漆黒の鼓動
冷たい光が差し込む、無機質なラボ。
そこでは、数十本の培養カプセルが低く唸りを上げていた。
その中で蠢くものは、もはや人の形を保っていない。
「……成功率、わずか13%。だが、十分だ。」
白衣の男がモニターを睨みながら呟く。
彼の名はDr.オルフェウス。JOKERの主任研究員にして、人類怪人化計画の“黒幕の右腕”。
「レナと銀狼……彼らは想定以上の進化を遂げた。
ならば、次は“抑制”ではなく、“支配”の段階に移行する。」
彼の背後、黒いコートをまとった男が立っていた。
顔の上半分を覆うマスク、その瞳には紅い光が灯っている。
「……予定より早いな、オルフェウス。」
「あなたの命令通りに進めています、“リーパー”。」
その名を聞き、研究員たちは息を呑んだ。
リーパー——JOKER最強の改造体。
“死神”と呼ばれるその存在は、組織の象徴であり、同時に最も恐れられる存在でもあった。
「銀狼……神崎仁。あの男の覚醒は計画外だ。
だが、悪くない。混乱こそ進化の触媒となる。」
リーパーはゆっくりと手をかざす。
黒い霧のようなエネルギーが彼の掌から広がり、空気が歪んだ。
「この鼓動を聞け……
これは“滅び”の胎動。新たな世界が、産声を上げる音だ。」
ラボ全体が震えた。
カプセルの中で眠る改造体たちが、一斉に目を開ける。
赤い光が闇を貫いた。
――その頃。
廃ビルの屋上に立つ仁とレナ。
夜風の中、遠くの街から不穏な黒煙が上がる。
「……何かが始まったな。」
「うん、嫌な予感がする。
あの鼓動、感じない? まるで……地の底から響く心臓の音みたい。」
仁は拳を握った。
銀狼のベルトが低く唸り、狼の咆哮のような音を立てる。
「レナ、準備はいいか?」
「いつでも。」
二人の視線が交わった瞬間、遠くの空に黒い稲妻が走った。
夜が裂け、世界が震えた。
それは――“漆黒の鼓動”。
JOKERの最終段階が動き出す、破滅の合図だった。
---




