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08.両手に花?

特設された水着売り場の前で愁はカップルがほとんどという居づらい空気の中、何故か妹の水着姿を見せられていた。


別の水着に着替える度、これどう? と聞かれる愁はまともに彼女ができたことも無い朴念仁である故、反応に困るというものだ。


こんなことになったのは数時間前、愁のREINに麗奈から水着選びを手伝って欲しいというメッセ―ジが送られてきたからだ。


「麗奈、こういうのは彼氏とくるべきでは?」


「私に彼氏がいるとでも?」


「……ないか」


「愁くんがなってくれても構いませんよ?」


「馬鹿言うなよ」


「冗談です。また水着着るので感想お願いしますよ」


麗奈が試着室のカ―テンを閉めるのと同時に隣の試着室のカ―テンが開き、純白の水着に腰からバレオを巻きと可憐さと清楚さを醸し出した美少女が出てきた。


「お姉ちゃん、これ本当にサイズ合って……――ッ!?」


「リ―シェ……」


「どうしたんですか? 愁くんってリ―シェちゃん、御機嫌よう」


「麗奈も一緒だったのね」


「あら、リ―シェちゃん、お友達?」


「え、ええ、学校のね」


「初めまして、いつも妹のリ―シェがお世話になってます。姉のリゼット・アルナ―タ・天生です」


リ―シェとは違い、落ち着いた大人の雰囲気でモデルと勘違いしてしまいそうなほど綺麗でついつい男の愁が見惚れているとその様子を見たリ―シェがむっとして、愁の足を踏む。


「は、初めまして。リ―シェさんと仲良くさせていただいてます。淺川愁です」


「同じくリ―シェさんと仲良くさせていただいております。霜月麗奈です」


「これからも妹と仲良くしてあげてね」


これ以上いたらお邪魔ねと言ってリゼットさんはその場から立ち去り、麗奈の提案で三人で買い物を続行することとなった。


水着選びを終えると今度は同じショッピングモ―ル内にある霜月グル―プ傘下の女性用アパレルショップへ入り、二人のファッションショ―を見ることになった愁はなんとも言えな気持ちを抱えた。


「愁くんも着てみない?」


「「は?」」


(何言ってんだこいつは)


意味不明な麗奈の発言に愁とリ―シェが理解出来ずにいるとそそくさと麗奈は服を選び、ウィッグをカゴに入れ、愁をバックル―ムに連れ込んだ。


メイクなどその他諸々の準備を終えるとさっき麗奈が服を入れたカゴが置かれた試着室に放り込まれた愁はやめる気配のない麗奈に反抗する気を無くし、諦めて男の尊厳を捨てる。


亜麻色のウィッグを付け、ひらひらのついた襟のある純白のブラウスに丈の長いロングスカ―トを履き、愁は試着室を出た。


美少女に変わった愁の姿を見たリ―シェは目を丸くし、取り出したスマホで愁の女装姿をパシャパシャと連写し、やってやりましたよと誇らしげになっている麗奈も同じように写真を撮りまくる。


そこからは美少女二人の着せ替え人形へと変貌した愁が開放されたのは三時間後で終わった頃には完全に魂が抜け落ち、力尽きていた。


「淺川くん、ごめんなさい。まさかあんなにも可愛くなるなんて思ってなくて少し興奮して迷惑をかけてしまったわ」


(あの興奮は少しなのか?)


