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  作者: にゃみ3
1/7

主人公(ヒロイン)とは


 コツコツとヒールを鳴らして、足を進めていく。

 ドキドキと胸の音が鳴り響いて煩い。


 何故なら私は今から、人生初の告白をするから。

 この胸の高鳴りの原因は、けして恋心というやつではない。

緊張や、プレッシャーといったところだ。


 告白の相手は、この目の前で薄ら笑いを浮かべる、腹立つ皇子。


 お願いだから、どうか笑わないで頂きたい。

私は必死なのだ、何故ならこれは、私の人生を掛けた告白だから。


 私はまだ死にたくない。

だから、さあ!私を好きになって、ノア・アスタリア皇子!


 貴方を私だけの王子様にしてあげるから。

 私を、貴方の。そしてこの物語の主人公(ヒロイン)にして頂戴!!




 ・・・こうなったのは、今から数年前。

私が、この世界に存在する。もっと前に遡る








 物語には、数多くの登場人物がいる。

それぞれのキャラクターに役割があり、物語を素晴らしいものとするためにキャラクターたちは動かされていく。


 そう、例えば。あの子は、主人公の友人役(A)、その隣にいるのは友人役(B)。


 そして、今私の目の前に居る。ピンク色が似合う、クラスで一番可愛いこの子は。


(主人公(ヒロイン)だ)



「…ねぇ」



 ただの気まぐれだったのだろう、一軍女子のこの子が私に話しかけるなんて。本当はイヤなくせに、気になる男子が見てるからって笑顔を作って。…相変わらずかわいい。

 リップグロスによって艶々に彩られた彼女の口から発するその声はとても甘い。


(学校、メイク禁止なのに。担任もこの子が可愛いから注意しないんだろうな、私がアイプチした時はみんなの前で外せって怒鳴ったくせに)



「確か…佐藤ちゃん!よね?」



 …佐藤、うん。私の名前は佐藤であってる。

そうだよ。彼女の質問に頷くと、主人公(ヒロイン)はニッコリと微笑んだ。

 この子の名前は立花愛、名前からしてかわいいこの子はまさに物語の主人公(ヒロイン)

部活はダンス部で、チアも兼部しているそう。演劇部の私とは全然違う煌びやかな学校生活を送っているんだろうな、青春ってやつ?



「佐藤ちゃんもよかったら、クラス会に来てくれないかな?」

「クラス会?」

「そう!さっき斎藤君たちと話してて…」



 斎藤君、クラスで一番イケメンな男の子。きっと斎藤君は、このかわいい立花愛が好きなんだろうな、付き合ったりするのかな。いいなぁ青春じゃん。


 そうそう、皆の紹介ばかりで肝心な自分の紹介ができていなかった。私の名前は佐藤。苗字に多いランキング一位に君臨する佐藤、クラスには必ず一人はいる佐藤だ。

 私の役職、それはモブキャラ。



「ほんと?それじゃあ行こうかな」

「うん!是非きて!」



  ”さえないクラスメイトにも笑顔で話す天使のような優しい主人公(ヒロイン)”この文章が彼女の紹介文だとすれば、私はこの文章を作るために、”さえないクラスメイト”として使われる、ただのモブ。


 それでもいいじゃない。

私みたいな光の当たらない暗い人間がいるから、彼女はより輝く。

 モブキャラだって大切な存在、どんな役職の人間だって、物語を形作るうえで無くてはならない存在。

スポットライトが一生当たらない人生?私はそれでも、いい。








「えーっと!じゃあ今回の文化祭の出し物は演劇!それで決まりだな!」



 学級委員の斎藤くんが話すとみんなが一斉にはーい!と声を上げた。教卓に立つ斎藤くんの姿は様になっていて、人を纏めるのが得意な彼は将来教師になっているのかな。なんて想像ができた。



「やっぱりやるには優勝狙いに行きたいよな!じゃあ演劇部の人、とりあえず手上げて!」



 彼の声で手を挙げたのは私と、同じ部活の男子三人。



「なぁんだ男ばっかだな。今回の劇の演目はお姫様と王子様のラブロマンスだろ?王子は男子の中から決めるとして…あっ佐藤ちゃんも演劇だったんだ!」

「えっ!あ、まぁ、一応…」



 私の目の前の席はバスケ部の身長百八十五を超えるデカ男、チビの私なんて簡単に隠せてしまう。きっと斎藤君も初めは見えていなかったんだろう。私に気が付いた途端、ぱぁっと表情を明るくさせて、名前を呼ばれた。なるほど、確かにイケメンだ。彼がモテモテの理由も少しは分かる気がした。



