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焼け石に水

この世界のほとんどの人間にはそれぞれの心に関する能力、<<スキル>>が存在する。物心がつく年齢くらいになると自分の本能にスキルが刻み込まれるみたいだ。これは神の祝福で、スキルを獲得したらどんな内容か詳しく分かるらしい。


”強い怒りを感じると身体能力が向上する”スキル

”悲しみを感じると涙の代わりに周囲に雨を降らす”スキル

”好きな人に見られている間あらゆる力が向上する”スキル


スキルはダンジョン攻略などに役に立つ。ダンジョンは神の意志で作られて、さまざまな凶暴なモンスターがいる代わりに、多くの宝や発明が眠っている試練と褒美の地!……らしい。

スキルを持っていないと神から見放されたとして腫れ物扱いされる。特に王都に近づくほどその傾向は強くなる。

そんな世界で僕、16歳のアントニヌスは何のスキルも持っていなかった。それに身長も普通、黒髪短髪で見た目も平凡。だけど、辺境の田舎村で生まれた僕はいじめられる事は無かった。数十人の村人みんなが優しいって事も関係しているけど、スキルの内容が人に言いづらいこともあるから、むやみにスキルを聞かないっていう村の決まりも僕に味方してくれた。

僕はこの村が大好きだった。親の農業を継いで村のみんなと静かに暮らしたかった。

だけどある日…


「アント、村長が呼んでるわよ。王都からの命令だって…」


いつになく真剣な母の口調に緊張しながら村長の家に行った。

道中思考を巡らせた。自分が何か王都に呼ばれるようなことをしたかを考えていたが何も思いつかなくて、そのまま村長の家に着いた。


「アントニヌス、君が最後か。皆、良く来てくれた」


部屋の中には村長の他に、いつも一緒にいる年齢が同じ幼なじみで、僕よりずっと優秀な3人が集まっていた。全員で顔を見合わせてアイコンタクトを取ったが、誰も呼ばれるような心当たりはなさそうだ。


「突然だが王都の命令により、この4人でパーティーを作り王都付近のダンジョンを開拓してもらうことになった」


全員が驚いたように一瞬固まったけど、すぐに状況を理解した。


「どういう任務だ俺たちの他には?」

「王都からの強い者を4人以上連れてこいとの命令じゃ…今回、王都を含むすべての街から人口比に合わせて招集されているみたいじゃ」

「今回のダンジョンって危険?私達生きて帰ってこれる?」

「兵士と一緒ではあるが、未開のダンジョンの開拓だ。かなり危険なはずじゃ…」

「人口に合わせるって…この村で考えると大体10分の1人招集されてるじゃん。この国の10分の1人使うってどんだけ?ウチあんま慣れてないんだけど」

「過去最大級の大きさで…最深部が見えないそうじゃ」


みんなは他にも日程や経路など様々なことを村長に聞いたけど、僕にもある疑問がわいてきた。


「3人は強いし優秀だけど、僕はスキルがないし…足手まといの僕を連れて行っちゃったら、みんなが危険になっちゃわないですか?」


端から見たら命がけの任務にびびって逃げだそうとしているようだけど、そんな事は無い。僕にとっては村のみんなが一番大切なんだ。僕のせいでみんなが危険になるくらいならここに残る。

大騒ぎしていたみんなが静かになって、村長以外の三人が言った。


「「「アントも行くに決まってるじゃん」」」


僕はものすごく驚いたが、村長はやっぱりかという顔をして言った。


「まあこんな事になるとは思っとった。いいかアントニヌス、確かにおぬしにはスキルが無い。皆が生きて帰ってくるためにはもっと強い者を呼ぶ方がいいのだろう。だが、どのみちこの三人の足手まといにならない者など今この村にはいない。それに…」

「けど僕よりは」

「ほんとに分かってねーのか?」


村長と話しているところを止められて、肩をがっしりとつかまれ目を見て言われた。


「強い弱いとか、そういう優劣じゃなくて、俺らがお前がいないと楽しくねーから誘ってんの!それにこの4人ならどんなことがあってもなんとかなる!」

「楽しいか楽しくないかで決めていい問題じゃないでしょ…」

「あーもううるせぇ!16年で俺のわがままには慣れてんだろ!いいから行くぞ!!!」

「えぇ…」

「まぁ、そういうことじゃ。おぬしがいかんなら3人も行かんのはわかっとった」


いつもの後先考えない感じだなぁ…と思いつつも、自分が大切にしているように、自分も大切にされていることを心から喜んだ。


「じゃあ…行くよ。みんなでダンジョンに行こう」

「そうこなくっちゃ!」


あーあ、言っちゃった。もう行くしかないのかぁ…

僕も行くことになって、みんながはしゃいでいると、村長が申し訳なさそうに話しかけてきた。


「本当にすまんのう…本当は若者でなく大人に行かせるべき任務なのに」


確かに冒険者としての任務では、ベテランや、独身で失う物が少ない大人の男が率先して自分から参加するのがほとんどだ。僕たちは自分で言うのもあれだけど、未来ある16歳の子供だし、しかも半数が女というのは明らかに異例だ。だけど僕たちはそれに関しては全く不条理を感じたりはしていない。だって…