と浮かんだ疑問を抑え込む。


「気にするな。麗奈が原因だからな」


「でも淺川くん、勉強会の時に言ってた初恋の人って……」


「リ―シェがお察しの通り、あの写真は俺だよ。嘘をついてごめん」


「い、いえ、問題ないわ」


リ―シェがちょっと嬉しそうな表情をしていた気がした愁だったが気のせいだろうとすぐに忘れた。


反省の色を見せない麗奈は両手に紙袋を持って楽しかったと言いながらベンチへ座る。


「やはり、愁くんはダイヤの原石ですね」


「?」


ぐぅと可愛らしい音がリ―シェの方から鳴り、本人は恥ずかしそうな顔をして目を逸らした。


「そろそろお昼時ですね。リ―シェちゃん、これから何か用事ありますか?」


「いえ、ないけれど?」


「リ―シェちゃんが宜しければ一緒にお昼ご飯どうですか? 愁くんも構いませんよね?」


「ん? ああ、俺は別に構わない……いや、待て。正気か? 麗奈。あの人の店はさすがにハ―ドだろ?」


元々、昼ご飯に麗奈と行く予定だった店のことを思い出した愁は抑えきれない不安に駆られ、別の店に行くことを提案するがあっさり麗奈は拒否した。


「店長の性格はあれですけど味は良いじゃなありませんか」


「あの人もお前にだけは性格をとやかく言われたくないと思うけどな」


「品行方正で才色兼備じゃないですか、私」


「えっと、淺川くん?」


「あ、ああ、ごめん。これから行く店の店長はちょっと、あれだけど気にしないで欲しい」


「ちょっとあれ?」


気分良く前を歩く二人と違い、思い足取りで人生でできるだけ関わり合いたくない人が店長を務める店へ愁は向かう。


その人は千夏と違う意味でめんどくさく、関わると厄介極まりない人間で愁は麗奈と昼ご飯を摂るとき以外は絶対に会わないようにしている。


「久しぶり~、二人とも」


とカフェレストランの扉を開けた瞬間、抱きしめられた。


「お、お久しぶりです。美枝子さん」


「えっ、えっ」


「そちらの子は?」


「彼女は友人です」


「リ―シェ・アルナ―タ・天生です。淺川くんと霜月さんは友達として仲良くさせてもらってます」


「リ―シェ、その人は無視していいから」


「麗奈ちゃん、愁ちゃんは反抗期なの?」


「いえ、クラスメイトの女子と来ているから照れているんです」


「あら、青春ね。これがアオハルというやつね。微笑ましいわ。私があと十年若ければ」


「いや、あんたそんなに若くねぇだろ」


「何か言った? 愁ちゃん」


柔らかい笑顔が突然鬼のような形相に七変化し、やべと思った愁はすぐに否定し、テ―ブル席に座って注文した。


「何も言ってません」


「淺川くん、店長さんとはどういう関係なの?」


「母さんの知り合いで色々世話になってる人。まぁ、近所のお姉さんみたいな感じの人かな」


「あら、そう思ってくれてるのね。嬉しいわ、愁ちゃん」


美枝子さんはプライベ―トゾ―ンもお構い無しに踏み込んでくる人で距離もかなり近いため、愁は苦手なのだが、麗奈とは息がぴったりと合う。


「もう子供扱いしないでください」


「私からしてみればまだまだ子供よ?」


厨房へ戻った美枝子さんを愁が見送っているとリ―シェが予想外の発言をした。


「あ、あのね、あ、淺川くん、夏休みは毎年お母さんの別荘で家族と行くのだけど今年は私残るからま、また一緒に勉強会だめかしら?」


「構いませんよ」


愁よりも早く返答した麗奈に対して不満を口に漏らすリ―シェだが、麗奈も負けず劣らず反論した。


「私、淺川に言っているのだけれど?」


「あら、おかしなことを言いますね。家族も親もいない一つ屋根の下で男女が二人きりなんて何が起きるに決まっているではありませんか」


「な、な、何にも起きないわよっ! その発言こそ不純よっ!」


顔を真っ赤にしたリ―シェが手を震わせながら否定した。


「あら、リ―シェさんったら。何を想像しているのですか?」


嘲笑うようにして麗奈がリ―シェを煽る。


(麗奈の奴、楽しんでやがるな。仕方ない、止めるか)


「べ、別に何も変なことは想像してないっ! してないからねっ!? 淺川くんっ!」


「落ち着け、リ―シェ。麗奈も楽しむな」


「は―い」


「リ―シェ、勉強会の話はまたREINで言ってくれ」


「取り乱したわ」と落ち着きを取り戻したリ―シェは座り、水を飲みながら少し麗奈を睨みつけ、麗奈はにこにこと満足気に満面の笑みを浮かべていた。


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