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  作者: にゃみ3
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決められた運命



「本当に医者を呼ばなくてもよろしいのでしょうか…?」

「えぇ、少し一人にして欲しいの。そうしたらすぐに治るはずだから」

「…かしこまりました、何かありましたらすぐにお呼びくださいませ。行きますよ皆さん」



 ソフィアの一人にしてほしいという言葉に、メイド長は従いそばに居た他のメイドたちを連れ、部屋を出た。



「本当に、生まれ変わりなんてあったのね…」



(はは、夢だと信じたいけれど、ここまでリアルな夢はありえないか。)


 この世界、小説『かわいい公女様とイケメン皇子様』のストーリはかわいい公女様であるロゼッタ・フォンデュと、イケメン皇子であるノア・アスタリアによって構成されているラブロマンス。

 恋を知らない、女性に全くの興味のない堅物ピュア皇子をロゼッタの甘い愛がその凍った心を溶かしす。よくある、恋愛小説だ。


 小説の第一章では主人公ロゼッタの苦労が描かれており、そこでは帝国に存在する二人のかわいい公女たちによって物語が進められていた。

 一人は、この物語の主人公(ヒロイン)。フォンデュ公爵家のロゼッタ・ボルジア。

 そしてもう一人は、脇役という役職を与えられたティアルジ公爵家の長女、公女ソフィア・ティアルジ。この二人は対照的な描写が多く書かれていた。

厳しい家庭で苦労して育ったロゼッタは誰に対しても親切で、頭がよく、明るく愛される”かわいい公女様”。それとは対象的に、ソフィアは父や兄からの寵愛を一身に受け。公女という立場から周りの人間誰一人として彼女を叱ることが無く。我儘で、頭も悪く、取柄と言えば顔だけの”かわいい公女様”。


 同じ”かわいい公女様”と呼ばれる二人だが、その意味は全く違う。

親しみやすい愛称のようなものとして付けられたロゼッタと違い、ソフィアに対しての”かわいい公女様”という言葉は、馬鹿にしたようなからかいの言葉。公爵家の公女である彼女に対して不満があったとしても、軽はずみに蔑むような言葉は使えない。それならばと、悪趣味な貴族たちによって付けられたその呼び名。ただでさえ比べられてばかりだった二人を同じ呼び方をするなんて、皮肉なこと。


 そして十七回目の誕生日の日。ソフィアは帝国の法の下、処刑された。ロゼッタ殺人未遂の罪によって。ソフィアは妬みから、ロゼッタの飲んでいた紅茶に毒薬を入れ毒殺を図ったという。運よく、ロゼッタは口にする寸前で紅茶が変色していることに気づき、命は無事だったが、殺害しようとしたことについては変わりない。ソフィアがたとえ公爵家の娘という強い地位であっても、同じ公爵家の娘であるロゼッタを殺害しようとしたことは当然死罪に当たる。


 でも、それは全て冤罪だった。


 甘やかされてまともに勉強せず頭の弱かったソフィアは終始、何が何だか分かっていないといった様子だった。それも仕方ない、まだソフィアは十七になったばかりの少女。公女として敬われてきた人生が突然犯罪者として扱われ一体何が起きているのかも分からないまま殺された可哀想で惨めな女の子。


(ソフィアは何も悪いことをしていなかったのに)


 そこで今、私が一番大切なのは…



「今のソフィアが何歳なのかって話だけど…」



 今のソフィアは何歳なのか、死刑に合うまであとどのくらいの時間があるのか。


(うぅ!こんなことならメイドたちを部屋から出さなきゃよかった!)


