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06.大切な友人


地獄のような期末考査の期間が終わり、生徒のほとんどが解放感に満たされ教室でたむろする。


勉強自体はそこまで嫌いじゃない愁は日頃から授業の復習を行い、七割から八割は難しくない。


愁は常に一位二位を争うリ―シェと麗奈に比べれば月とすっぽんレベルの話と思っている。


「相変わらず余裕そうな顔してんねぇ~、この優等生めっ」


中等部からの付き合いで親友の古川晃と川瀬千夏がからかうように愁の前に座る。


「まぁ日頃から復習をしてれば七割から八割くらいは固くない」


「さすが、秀才だな。勉強できて運動もできるなんて羨ましい限りだぜ」


「いつの話してんだよ。今の俺はそんなに成績良くねぇよ」


「今日も一段とひねくれてるねぇ~」


「ひねくれじゃなくて事実な」


「勉強ばかりしてもつまらんだろ」


「馬鹿言え。お前らは学生生活をなんだと思ってんだ」


「「青春の謳歌」」


友人二人の馬鹿な発言に愁は呆れる。


「はぁ、少しは勉強しろよ」


「そんなじゃあ、モテないよ? 優しい私が可哀想な親友のために女の子を紹介してあげよう」


「いい度胸だな」


生意気な千夏の頬を愁が無遠慮につねり、「いひゃい、いひゃいよぅ」と涙目で訴えている。


この二人は愁が少し邪険にしても気にしないどころか、しつこくいじり倒してくるため、毎度気疲れする。


休憩がてら自販機でコ―ヒ―を買い、特別教室棟へ繋がる連絡通路に行くと先客がベンチに座っていた。


「姿を見ないと思ってたらこんな所にいたんだな、リ―シェ」


「淺川くん、友達放っておいていいの?」


「問題ない。あの二人と喋ってると俺が疲れる。そういうリ―シェは友達と喋らないのか?」


「私は貴方と違って社交的じゃないから。貴方も知っているでしょ? 他の女子になんて言われているか」


リ―シェは綺麗な顔立ちで性別問わず人気があり、ファンクラブまで存在するくらいだが一方で一部の女子には陰口を色々と言われている。


恐らくそれは女子から人気の男子を尽く振っていることと人付き合いの悪さが要因であることは愁も知っている。


「悪い。確かに今のは俺が無神経だった。ごめん」


「何で貴方が謝るの。私は全くもって気にしていないわ。誰になんと言われても私は変わらない」


「リ―シェ」


「だから貴方も私にあまり関わらない方がいいわよ。貴方まで悪く……」


「やだね。誰になんと言われてもリ―シェは俺の大切な友人だ」


「え? 私が貴方の友人?」


普段の凛々しい表情からは想像できないくらいリ―シェが愁のセリフにぽかんと口を開け、少し首を傾げている。


「友達だろ? 俺達は。違うのか?」


「う、ううん。そうね、私と淺川くんは友達だったわね」


(てっきり麗奈とはもう友達と思っていたが……良くも悪くもあいつは他人と距離を作るから、納得といえば納得か)


「リ―シェ、あ、あれだったらREIN交換するか?」


「し、仕方ないわね。貴方がどうしてもというならしてあげる」


「どうしてもしてほしいです」


リ―シェとREINを交換し、教室へ戻るとリ―シェがト―ク画面で謎のスタンプ連打をしていた。




今日までは半日授業ということで晃と千夏と共に近くのファミレスで昼ご飯を食べることになった愁は昇降口前で二人を待つ。


「わりぃわりぃ」


手を合わせ謝りながら晃と千夏が走ってくるが足音で気づいた生徒指導の先生が職員室の扉を開け、二人を怒った。


「いやぁ、怒られちったよ。さすが海坊主、相変わらず怖いなあ」


生徒指導の海堂先生はスキンヘッドで顔が強面の上、ガタイもでかいため、生徒からは海坊主と呼ばれていた。


「廊下を走るからだろ」


「え―。でも、海坊主で思い出したけどあの先生がサングラス外した姿見てみたくない?」


「興味ねぇよ」


盛り上がる海堂先生の話題を続けていると直ぐにファミレスにつき、六人くらい座れるテ―ブル席に案内された。


愁は晃と千夏の対面側に座り、注文用のタブレットで何を注文するか悩んでいた。


(何を食べようか)


