12.ザ・お嬢様と姉の気持ち
季節は秋だが今年は暑さがまだ少し残っているため、ほとんどの生徒は夏用の制服を着用していた。
そんな過ごしやすい格好で愁は気だるさがマックスに到達しつつあった。
理由はあと一月で二日に及ぶ煌凌学園の学園祭である煌凌祭の準備が着実に始まっているからだ。
特に生徒会の仕事が忙しく、ここ最近はあまりリ―シェと喋れていない愁は、同じ庶務としてリ―シェと一緒に各クラスと参加する部活に出し物をするために必要な書類を渡しに行く。
「これで最後ね」
「城ケ峯先輩のクラスか……」
(あの人、ちょっと苦手なんだよなぁ……)
「そんな反応するなんて失礼とは思いませんの? 愁」
目的の教室の前まで遅い足取りで着くと扉が開き、金髪の縦ロ―ルのザお嬢様という見た目をした城峰先輩が顔を出し、その顔は微笑んでいるが目は笑っていない。
「げっ、城ケ峯先輩」
「ご機嫌よう、愁、リ―シェさん」
「こんにちは、城ケ峯先輩」
「先輩、来週までの提出をお願いします。では」
愁は城ケ峯と顔を合わせずにプリントを渡し、すぐにその場から離れようとしたが察知したのか愁の肩に手を置いて引き止める。
「あら、そんな急いで帰らなくてもよくてよ? ゆっくりしていきなさいな」
「あ、いや、遠慮しておきます」
「つれませんわね。私と愁の仲ではありませんの」
「語弊を生むような言い回しはやめてくれません? 痛っ」
リ―シェが思い切り愁の脛を蹴るとあまりの痛みにしゃがみ込み、足の小指を箪笥の角にぶつけたような激痛が走る脛を抑える。
「へぇ、城ケ峯先輩と一体どういう仲なの? 淺川くん」
「ご、誤解だっ! 城ケ峯先輩は……」
(従姉妹だなんて言ったら麗奈との関係がバレかねないか)
「リ―シェさんは愁の恋人ですの?」
「えっ?」
「おいっ」
「私にとって愁は大切な弟みたいなものですの。こんなことは言いたくはありませんがもし貴女が噂通りの人だと言うなら私は見過ごせませんわ」
城ケ峯の言っているのはリ―シェがあまり他の生徒と交流を持たないことからそれを利用し、彼女を嫌っている女子生徒や振られた腹いせに男子生徒がパパ活をしているだの、色んな男と付き合っているだのと根も葉もない根拠の無い噂のことだろう。
愁は知っている城ケ峯華蓮が噂なんて根拠の無い話を信じるような人間では無いことを。
「少なくとも私は淺川くんを良き隣人で良き友達と思っています。私は彼に何度も助けられています。それを仇で返そうだなんて思ってません。もし彼が私の噂で悪く言われるようなら私は自ら身を引きます」
「リ―シェ」
「ごめんなさい。私としたことが軽率な発言をしてしまいましたわ。城ケ峯の娘として恥ずべき行為、非礼をお詫びします」
「気にしてません。城ケ峯先輩が言うことにも一理あると思います」
「ありがとう。それで私と愁の関係ですわね? 私と彼はまぁ幼馴染みみたいなものですの。あ、誤解はしないでくださいまし。あくまで私は愁を弟のようなものと思ってますの」
「な? この人は俺にとっても姉みたいなもんだからやましい関係じゃないから」
「そう、なら帰りましょう」
「お、おう」
「愁、頑張りなさいな。私は貴方の選んだ道なら家族として先輩として応援しますわ」
「ありがとう、城ケ峯先輩」