 まぁメイドたちに直接今の私は何歳ですかー?なんて聞けないけどさ。

それこそ、頭がおかしくなったと思われて医者を呼ばれてしまう



「部屋のどこかにヒントになるものがあれば…」



 どこかに、と周囲を見渡すも公爵家の愛娘であるソフィアの部屋はそれはもう広々とした空間が広がっており、豪華な家具が敷き詰められている。



「この部屋、広すぎるでしょ…」



 この中から探すとなると、一体どれだけの時間がかかることやら…。










 皇宮で開かれたとある舞踏会にて。

 着飾った貴族達が話に花を咲かせ、踊り、食事を共にし、夜遅くまで騒ぎ続ける華やかな世界。

 そんな煌びやかな世界の裏は、黒く汚い世界が広がっている。



「やはり今回も宴の主役はレディロゼッタでしょうか?」



 ロゼッタ・ボルジア

彼女はこの社交界で名前を知らない人はいない。いや、この帝国に住む人間で彼女の名前を知らない人などいないだろう。

 噂好きの貴族達にとって舞踏会とは噂をするためのような場所、皆、意気揚々と口を動かす。



「当然のことでしょう。なにせもう一人の公女であるソフィア様には大きな欠点があるではないですか、あれでは結婚すら難しいでしょう?」



 真っ赤な口紅で彩られた唇がにっこりと笑い、香油による薔薇の香りが漂わせた夫人は、話す。



「公爵様はいつまでソフィア様を家へ置いていくつもりなのかしら?ロゼッタ様はもうお相手を決められたというのに。…ふふ、どうですか?伯爵様、確か公爵様のお家にはまだ婚約をしていられない四男がいられましたでしょ?」

「何を言うか、いくら公爵家の娘とはいえ大事な息子の嫁になど…!」



 伯爵の言葉でその場にいた皆の視線は部屋の隅へと移る。そこには体を縮めていたソフィア・ティアルジ公女の姿が。



「もうすぐデビュタントを迎える歳になるはずでしょうに、兄のアナスタシス公子様と来たかと思えばすぐに端へ逃げられてしまうとは、いくら容姿が整っていたとはいえあの傷では使い物にならんだろうな」

「全く、公爵様も大変だ。娘の男嫌いの性格など…」



 ティアルジ家に恨みのある貴族達は、ソフィアに対してありもしない噂を流していく。

それはただ噂が好きだからという理由だけじゃない。娘を何より大切にしている公爵を傷つけるには娘であるソフィアを傷つけた方が早いからだ。



「お兄様…」



 震えた声でソフィアは兄の服の裾を引いた。

私のそばを離れないで、そう語る悲しげな妹の目を見てアナスタシスはソフィアの頭を優しく撫で、聞こえるように嫌味を言う貴族たちを強く睨んだ。

 意気揚々と話していた貴族たちも、流石に公子であり次期公爵からの圧に怖気づき、気まずそうに視線を逸らした。



「奴らの言うことなんかお前は気にしなくていいんだ、ソフィア、お前は何も心配しなくていい。」

「ですがっ、私のせいで、お兄様達まで悪く言われてしまって…!」



 震えた声でそう語るソフィアの目には涙が浮かんでいた。我儘で傲慢と名高いその噂は全くの嘘のように見えた。



「…大丈夫だよソフィア、僕はずっとお前の味方だ。」



 今にも泣きそうなソフィアの顔を見たアナスタシスは、昔から妹に言ってきたその言葉をいつものように呟いた。



「少々口が過ぎましたね…。

確かにアナスタシス様は社交界でも絶大な力をお持ちですから、公子様がおられる限りソフィア様は大丈夫でしょう。ですがやはり!この帝国で彼以上の方は居ないでしょう!"ノア皇子様"はこの帝国の光、その光がお認めになられたレディロゼッタは未来の皇后に違いありませんわ!」

「あらあら、噂をすれば来ましたわよ、今夜の宴の主役である御二方が!」


 

 舞踏会に参加した大勢の人間が一斉に頭を下げる。

それと同時に、会場に現れた二人の男女。ノア・アスタリア皇子とロゼッタ・ボルジア公女。


 …暗く嫌われ者のソフィアとは対照的に、未来の皇帝であるノアにエスコートされ登場した公女ロゼッタは、今この帝国で一番美しいと言えるだろう。


 まさに、この日はロゼッタの人生に光が照らされた、大きな節目となった。

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