「仕方ないだろ、この不作の中で徴税もあるのに畑仕事になれている奴らを連れ出すわけにもいかないしな」


「けど私、報酬はちょっともらいたいなー」

「ウチも命かけるんだから何か買ってよー。活躍したら余裕できるでしょ?」


大人から見たらまだまだ子供だろうが、大人が思っている以上に16歳の僕たちはもう大人の世界のあれこれは分かっている。税を納めなきゃいけないこと。いい人材を送って、その人が活躍したら報酬が大幅に増えること。報酬を得るためには、誰かを犠牲にしなきゃいけないこと。

犠牲と行っても、村のみんなのために行くんだ。村のみんなを助けることができるなら、それ以上に嬉しいことはない。それは、僕だけではなく3人も同じだろう。


「ありがとう…本当にありがとう…。では、正式にこの4人に王都付近のダンジョン開拓任務を与える!大きな成果を上げて、必ず生きて帰ってくるのだ!」


「「「「了解!!!」」」」


任務を受けた瞬間に、あたりが一瞬黄色く光り、からだが少し軽くなった。

これは村長の”自分の指令を受けた村民の身体能力を任務終了まで向上させる”スキル。

生まれた頃から村長になる事が決まっていて、自分が村長だという強い自覚を持っていたことにより発動した能力らしい。この能力のおかげで僕はちょっと強い一般人になれた。


「アントはコレ受けたのひさしぶりか?」

「うん。やっぱこれいいね。簡単に強くなれる」

「私たちはいいかんじに強くなるけど、アントの場合はこれで一般人くらいじゃない?」

「えぇ…ここで刺してくるの…?」


まあ事実なんだけど、もうちょっとこう角を丸めた言い方で…


「ほら無駄話してないでさっさと荷物まとめろ!もう出発するぞ!」

「今日!?」


展開が速すぎない?親にもダンジョンに行くって伝えて、一応別れの挨拶とかもしたいんだけど…


「アント、あんた私の荷物持ち」

「ええ僕!?優劣ないんじゃなかったの!?」

「私はちがーうw」

「あんためっちゃ性格悪いみたいになってるって!さっきの感動シーンどうすんの!」

「お前らーアントをいじめんなー」

「いじめてないわ!優劣があるのは事実でしょ!」

「お?一線越えたか?」  


いつものノリだ。いつまでこれで笑い合ってるんだか。命をかけに行くんだからもっと緊張感もってよ…


「よーし、さっさと行って、デカい成果上げて、大金持ち帰ってくるぞー!」

「「「おー!!!」」」


まあ、「なんとかなる」かな。この4人なら!





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ダンジョンに行く前にいったん王都に来た僕たちは今まで見たことのないいろんな物を見た。

見たこともないような機械。全自動にんじんサラダマシン???何あれ???

見たこともないスキル。”緊張すると鳥を生み出す”どういう経緯で???

見たこともない服。透明なジャケット???何も隠れてないよ!!!

開拓隊の他の人たちとも話した。みんな強そうで、優しかった。

王都のすべてが僕たちにとって刺激的だった。他にもあったけどもう何も覚えていない。



僕以外全員死んだ。

3人とも死んだ。

僕は生きた。

俺だけが。

生きた。

多分。


被害者は数日たっても未だ把握しきれないほど、大量だった。そのぐらいの犠牲を出しても、予想されるダンジョンの大きさの内の50分の1も探索できていなかった。

王都の宿に戻った俺は、生きているのか、死んでいるのか分からなかった。夜通し泣き、日中眠りにつき、ピクリとも動かなかった。村への死亡連絡の手紙は届いているだろうか。なぜ俺が生きているのかと、村の誰もが、少なくとも一瞬は、思うだろう。優秀だった3人は、俺の最初の懸念通り、俺を守って死んだ。全力で、最後まで、俺を守ったが、死の瞬間は、恐怖で顔をゆがめていた。ように見えた。絶対に忘れたくない3人の記憶の中で、その顔だけは、記憶から消し去りたかった。勇敢な冒険者達の顔に、泥を塗るようなまねを、したくなかった。いや、ある意味、記憶にあるあの顔に泥を塗り、思い出しても、あの顔を思い出せないようにするのも、いいのかも知れない。


パーティーは俺だけになったが、このままじゃ村に金が入らない。優秀な若者3人を失い、帰ってくるのは3人の命の、残りカス。なんて。最悪だ。次の開拓日を待つ間、酒場の掲示板でメンバー募集の張り紙を見たが、書いてある条件は、

”身体強化系のスキル求む”

”回復ができるスキル報酬2倍!!!”