「お!じゃあ佐藤ちゃん主役やっちゃえば?」

「え、でも…」

「えぇ?でも主役のお姫様だったらぁやっぱり愛ちゃんじゃない?」



 会話に割って入ったのは隣の席に座るツインテールの女の子

甘いバニラみたいな香りと、桃の香りがする。二つの香りが混ざって頭がくらくらしてくるほど甘い匂いがするから、ちょっとだけ苦手。この子だって、私みたいな地味な女は嫌いだろう。



「えっ私?」

「確かに愛ちゃん似合いそうだねお姫様!」

「えぇ~?そんなことないよ私演技とかしたことないし!!」



 お姫様役、確かにこのクラスだと立花愛が一番適任だといえる。かわいいし、他クラスにも友人が多いから客引きにも使える。



「佐藤ちゃんは?どう思う?」


 

 斎藤君は一瞬考え込む仕草を見せ、私に問いかけた。聞くまでもない、返事は一つしかないでしょ?この劇をより良いものとするためには。

 そうよ、私なんてお姫様なんて役できるわけない。私ができる役はせいぜいお姫様を虐める継母役くらい。



「うん、いいと思うよ!立花さんかわいいし。」



 結局、私達二年B組のクラスの出し物は大成功に終わった。

今回の演劇舞台は全て、立花愛が持って行った。当然と言えば当然。なにせ人生の主人公(ヒロイン)をしている立花愛にとって、文化祭クオリティの舞台の主人公を務めることなんて容易いことだろう。

 王子様役は勿論斎藤君、二人が並ぶ姿はまさに童話の中のお姫様と王子様。

演技は下手。でも、あの子が舞台に立った途端、花が咲いたかのようにぱぁっと明るくなった。

それはあの子の実力なんかじゃない、素質といったものなのか…持って産まれた才能?私には持てなかったその才能、実力だけじゃどうにもできない。

 悔しかった。私は一生、あの舞台にすら立てない、脇役にすらなれないモブキャラなんだと分かってしまったから。そんなことは初めから分かっていたはずなのに、実際に見るとやっぱり辛い。

 

(演劇だけは勝てると思ったんだけどなぁ)


 そんな言葉を心の中で呟いても自分が惨めになるだけ。神様はどうして嫉妬なんて醜い感情を人に与えたの。私、見た目だけじゃなくて性格まで醜いみたい。








”きゃああ!!”

”おい!女の子が轢かれたぞ!!”

”救急車!救急車を呼べ!”



 あぁ、言い忘れていた。モブキャラには最大の欠点がある。

主人公と違い、人生が必ずしも上手く行く訳じゃない。簡単に命を落とすモブキャラだっている。私が死んだとしても、あの子が主役の物語では何の問題もない。きっとクラスで話題にされるのも三週間くらいかな。その後は話題に上がることもなく、皆が学校を卒業する頃には誰も覚えてないのかもしれない。


(それは、少し寂しい。)


 車によってはねられた体は酷く痛む。段々と、体から熱が消えていく感覚は何だか心地よくて、怖い。

こんな死に方するくらいなら、私にも少しくらいスポットライトを当ててくれたって良かったじゃない神様。彼氏だって欲しかったし、クリスマスデートとかしてみたかった。


…きっと私は、このまま死ぬ。


 死を覚悟した時、最近流行りの”アレ”が頭に浮かんだ。『転生』したら○○だった、というフレーズから始まる物語。そんなわけあるか。とバカにしていたけど、いざ自分が当事者になると信じたくもなる。

 私だって、かっこいい男の子にちやほやされたり、人生勝ち組だーって笑ってみたい。鏡で自分の顔見てうっとりしてみたり、あの子かわいいよねって学校で話題になったり、憧れだよね。


 もし、本当に生まれ変わりが存在するなら。


 今度こそ、私は。



「…主人公になりたい、」



こうして、齢十六の少女は命を落とした。








「可哀想な子、貴方は最後まで光に当たることなく死んでしまったのね」



 少女に話しかけたのは青い光

 真っ暗な空間で、フワフワと浮きながら光っている謎の物体。ゆっくりと上品に話すその声は、とても綺麗だった。



「ここは…?」



 死後、目を開けてみればそこは真っ黒な世界。暫く困惑していると、どこから現れたのか、青い光が目の前で浮いていた。


(神様?それとも死後の案内人みたいなものなのかな)



「貴方には、新たな役が与えられるのよ」

「新たな…?」



 新たなとは、人生のことだろうか。新たな人間として、もう一度人生を送る…?待って、役ってなに?



