10.妹の本心
部屋に帰ると麗奈はソファ―に横たわり、朱音はなんてことない顔で夜ご飯の支度をしていた。
愁も疲れ切り、女装を解き直ぐに風呂へ直行し、十五分くらい湯船に入る。
逆上せるまえに湯船から上がって、脱衣所に出ると産まれたままの姿にバスタオルを纏っただけの麗奈がわざとらしい仕草をしている。
「いや―ん、愁くんのエッチ」
「魅力の欠けらも無い体に興味もねぇよ。まず妹の体に興味がねぇわ」
「辛辣~。そもそも私の体はまだ発展途上です~。ボンキュッボンの未来が待ち遠しいくらいだよ」
「例えが古いって。昭和の生まれか」
「かえってこれは斬新だと思う」
「はいはい。とっと風呂入れ」
話してる間に着替えた愁は脱衣所から出ると扉を閉め、リビングのソファ―に座ってREINのメッセ―ジを一つ一つ確認し、朱音の淹れたコ―ヒ―を飲む。
「あ、あの、愁様。一つ尋ねてもよろしいですか?」
「ああ、どうした?」
「愁様が霜月の人間であることは恐らく埜生様も気づいておられると思います」
何となくだが埜生が正体を知っているという可能性には愁も気づいていて、もう一つ気になることもある。
それは愁が埜生を助けたという話で愁にはそんなことをした覚えがなかった。
「だろうな、あの感じ。昔から知ってる感じみたいだし」
「その上で申し上げます。あの方が愁様の正体をバラさないとも限らないかと」
「それは無いと思う。まずそんなことをしても埜生に何の得もないだろ。結局俺は霜月にとってお荷物だからな」
「愁様」
「麗奈や朱音は俺を持ち上げてくれてるけど二人が思ってるほどの良い人間じゃねぇよ。卑怯で卑屈で無力な役立ず、それが淺川愁って人間だ」
「しゅ、愁様っ! そ、それ以上は止めましょうっ! 愁様はそんな人ではありませんからっ!」
いつにも増して焦る朱音が愁の言葉を止めようとする。
「そう言ってくれるのは嬉しいがさすがに言い過ぎだ」
「そ、そうではなく……」
「兄様、どういうつもりです?」
「れ、麗奈? 何をそんなに怒ってるんだよ」
風呂から上がったのかシャンプ―の香りを漂わせた麗奈からは恐怖を感じるくらいの冷気を感じ取り、かなり怒っているというのが愁には理解できた。
「兄様、私が悪く言われたらどう思いますか?」
「そりゃあ、ムカつくけど」
「では兄様、申し上げますが……私も大好きな兄様を悪く言われるのは相当に腹が立ちます。例えそれが本人だろうと変わりません。兄様が思ってるよりも兄様は人に気を使うことができて、誰にでも手を差し伸べ、多くの人が感謝しています。私は人知れず常人の何倍もの努力をして皆に天才ということを納得させてきた兄様を知っています。そしてそんな兄様を私は誇りに思ってもいます」
「わ、分かったから。俺が悪かったから。落ち着いてくれ、麗奈」
「兄様が反省するまでやめるつもりはありません。兄様、分かっています。だれかの期待に応えるのが怖いのも辛いことも。でもっ! 私だけは兄様を否定しません。だからッッ!」
「確かにお前のことを考えずに答えたのは本当に悪かった。でももうあの頃の俺にはなれない。麗奈が尊敬してくれていた霜月愁には……。これは全部自己満足なのは分かってるしお前に責められても仕方ない」
「ごめんなさい。私がムキになっていました。兄様、それでもこれだけは言わせてください。兄様が本当にもし、昔のように……いえ、自分のためにその力を使うなら私が支えますからいつでも言ってください」
「ありがとう、麗奈」