『ご注文承りました』


三人分の注文が終わり、千夏と晃はクラスメイトの恋路の話をしているため、愁はドリンクを注ぎにいく。


綺麗に並べられた冷たいドリンク用のグラスを取ろうと手を出すと白い柔肌の手に触れてしまい、咄嗟に愁が謝る。


「す、すみません」


「私の方こそごめんなさ……淺川くんっ!?」


恐る恐る愁が顔を上げると驚いた表情のリ―シェが困惑している。


(なんで……いや、学校近くのファミレスだから同級生がいてもおかしくは無いのか……)


「リ―シェ、偶然だな」


「そ、そうね。昼ご飯?」


「あ、ああ、中等部からの友人とな。リ―シェもか?」


「ええ」


「正直、リ―シェがファミレスにいるのはちょっと違和感があるな」


「それは不釣り合いと言いたいのかしら?」


「あ、いや、変な意味じゃなくてだな。リ―シェって結構上品な雰囲気だからファミレスとかには来なさそうと思ってさ」


「そんなことないわよ。私はファミレス結構好きだし、コンビニにも行くわ」


「意外と庶民的な」


「偉いのは成功を収めた親であって私じゃないもの。親に感謝しながら、慎ましく生きるのは当たり前よ」


(俺とは違って偉いな……親に感謝か)


自分にはきっと難しいなと親孝行なリ―シェに尊敬の念を抱き、愁はより一層彼女の凄さに気づいた。


「凄いな、リ―シェは」


「突然なに? 貴方からそんな事を言われるなんて……なんというか、気持ち悪いわ」


「リ―シェ節は健在だな」


「それは褒めてるの? 馬鹿にしてるの?」


「愁、麗奈ちゃんが……ってお姫様っ! 初めましてっ!」


「え、ええ」


「私もリ―シェちゃんって呼んでもいいかなっ!? 私のことは千夏って呼んでもいいからっ!」


「そ、それは別に構わないけど……」


「よろしくね、リ―シェちゃん」


興奮気味の千夏が強引にリ―シェの手を取り握り締めるが、当人は少しそのテンションに身を引く。


そんなことをお構い無しに色々と話しかける千夏の頭部を愁が勢いよく叩くと痛ぁとその場にしゃがみこんで呻く。


「少しは自重しろ、馬鹿。リ―シェがビビってるだろ」


「だからって叩かなくてもいいと千夏は思いますっ!」


異議ありと言わんばかりに千夏は右手を挙げ、頬を膨らませて不満を口にした。


「ほう、なら口だけで言うことを聞いたと?」


「全くもって思いません」


「悪いな、リ―シェ。千夏は悪いやつじゃないんだが人が悪いんだ」


「き、気にしていないわ」


「そうか、気にしていないなら良かった。それで千夏何を言いかけてたんだ?」


「そうそう、麗奈ちゃんもたまたま偶然店にいてね。今一緒のテ―ブル席に座ってることを言いに来たの」


三人で席へ戻ると気づいた麗奈が手を振っていた。


「あら、愁くん。まさか一緒の店にいるなんてこれは運命ですか?」


「そんな運命叩き壊してやるよ」


「神に恨まれますよ?」


「こんなことで恨むとは心の狭い神だな」


「何だか楽しそうね? 淺川くん」


麗奈達と楽しげに話す愁へ少し不満を漏らすリ―シェだったが、愁は違う意図の汲み取り方をした。


「すまん、リ―シェも喋りたいよな」


「そういう意味じゃないのに」


消えるような小さい声でポツリと呟いたが愁には聞こえず、代わりに麗奈と千夏が聞き取りにやにやと微笑む。


「愁くん、夏休みはどこか行く予定あるんですか?」


「いや、無いけど?」


「リ―シェちゃんは?」


「私も別に……ない」


麗奈の意図に気づいた晃と千夏がこそこそと互いに愁とリ―シェに聞こえないよう耳打ちをした。


「愁、この五人で勉強会とかどうだ?」


「なんだよ急に。いつもだったら勉強会とか断固拒否するお前が。どういう風の吹き回しだ?」


「いやさ、思い出したんだけどさ。次の学期末テストで赤点だったらゲ―ム禁止って言われてんだよ、俺」


「そういうことなら仕方ない。付き合ってやる」


「リ―シェちゃんも構いませんか?」


「私は別にいいけど」


「決定だねっ!」


誰よりも千夏が大喜びし、店員から静かにするよう怒られていた。

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