「脇役公女それが貴方の次の人生の役。」

「脇役公女、」



 公女、?公女ってあの公爵の娘の公女?それって貴族ってこと?!……でも脇役って。

 何が何だか全く理解ができない私の事なんてお構い無しに、その光は話を続けた。



「ソフィア・ティアルジ、これが貴方の新たな名前よ。」

「ソフィア、ティアルジ」



 その名前には、聞き覚えがあった。

 ソフィア?もしかしてあの、ソフィアのことを言っているの?



「えぇ、 ”あの” ソフィアよ」



 青い光はまるで、私の心の中を読んだかのようにそう言う。



「小説 ”かわいい公女様とイケメン皇子様” 、貴方の世界に合った本の登場人物よ」



 昔、友人に勧められて嫌々見た覚えがある。甘ったるい、ロマンス小説だ。主人公である『ロゼッタ』が、かっこいい皇子様と結ばれる素敵な物語。そして、先程この青い光が言った『ソフィア・ティアルジ』とは、この”かわいい公女様とイケメン皇子様”に登場する、キャラクター。主人公ロゼッタの引き立て役となる、脇役公女だ。



「それなら、私はこの物語の世界に生まれ変わるってこと?本の中の人間に私が...」

「その認識は少し間違っているわ、そもそも世界とは色々な時空に存在している。貴方の世界ももしかするとどこかの時空で本として存在しているかもしれないわね」



 世界は全て物語であるということ?そんな、私が生きてきた世界は全て、ストーリーが決まっている作られた存在だったなんて。

 いや、たとえそうだったとしても私には何の関わりもないこと。私の生きてきた世界が物語だったとしても、きっと私は1ページにも映る事ができないモブキャラだから。



「貴方は、脇役のソフィアなんて嫌かしら?」

「脇役の公女様に私が」

「そう、貴方はロゼッタのために作られた脇役の公女になるのよ。仕方ないわよね、ロゼッタは自らの手で主人公の座を掴んだのよ、そんな子に勝てるはずがない。」



 嫌かどうか、そう聞かれたら嫌だと答えるに決まっている。お母さんに会いたい、飼い犬のこむぎにも会いたい。あとついでにお父さんにも。まだやりたいことが沢山あったのよ、死にたくなんてなかった。

 意味が分からない、本の世界の人間になれ?そんな無茶言わないで。



「やっぱり、主人公のロゼッタの方が良かったかしら」

「ロゼッタ、」



 冷静沈着に語っていた青い光が、突然少し寂しげな声色を見せた。

ロゼッタ、物語の主人公の女の子。確かに殺されてしまう運命の脇役公女よりも、主人公のロゼッタに生まれ変わりたいと考えるのが普通だ。



「それはないよ」



 でも私は、ロゼッタよりもソフィアを気に入っていた。何もかも上手くいくロゼッタよりも、ロゼッタを心から羨んでいたソフィアに対しての方が私は感情移入してしまっていた。

 だって、ソフィアは私に似ていたから。自分の立場を理解していても、どこか主人公(ヒロイン)であった立花愛を羨んでいた、自分に。



「嫌なわけない、だって私はただのモブキャラだったのよ。そりゃあ、十七歳で死ぬ運命は嫌だけど、今更前世に戻ることなんてできない。それならチャレンジしてみてもいいよね、新たな人生を」



 モブキャラから、脇役になれるだけで大きな一歩。

ソフィアの人生の方が私のちっぽけな人生より素晴らしいもののはず。



「大学デビューならぬ、公女デビューしちゃいますか!」

「…そう。」



 私の熱烈とした勢いある声とは正反対に、冷静な声で返事をした青い光。



「十七歳での死。それを変える方法は一つだけあるわ」

「えっ、それを早く言ってよ!」

「この世界の、主人公の役を手に入れることよ。」

「…主人公?」



 主人公は、物語で絶対的な存在。確かに、主人公の座を手にした時点で、死のルートは完全に避けれる。物語の世界なら、それは可能なはず。

 それにさっき、この青い光は言った ”ロゼッタは自らの手で主人公の座を掴んだ” と。つまりそれは、ロゼッタは自身の行動により主人公の座を手にしたということになる、それなら私にだって、ソフィアにだってできるんじゃ…



