第一話 再生 ― JOKERの狼 ―
> 眩しい――。
光が、目の奥を焼いた。
呼吸をしようとして、空気が喉を突いた。
それは生温く、金属の味がした。
「……意識が戻ったか。驚いたな。人間の枠を超えた生命力だ」
低い声が、どこか遠くで響く。
目を開けると、白い天井と無数の管。
自分の身体がベッドに固定されているのが見えた。
「ここは……どこだ?」
声が震えた。
「安心しろ。君は選ばれたのだ。JOKERに――」
その名を聞いた瞬間、頭の奥がざらりと痛んだ。
灰色の街、崩れたビル、火の粉。
誰かの叫び。
「神崎隊長! ダメです、もうこれ以上は――!」
記憶が、炎の中で途切れる。
「君は死んだのだよ、神崎仁。だが、我々が君を再生させた。」
「再生……?」
「人は弱い。だからこそ進化が必要だ。君の身体には“狼の遺伝子”を組み込んだ。
群れを導く者として、力を得るためにな。」
白衣の男が笑った。
その背後では、無機質な機械が低く唸っている。
仁の手足はまだ思うように動かない。
ただ、胸の奥で何かがざわめいていた。
「……博士、そのベルトは?」
黒衣の助手が問いかける。
「これは制御装置だ。ワクチンと意識をつなぐ、君の“鍵”だよ。
集中すれば、姿と力を自在に引き出せる。」
博士が金属製のベルトを持ち上げ、仁の腰へと装着した。
冷たい音が響く――カチリ。
次の瞬間、身体の奥が熱を帯びた。
炎が流れるように、血が逆流する。
「あ……ぐっ……!」
意識が白く染まる。
皮膚の下で何かが蠢き、筋肉が軋む。
「博士、過負荷です!」
「構わん、抑えるな! これが“進化”だ!」
白衣たちの叫び声が遠ざかる中、
仁の視界が赤く染まった。
――牙。
――爪。
――咆哮。
全てが混ざり合い、爆ぜる。
……静寂。
実験室の床には、ひとりの“怪人”が立っていた。
鋭い狼の面を持ち、黒銀の毛皮のような装甲に包まれた姿。
その瞳だけが、確かに“人間の色”をしていた。
「……俺は、何になっちまったんだ……?」
その呟きは、機械の音にかき消された。
だが、彼の中で燃える何かは、確かに生きていた。




