05.クマと美少女
何故か、一緒にリ―シェと帰ることとなり、何の話題を振るべきか歩きながら考えていると突然、リ―シェが足を止め何かを覗いていた。
その視線の先を見るとそこは大きなゲ―ムセンタ―で入口側にはクマのぬいぐるみが並べられたUFOキャッチャ―のが設置されている。
ぬいぐるみをじっと見つめるリ―シェの姿が昔の麗奈と重なって、心をグサリとナイフで突き刺されたような感覚に陥り、吐きそうになった愁はトイレへ駆け込む。
(はぁ……はぁ)
鏡に映っている自分を見て、嫌悪感と罪悪感で埋め尽くされ、惨めに感じてしまう。
(何やってんだろ)
「麗奈を散々苦しめて、今更あいつと仲良くして許されるつもりかよ」
(そんなことはわかってる。俺にあいつの兄を名乗る資格がないことくらい)
「分かっていない。お前は麗奈の優しさに甘えてるだけだ」
鏡の中の自分がそう言っているような気がした。
顔を洗い何事も無かったようにリ―シェの所へ愁が戻ると必死にさっき店前から覗いていたクマのぬいぐるみを取ろうとしていた。
「あと少しなのにっ!」
ア―ムが一度ぬいぐるみを掴んで、手前まで来たがぬいぐるみがずり落ちてしまった。
「ちょっと代わってもらえるか? リ―シェ」
「え、ええ」
投入口に百円を五枚入れ、ア―ムを動かし同じようにぬいぐるみの胴体を掴み取り出し口近くまで行き、綺麗に落ちた。
「はい」
手に入ったクマのぬいぐるみをリ―シェに渡すと子供のように満面の笑みで喜び、クマのぬいぐるみを抱きしめる。
(か、可愛いっ! くぅ、クマのぬいぐるみと場所変わりてぇ)
「あ、ありがとう、淺川くん。この子大切にするから」
「お、おう」
照れくさそうにお礼を言うリ―シェをみて、愁も少し照れくさくなり目を逸らした。
「淺川くん、ちょっと待ってて」
そう言って走り出したリ―シェが別のUFOキャッチャ―へ向かい、何度も挑戦し、偶々猫のキ―ホルダ―が二つ取り出し口へと落下した。
頬を少し赤らめながらリ―シェは、キ―ホルダ―の一つを手渡した。
「ん?」
「お、お礼よ」
「お礼? なんの?」
「決まってるでしょ? クマのぬいぐるみを取ってくれたからそのお礼っ! それともなに? 私からは受け取れないって言うの?」
「いえ、滅相もございません。ありがたく頂戴しますよ」
リ―シェからキ―ホルダ―を受け取った愁は一つの疑問が脳内で浮かび、少し考え込む。
(これはラブコメイベントでは?)
どういう表情しているのか気になった愁がリ―シェの方を覗き込むと頬が緩み切り、いつものリ―シェとは別人のようだ。
(頬が緩むくらいぬいぐるみが欲しかったんだな。でもその顔は卑怯では?)
その表情を見た愁も緩みそうになるのを必死に耐えていた。