「ロマンス小説の主人公、つまり男主人公ノア・アスタリアのヒロインになればソフィアは主人公になれる…まあそんなことできるわけが…」

「それだ!!!!」

「びっくりした。突然大声なんて出さないで頂戴」



 何故光に言われるまで私は気づかなかったのか。そうだ、ロゼッタが輝けるならソフィアだって輝ける。ソフィアには、そのための才能がある。



「そうだよ、ノアと結ばれて主人公になってしまえばいい。ロゼッタなんて、舞台上から引きずり降ろしてさ」



 全てを手に入れたロゼッタなんて、舞台から引きずり下ろす。

その行為が悪だろうが、なんだっていい。勝った者こそ、正しい。勿論、勝者はソフィア・ティアルジただ一人。



「最高じゃん、だってあの皇子結構私のタイプだし!」



(名前が幼馴染と似てて嫌だったんだけど、顔や性格は正直超絶タイプ!)



「…結構飲み込みの早いタイプなのね、貴方」

「そうかな、初めて言われた。まぁ、高校生になってからは周りに合わした話し方ばかりしていたから勝手に身にしみちゃったのかも。知ってる?JKならではの共感会話。あれ何が面白いんだろうね」



 面白くも楽しくもないのに、自然と笑っていた。頭を使わず、ただ周りに嫌われないように。他の人と違うと思われないように。だってそうしないと簡単に仲間外れにされちゃうから。

 他と違って許されるのは、選ばれた人間だけ。



「ソフィアにも、王子様は迎えに来てくれなかったんだね。私と同じだ」



 私には、魔法使いも、カボチャの馬車も現れない。

自分を探し出してくれる王子様だっていない。それなら、私は自分で歩いていくしかない。

迎えに来てくれる王子様なんて私には要らない、私は自分で幸せを掴みに行くの。



「どうやって、あのノア・アスタリアを恋に落とすつもり?」



 どうやって、か。



「うーん、ノリ?」

「…はぁ?」

「私もよく分からないけど。大丈夫!ソフィア、かわいいし」

「かわいいなんて感情だけで上手くいくとでも思っているの?貴方馬鹿なの?」



 この光、結構毒舌なのね。馬鹿なんてひどい。何も私は適当に言っているわけじゃない。



「かわいいは大事だよ。人生、かわいくないと上手くいかないんだからさ。」



 この世の中、顔が良くないとスタートラインにも立てない。

私は、佐藤として人生を歩んだ十六年間で、それを痛いほど実感してきた。

舞台に上ることができるのは選ばれた、一部の人間だけ。容姿が綺麗だということは、当然の条件。

でも、その点は大丈夫。だってソフィアはとってもかわいいから。



「好きになさい。…貴方に、主人公のスポットライトの光が降り注ぐことを祈っているわ。」



 大きかった光は段々と小さくなり、話す声もどんどん小さくなる。何が何だかまるで分っていない様子の私に、青い光は話を続けた。



「頑張って。貴方にならきっとできるから」

「やっ!ちょっと待ってよ、まだ聞きたいことが沢山あ…!」



 制止の声は遮られ、目の前は一気に光に包まれる。



「____、_________。」



 最後に聞こえた声、それは先程まで話していた冷静沈着な青い光の冷たい声ではなく優しい声だった。









 次に目を覚ました時、私はベットの中にいた。



「おはようございます、公女様」

「「「おはようございます公女様!!」」」



 ベットを囲むようにして大勢のメイドたちが並んでいる。あまりにも大きなお声で挨拶をされるものだから思わず混乱する。いや、それは声の大きさに対する混乱じゃなく生まれ変わりが本当だったと感じたこの感覚に対してか。



「…おはようございます」



 いいや、そんなことはもうどうでもいい。


 私の名前は佐藤なんてダサい名前じゃなくて、ソフィア・ティアルジ。この物語の脇役公女。

 こうして、どこにでもいるモブ女子高生の人生は幕を閉じ、小説の脇役公女ソフィアとしての人生が始まった。



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