だと。そりゃあ、スキルの無いヤツなんて誰もほしがらない。俺は、俺のことを歯牙にもかけないメンバー募集の張り紙達を見つめながら、酒場で水だけを飲んでいた。

すると、誰かが話しかけてきた。明るい金髪の女だった。後ろには、肩くらいまでの黒髪でスレンダーな女、明らかに好青年っぽい赤髪の男がいた。


「ね!ね!さっきからメンバー募集の張り紙見てるよね!今一人ならさ!ウチに入りなよ!」

「……え?」


スキルも無い俺をパーティーに誘うなんてどうかしてる。と、思ったが。俺のことなんか知らない他人だと言うことを完全に忘れていた。今、冒険者パーティーを見ると、もう過去となった、仲間の姿を投影してしまう。


「あの…僕…スキル無いんで…他の人誘った方がいいですよ…」

「…!」


女はびっくりした顔をした。それはそうだ。スキルも無しに何をしに来てるんだって感じだろう。少し何かを考えるような仕草をした女は、次ににやりと笑って、


「じゃあウチに来なよ!スキルが無くてもいいよ!」


と言った。

何を言っているんだ?スキルが無いと言うことは、仲間を、危険にさらす、ということだ。それでもいいなんて、俺に都合が良すぎる。


「ありがたいけど、僕に都合が良すぎて信じられないな。それに、仲間を危険にさらさないためにも僕を入れない方がいいよ」

「ありがたいってことは!ほんとは入りたいって事だよね!これからよろしく!私ネル!こっちの背の高いサイッコーにカワイイ子がリアス!これがトラス」

「可愛くない。それやめろっていってるじゃん」

「俺のこと、「これ」って言ったか?」

「トラスうるさい!!」

「えぇ…俺の扱いぃ…」

「えぇっと…えー、ウチのパーティーの唯一のルールは互いのスキルをむやみに聞かないこと!いいね!」


何が起こっている?いきなり話が進みすぎだ。それに急遽付け足されたような唯一のルールとやらも、パーティーでスキルの話がでなくなるから、肩身が狭くなりにくい。聞けば聞くほど俺にとって都合がいい。


「キミ、名前は?」

「アントニヌス…」

「じゃあ…アントかな。ほんと助かるよ!ちょうど今…いや…色々あって1人減っちゃってね。4人パーティーに戻したかったんだ」


なるほど、こっちも失った系か。なのにこの3人のゆるい雰囲気は…生きているが離脱したのか、そこまで悲しくないのか、逆に悲しみが大きすぎて明るく振る舞うことしかできなくなっているのか。


「ていうか私めっちゃため口で喋っちゃった。アントっていくつ?」

「16歳だよ」

「えー!一緒だー!私たち3人ね、ちょー田舎の同じ村出身で16歳なのー!」


なるほど王都から離れた村なら、スキルが無いヤツへの嫌悪感も少ない。だからこそ俺を誘うようなまねをしたのか。だが、1人でいるヤツなんてそこらにいるし、スキルも当然持っているだろう。それなのに何故か俺を加入させようとする所が怪しい。だが、こいつらの前のメンバーがどんなヤツだったか、なぜ俺を誘うのか、全部どうでもいい。どうせこの任務限りの関係だし、俺は村のみんなのために金を稼がなきゃいけない。


「じゃあ、パーティーに入ります」

「やったぁ!もっと強引に入れなきゃいけないかと思ったけど、自分から入ってくれた!」

「じゃ、よろしく~」

「男同士、仲良くしようぜ、アント」


ネル、リアス、トラス。この三人が新しい仲間…か。

4人パーティーで、俺をアントと呼ぶ同い年の仲間。失った物が、ずいぶんと薄くなって帰ってきたように感じる。


「じゃー次の開拓に向けて宿屋で作戦会議するよー。アントは私たちの宿屋に移ってきてね。トラスの部屋がもう1人入れるから。トラスが無理だったら相部屋しなくてもいーよ」

「確かに俺と部屋が同じだと俺がまぶしすぎて寝れないか」

「トラスうるさい!!」

「今のはあんたが悪い」

「リアスまで俺の敵に…アント、今のは俺悪くないよな!」

「いやぁ…」

「くそぉ!!!」

「アントもトラスの扱い方が分かってきたみたいだね!その調子!」


数日ぶりのはずなのになんだか懐かしいような人とのやりとりに笑顔が戻ってきた。

とっくに空になっている水の入っていたジョッキをカウンターに返し、俺は、新しいパーティーとともに店を後にした。




























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