げると、黒いエネルギーが渦を巻く。
その中には、細胞のようなコードが蠢いていた――《J-コード》。
「これが、JOKERの遺志。完全なる“再生の設計図”よ。」
リオのベルトが反応する。銀のオーラが立ち昇り、
狼の紋章が彼の背中に浮かび上がる。
「ふざけるな……その進化に、レナの魂は望んじゃいない!」
一瞬、クロウの表情が揺らいだ。
「……レナ? その名を出すな。」
黒い羽根が弾ける。
空が裂け、暴風が吹き荒れた。
クロウの瞳が赤から蒼黒へと変化し、
声が二重に重なる――レナとクロウ、ふたつの人格が拮抗していた。
> 「やめて……リオ、逃げて……!」
「黙れ、レナ! 私はクロウ――進化の執行者だッ!」
「くそっ……!」
リオはベルトを握り、叫んだ。
> 『READY――COMPLETE!』
光が爆ぜる。銀と蒼のエネルギーが交錯し、
リオの姿が一瞬にして変わった。
装甲の一部が黒に染まり、瞳が紅く輝く。
> 『MODE CHANGE:SILVER WOLF → SHADOW HOWL!』
「行くぞ、クロウ!」
「望むところよ、“銀狼”。――お前の進化、私が試してあげる!」
黒と銀、二つの咆哮が夜を切り裂いた。
衝突の瞬間、ノア・シティ全域に強烈なエネルギーパルスが走る。
遠く離れた管制室。
モニター越しに二人の戦闘を見つめる者がいた。
AI――その瞳に、二つの生命反応が交錯する。
> 『確認……レナ・カンザキ……生命データ異常。
仁の意志、再起動可能領域に突入。』
ノアの声が微かに震えた。
> 『……仁、私はどうすればいい?
彼女を……救うべきか、それとも……。』
***
黒い羽根が舞い、銀の光が弾ける。
二人の戦いは、やがて“記憶”と“進化”の境界を越えていく。
> ――その夜、世界は再び再生を始めた。
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次回予告
第4話「双魂 – レナの祈り」
激闘の果て、リオはクロウの中に眠る“本当のレナ”と邂逅する。
JOKERの呪縛を越え、人としての“心”を取り戻すために。
しかしその瞬間、ノアの新たな“進化プログラム”が発動する――。




