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02.可愛いのは罪では?


愁は動物の中だとハリネズミが一番好きだ。


どの動物も同じくらい好きだがその中でも小動物は特に好きで見ていて心の底から浄化される感覚になる。


あまりに好きすぎて愁は今日、放課後に学校近くの大きい書店に寄り、ハリネズミの写真集を買い、頬がほころびそうになるのを我慢している。


そして今、愁は究極の選択を迫られていて目の前にある野良猫が集まる公園でリ―シェがしゃがみこんで気持ち良さそうに寝転ぶ猫の頭を撫でにゃあと声真似をしていた。


欲望に負けて、ここで一緒に猫を愛でようものなら、羞恥心の限界を迎えたリ―シェが二度と口を聞いてくれなくなるだろうと愁は思っている。


「にゃあ、どこから来たにゃあ?」


(か、可愛いすぎるだろ)


気を抜いたら猫やリ―シェに対して可愛いと言いそうになるが必死に本能を抑え、愁がゆっくりと後退る。


かこんと何故か足元に転がっていた空き缶を愁が勢いよく踏んずけ、鳴った音に反応した猫が離れていく。


「あっ」


走り去る猫を目で追っていたリ―シェとピタリと視線が重なり、愁に気づいたリ―シェは一瞬で耳まで赤くなった。


「ねぇ……聞いてたの?」


泣きそうなくらい涙目のリ―シェが座り込み、上目遣いで愁に呟く。


「な、何が?」


「怒らないから本当のこと言って」


「き、聞きました」


「や、やっぱり聞いてるじゃないっ! 嫌ぁ、もう死にたい」


「そ、そのなんだ。俺はそういうの良いと思う。猫が好きなのとか凄くわかるし」


「何よ、慰めのつもり?」


「ち、ちげぇよ。ほら、俺も動物好きなんだ」


と落ち込んでいるリ―シェにさっき買ったばかりのハリネズミの写真集を見せる。


愁の小動物好きを知っているのは麗奈か中等部の時のクラスメイトぐらいだ。


一度中等部にいた頃それがバレてクラスの女子にかなり引かれ、それ以降愁は誰にも言わないようにしている。


「そうなの?」


「ああ。他の奴には言うなよ? こんなこと知られたら恥ずかしいし」


「そ、そう。私も秘密にするから淺川くんも秘密にしてくれるわよね?」


リ―シェは何故か少し嬉しそうにガッツポ―ズし、いつものペ―スに戻りつつある。


「当たり前だ」


「約束よ、淺川くん。もしバラしたら一族末代まで早起きできない呪いをかけるから」


「その地味な嫌がらせレベルの呪いについてはまぁ置いといて。約束はちゃんと守る」


気まずい空気の中、リ―シェを最寄り駅近くまで送った愁が自分の家に帰るとロ―ファ―が脱ぎ捨てられている。


その靴を見た瞬間に嫌な予感がして、リビングの扉を開けるとハリネズミのみ―ちゃんが入っているケ―ジの前でにやにやと愛でる見覚えのある後ろ姿が愁の視界に入った。


「お前、また勝手に入りやがったな」


「折角にぃにの代わりにみ―ちゃんの面倒を見ててあげたのにその言い方は失敬だなぁ」


クラスメイトやリ―シェにすらも言っていない秘密が愁にはある。


「それについてはありがとう。でも、それとこれとは話が別だぞ、麗奈。合鍵を渡せ」


母親譲りの綺麗な顔立ちと心許ない胸以外に栄養が行き届いて、バランスの良いスタイルで、成績はかなり優秀でリ―シェと並んで容姿端麗かつ才色兼備、天使と呼ばれている箱入りお嬢様こと霜月麗奈は愁の妹だ。


母親と喧嘩になり、今は父の姓を名乗りこうして一人暮らしし、色々と面倒臭いため学校では赤の他人を演じている愁と麗奈という訳だ。


「ごめんなさい、それは無理です」


「何で俺が振られたみたいになってんだよ」


「へぇ、にぃに、そんなこと私に言っていいの?」


「なんだよ」


「にぃに、今日学校近くの公園でリ―シェちゃんと仲良く喋ってたでしょ? しかも、小動物の話題で」


「な、何でお前が知っているんだよ」


記憶を遡ってみてもあの場にいたのは自分とリ―シェの二人だけだったはずと頭で考え、麗奈が学校から後ろをつけ、話を盗み聞きしていたとしか思えない愁は麗奈に対して呆れを感じていた。


「私につけられるようじゃまだまだだね」


「何を目指してるんだよ。なんかもう……一周回ってお前のことが心配になってきたわ」


「私は素直になれないにぃにが心配だよ。しかも、どれだけ焦らすのかなっていつも思ってるよ」


「何の話かわかんねぇよ、それは」


「で、にぃにはリ―シェちゃんのどこが好きなの?」


「お前まで何言ってんだ」


「ってことは他の人に聞かれたの?」


「千夏にな」


「ち―ちゃんにねぇ。でなんて答えたの?」


「お前に言う必要性がなくないか?」


「いいじゃん……って言いたいとこだけど、にぃに、私はそれなりに妹として兄の心配をしてるんだよ? だからにぃにに好きな人が出来て嬉しいし、理想を言うなら……ううん、これは私が言うべきじゃないかな」


「うむ」


愁は思っていた以上に自分のことを考えていてくれた麗奈に驚きつつ、眉を寄せて困ったような顔で悩んでいる。


「ま、にぃにが奥手なのは別にいいけど、リ―シェちゃんのことも考えてあげなよ? 部外者の私がとやかくいう権利はないし、言うつもりもないからこれ以上は何も言わない」


「何言ってるのかわからん」


「とにかく、二人のペ―スでいいけど気持ちはちゃんと早めに伝えなよ? じゃ、また明日ね」

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