JOKERの真実
夜明けの光が都市を照らす。
だが、その空の下ではまだ、静かに戦いの余波が燻っていた。
倒壊した研究区画の瓦礫の中、仁とレナは立っていた。
風が吹くたび、焦げた金属と薬品の匂いが混ざる。
レナは懐から、ひとつの黒いデータチップを取り出す。
それは、リーパーが消滅する直前、残したものだった。
「……“黒の鍵”って言ってたわね。」
「JOKERの核心だ。……開けてみよう。」
仁がチップをベルトに差し込む。
ホログラムが空間に浮かび上がった。
そこには、古い映像が再生される。
――《人類怪人化計画 主任:Dr.神崎誠一》
仁の瞳が揺れた。
「……神崎……?」
レナが息を呑む。
「まさか……仁さんと同じ姓……!」
映像の中で、白衣の男が語り始めた。
> 「人は弱い。痛み、喪失、そして死。
だが私は確信している――“死”さえも、乗り越えられると。」
> 「私の息子――仁。
彼は炎の中で死んだ。しかし、彼の精神データは完全に消えてはいなかった。
私は彼の記憶と遺伝情報をもとに、“再構築”を試みた。」
> 「それが……プロトタイプ“G-01”、通称《銀狼》。
そして、彼の進化形が《REAPER》。」
「――っ!」
仁の拳が震えた。
「俺と……リーパーが……同じ起点……?」
レナの顔が蒼ざめる。
「つまり、リーパーは……あなたの“もう一つの再構築体”。
仁さんの複製……兄弟のような存在……!」
ホログラムの中の父・誠一は、続ける。
> 「JOKERとは、“人類再構築実験”の名だ。
進化でも破壊でもない。
目的は“魂”の複製。
死者を再びこの世界に立たせるための――愚かな試み。」
映像が途切れた瞬間、ベルトが低く唸りを上げた。
内部で、リーパーの声が響く。
「……お前も見ただろう、仁。
俺たちは父の罪の産物だ。」
「リーパー……生きてたのか……!」
「俺たちは生まれた時から“人間”ではなかった。
記憶も、魂も、プログラムされた幻想だ。
――だが、俺はその幻想を“現実”にする。
進化こそが、父の夢の完成形だ!」
通信が途絶える。
だが、その言葉の残響は、仁の胸に深く刺さった。
「……親父……俺を、生き返らせるために……」
仁は拳を握りしめる。
レナがそっと寄り添い、その手に触れた。
「それでも、仁さんがここにいるのは――偶然じゃない。
あなたの涙も、痛みも、全部“本物”よ。」
仁はゆっくりと頷いた。
「そうだな。
たとえ偽物だとしても、俺は“生きている”。
誰かを救いたいと願うこの心がある限り……俺は、神崎仁だ。」
風が吹き抜け、瓦礫の隙間から一枚の写真が舞い上がる。
そこには、若き日の誠一と幼い仁の姿。
笑顔で写る二人――それが、彼の原点だった。
仁は空を見上げた。
「JOKER……父さんの罪も、全部終わらせる。」
レナが頷く。
「ええ、二人で。」
遠くの空に、赤い光が瞬いた。
それは、リーパーがまだ生きている証。
“兄弟”としての決戦が、いま迫っている――。




