最終章「希望の記憶 ―仁とレナ、そして新たなる人類―」
夜が明けようとしていた。
焦げた大地に、ゆっくりと陽が差し込む。
長い闘いの果て、JOKERの研究施設は崩壊し、世界は静寂を取り戻していた。
銀狼――神崎仁は瓦礫の中に立ち尽くしていた。
身体はボロボロ。ベルトもひび割れ、変身の光はもう灯らない。
それでも、その目には確かな“光”が宿っていた。
「……終わった、のか。」
微かな風が吹き抜ける。
その風に、懐かしい声が乗った。
「ええ……ようやく、ね。」
振り返ると、白衣を羽織ったレナが立っていた。
だが、もう“クロウ”の影はない。
穏やかな瞳で仁を見つめ、微笑んでいる。
「レナ……お前、生きてたのか……!」
仁の声が震える。
レナは静かに頷き、胸に手を当てた。
「リーパーのデータの中に、あなたの記憶が残っていた。
その記憶を辿って……ここまで来たの。」
「記憶……俺の?」
「ええ。あなたが信じ続けた“人の心”の力。
それが、私の中のクロウを消したのよ。」
仁はそっと目を伏せる。
涙が頬を伝い、焦げた地面に落ちた。
「俺は……怪人になってまで、何を守ろうとしてたのか、わからなくなってた。
でも今なら分かる。
――人は弱い。だからこそ、守り合うことができる。」
レナが微笑み、仁の手を握る。
「ええ、あなたはそれを思い出すために、ここまで来たのよ。」
朝日が二人を包み込む。
崩れたJOKERの本部の奥では、データベースがゆっくりと再起動を始めていた。
“Project Rebirth - 人類再生計画”
仁が空を見上げる。
その瞳には、もう戦う者の影はなく――希望を見つめる“人”の光があった。
「レナ……これからどうする?」
「人を救いたい。あなたが守った“未来”を繋ぐために。」
「……そうか。じゃあ、俺も行くよ。今度は――炎じゃなく、人の心で。」
風が吹き、焦げた大地に芽吹く緑の葉。
そこから始まるのは、怪人でも英雄でもない――“新たな人類”の物語。
レナが小さく呟く。
「……ねえ、仁。あなたのその名、きっとまた“光”になる。」
仁は笑った。
「だったら、もう一度……歩き出すさ。人として。」
二人の背に朝陽が差し込む。
狼の咆哮が、今度は優しく空に響いた。
> ―人類怪人化計画、終焉。
―そして、希望の記憶、始動。
【完】




