13.恋は短し急げよ乙女
部屋に入ったリ―シェが愁から貰ったぬいぐるみに顔を埋め、んがぁと悶えているとそこにノックもせずに姉のリゼットが座布団の上に座る。
(うぅ、私また淺川くんに冷たい態度をっ! で、でも悪いのは私以外の女の子と仲良くする淺川くんの方よ)
起き上がったリ―シェはぬいぐるみを離さずに不満そうな面持ちで勝手に部屋へと入ってきたリゼットを反抗的な目で睨む。
「何? 姉さん」
「ノックし忘れたのは謝るけどそんな目で睨まれたら姉さん、悲しいわ」
「それ前も聞いたわ。で、なに?」
「リ―ちゃん、もしかしなくても前偶然会った淺川くんって子のことで悩んでるの?」
この姉はどうしてこんなにも自分の事になると敏感なんだろうかと思ってしまう。
「別に……」
「姉さんにドンッと任せなさい」
「嫌よ。頼りない」
「むっ、そんなことないわ」
ぷくぅと頬を膨らませたリゼットは拗ねるようにそっぽ向くが構うのがめんどくさいリ―シェは無視する。
「この気持ちは姉さんには分からないわ」
「えっ、リ―ちゃん?」
リゼットを無理やりリ―シェが部屋の外へと押し出した。
「次、ノックなしで入ってきたら口聞かないから」
「ご、ごめんなさい。もうしないから~。許してぇ~、リ―ちゃん」
閉めた部屋の扉にもたれかかったリ―シェは自分がどうしたいのか、この心をギュッと締め付ける気持ちはなんなのか分からず考え込む。
リ―シェ自身も本心では愁や麗奈、ほかのクラスメイトとももう少し仲良くしたいとは思っているがどう向き合ったらいいのか分からず、愁にはついつい強く当たってしまう。
噂についても本当は辛く、あまり聞きたくもないし、愁にも聞かれたくないリ―シェだが自分が彼に対して抱いている感情がなんなのかは分からない上、いざ彼の前に立つと反応が怖く何も言えずにいる。
(はぁ、私ってなんでこんなに酷いんだろう。それに淺川くんの顔を見ると目が離せなくなるし)
もし、彼に聞いてしまったら今の関係が壊れてしまうのではないかと思い、踏み出せずにそれが半年以上も続いている。