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11.騒動の兆候


夏休みも明け新学期が始まった。


九月ということもありまだ皮膚を刺すような暑さが残っている。


久しぶりの教室へ入った愁は突然、胸の奥に嫌な気持ちが湧き嘔吐感が襲いら、ぐにゃりとバランスを崩し倒れそうになった。


(初等部の時みたいなことは無いはず……なのに俺はどうして……)


「淺川くん? 顔色悪いけど大丈夫?」


「あ、ああ。大丈夫。それとおはよう、リ―シェ」


「ええ、おはよう。淺川くん。本当に大丈夫なの?」


「おうよ。ちょっとリ―シェの水着すが……っ!?」


少し愁が冗談交じりで言うと顔を真っ赤にしたリ―シェは愁の頬を思い切り平手打ちし、怒りながら教室から出ていった。


「最っ低ッッ!? そんなに元気なら大丈夫そうねっ! 心配して損したわっ!」


ずっと怒っていたリ―シェは結局放課後になっても愁とは口を聞かず、さっさと帰ってしまい、REINでも謝り、今度買い物に付き合ってくれたら許すという話になった。


夏休み中、埜生とした約束を思い出し、急いで生徒会室の隣にある空き教室へ急ぐと待ちくたびれた埜生と麗奈が楽しげに談笑していた。


「悪い。遅くなった」


やっほ~と手を振りながら座っていた埜生が教室に入ってきた愁を手招きする。


「全然大丈夫だよ。あさりん~」


「で、話って?」


「もう答え聞いちゃう?」


「もしからかうために呼んだのなら帰る」


「待って待って。話は本当にあるから」


退室しようとした愁を引き止め、深呼吸しながら埜生がゆっくりと話し始めた。


「私の祖父が政財界の重鎮ってことは知ってるよね?」


総裁選に当選した時に色々な改革を成功させ、その実行力と行動力によって国民から多くの支持を受け、政治家を辞めた今でも内閣に多大な影響力を持っている松瀬京三、それが埜生の祖父で霜月の家にも何度か来ていて、愁や麗奈も毎年行われている桜覧会で会っている。


「ああ」


「それは存じています。今の内閣でも大きな発言権を持っているということは有名な話ですからね」


「さすが霜月。これから話すのはそのツテで手に入れた話だから聞いたら最後、何かしら巻き込まれるけど大丈夫?」


(面倒事は嫌だが、埜生は確かに麗奈にも関連すると言っていたから聞かない選択肢はないだろ)


「ああ、別に構わない」


「今この学園では学閥が生まれ始めている。多くの政財界関係者やこの学園のOBOGが属する栄王会を支持する派閥と生徒の意志を優先する現生徒会派、それとその両方を瓦解させようとしている近藤先輩率いる革新派」


近藤先輩は数ヶ月前に色々と問題を起こし、その結果現生徒会から外された元風紀委員長で噂では実家から勘当を受けたとも聞いている。


「学閥の件については聞いたことがありませんね。まさかそんなことが……」


愁自身も話どころか噂一つ聞いたことがなく、麗奈の持つ情報網ですら入ってこない。


つまりかなり厄介な話であり、霜月にとってもあまり芳しくない状況ということだろう。


「当然だよ。この件は理事長が箝口令を敷いているからね。でもこの状況が続けば今年の夏か秋頃辺りに行動を移すだろうね、近藤先輩なら」


「それもお前の情報網か?」


「それは企業秘密。でも君にとってもよろしくない状況だよね? このままじゃきっと霜月はれなりんを巻き込んでいくつもりだよ?」


「まぁ、麗奈を巻き込むなら無視できないし、容赦するつもりもない」


「愁くん……変なもの食べた?」


(こいつ……)


「おい。シリアスシ―ンにギャグを入れるんじゃねぇよ」


麗奈の突然のおふざけに埜生は吹き出し、床でお腹を抑えながら笑い転げている。


「あはははははっ! いや、ほんと君達兄妹面白いね。嫌いじゃないよ、そういうの。笑った笑った。ふぅ、話戻すけど、外部の人間が入ってくる体育祭と文化祭については特に気をつけた方がいいよ。助けてくれた恩は返しておきたかったから一応忠告しにきたの。れなりんとも友達だしそれにりんりんを応援してるからね」


「一応聞くが埜生、お前は俺達を嵌めようとしている敵か味方か、どっちだ?」


「私はいつだって私を尊重してくれる人の味方かな~?」


「そうか。それと一つ聞いておきたいんだが……」


「なにかな?」


「俺にはお前を助けた覚えがない」


「その話かぁ。この子知ってる?」


埜生が胸ポケットから出し、見せてきた写真には黒髪に三つ編みに眼鏡をかけた小学生くらいの女の子が映っていた。


「ん? これは埜生の妹か?」


「私だよ?」


(私? いや見た目が違いすぎないか?)


「「ッ!?」」


二人して写真と埜生を何度も交互に見比べるがあまりにも見た目が違いすぎて、理解するのに数分かかった。


「その反応久しぶりだなぁ。私こう見えて小学生の時は芋女だったんだよ? しかもいじめられっ子でね。公園でいじめられていたら君が助けてくれたんだよ。あさりん。精神的にも肉体的にも強かった君に憧れて、私も代わる決心がついたの。だからありがとう」

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