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09.美少女?と黒歴史


翌日、麗奈から電話がかかってきた。


厄介事だろうと確信した愁は電話を無視し、タオルケットに包まって、目をつぶるが何度も鳴り、一向にやめる気配はなかった。


仕方なく嫌々愁が電話に出るとどうやら麗奈が友達と霜月の傘下が経営しているプ―ルやスポ―ツを楽しめるリゾ―ト施設へ行くため、付いてこいというものだった。


「断固拒否。絶対に嫌」


『にぃに、リ―シェちゃんの水着を見たくないの?』


「なんでリ―シェが出てくる」


『リ―シェちゃんも誘ってるからだよ』


少し悩んだ愁だったが、リ―シェの水着姿をもう一度見たい欲望に負け、行くと伝えてしまった。


「分かった、行く」


「にぃにのそういう欲望に忠実なところ私嫌いじゃないよ」


と扉が勢いよく開く音がし、玄関に行くと私服姿の麗奈が仁王立ちしていた。


「つまり、俺に拒否権はなかった訳だな?」


「モチのロン」


この絶賛兄を舐め腐っている愚妹を殴りたいと思う衝動を押さえ込みながら愁が着替えるために部屋へ戻り扉を閉めようとしたら、麗奈が閉めさせまいと邪魔をする。


「お、おい、俺はこれから着替えるんだ。邪魔をするな」


「にぃに、忘れてない? これからいくリゾ―ト施設は霜月の傘下」


「まさ、か」


「ええ、そのまさかだよ。もし万が一にも、霜月本家の者に見つかれば連れ戻されるのは目に見えてるよね?」


麗奈の言っている意味の本質に気づいた愁はゆっくり後ずさり、それと反対に不気味に微笑む麗奈が壁際まで追い詰めていく。


「お、落ち着け。麗奈よ、話し合えば分かり合えるはずだ、そうだろ?」


「にぃに、それは無理だよ。諦めて。やりなさい、朱音」


「御意、我が主の御心のままに」


「ま、待て。お、俺にも心の準備ってものだがなぁ……あああああああっ!」


愁の必死の抵抗も虚しく、麗奈と朱音の主従コンビの連携により、水着購入以来の霜月瑠璃が再誕した。


瑠璃というのは勝手に麗奈が名付けたもので麗奈曰く騙すなら味方からとウィッグの色は銀髪で麗奈の妹という設定らしい。


祖父にバレれば終わりではと愁が聞いたら本家の人以外だったら問題ないらしい。


「さすがは愁様。可愛らしいです」


「嬉しくねぇよ」


「何度見ても瑠璃ちゃんの姿はたまりませんなぁ、ぐへ、ぐへへへ」


折角の美人顔がヨダレをたらしみっともない顔になっていて、愁は呆れて溜息がでた。


「マジでそれは引くぞ、妹よ」


「冗談はさておき。今のにぃには私の妹、瑠璃として演じてもらうからたとえリ―シェちゃんが相手でもバレないようにね」


「は、はい、麗奈お姉様」


理由は分からないが霜月にいた時、叩き込まれた変声術を駆使して女の子に近い声を出す。


「う、うへへ、かわゆいんじゃあ」


「俺よりお前が心配なんだが?」


「こほん、大丈夫。お遊びはおしまいっと。ふぅ、では、行きましょうか。瑠璃」


「はい、麗奈お姉様」


(くぅ、こんな屈辱を味わう日が来ようとは。こんなことになるなら晃の誘いを受けてればよかった)


昨日友人との映画鑑賞を断ってしまったという事実に後悔しながり、車に乗り込んだ。


集合場所である学校の校門前に着くと既に全員が揃っていた。


珍しくポニ―テ―ルにしたリ―シェとリ―シェや麗奈とも引けを取らない美貌でモデルもやっている同級生の埜生真彩、母性が歩いているような包容力のある学園の女神こと生徒会広報の稲郷奏音が車に乗り込む。


「麗奈、その子は?」


怪訝そうな表情でリ―シェが麗奈の隣に座っている見知らぬ美少女へと視線を移し、眉をひそめる。


「はじめまして、霜月瑠璃と申します。姉の麗奈がいつもお世話になっております」


「私はリ―シェ・アルナ―タ・天生よ。この通り、イギリス人と日本人のハ―フだけど日本語は普通に喋れるから気軽に話しかけてくれて構わないわ」


(ごめんよ、リ―シェ。騙す感じになって……)


純粋に自己紹介を信じる友人に愁は心の中で謝る。


四人との自己紹介を終え、愁がスマホを触ろうと鞄に触れた瞬間、麗奈の素早い動きでその手を掴まれ見えない攻防が起きた。


『どういうつもりだ?』


『そのスマホを出したら愁くんということがバレます。特にリ―シェさんは気づきますよ』


他のメンバ―に聞こえないくらい小さな声で愁と麗奈が会話する。


『それは思いこみすぎだろ』


『男の愁くんには分からないと思いますが、女性の勘というものは鋭いんです』


『いや、それはわかんないだろ』


『いいですか? 今皆さんに正体バレたら私は見て見ぬふりをしますよ?』


麗奈の忠告を受け入れた愁は、鞄に触れようとしていた手を淑女のように膝の上へと戻し、何も無かったように振る舞う。


編み込んだ髪に水色のリボンをした特徴的な見た目の少女が仲良さげにリ―シェと喋り、麗奈達もそれぞれ話に夢中となり、愁は朱音からこれからの予定を聞き、その場をやり遂げた。


朱音の案内でリゾ―ト施設へ入り、支配人の好意で割引券や無料券を貰いそれぞれ用意した水着に更衣室で着替える。


愁は行くと思っていなかったため、水着は用意していなかったが麗奈の完璧な準備によって純白の女性用水着着せられ、必死の抵抗で何とかその上からTシャツとハ―フのジ―パンの着用ができた。


(ぅぐ、どうして男の俺がこんな目に……)


悔しさを滲み出していると楽しげにする麗奈を見て、これも悪くないかと愁は独りでに納得し、パラソルの下で休む。


気を利かせた朱音が買ってきたであろうキンキンに冷えたメロンソ―ダをテ―ブルに置いた。


「しゅ……瑠璃様、飲み物はこちらでよろしかっでしょうか?」


「お……いえ、私のことは気にしないでください」


「や、やはり、私のような未熟者では瑠璃様を満足には……ならばこの命を以……」


「朱音っ!? ちょっ、違うから、その忠誠心は凄いけど……その、今日は朱音もわ、私に気を遣わずに楽しんでって意味だからっ!」


慌ててカナヅチであるというのに水深の深い方へ行く朱音を止め、言おうとしていたことを説明した。


「し、しかし、私は従者ですので」


「優しいな、朱音」


「それに瑠璃様の姿は私としては全然萌えますからむしろご褒美かと……うへ」


「なんか朱音も麗奈に似てきてない?」


「そんな恐れ多い……」


「呼んだっ!?」


突然、後ろから現れた麗奈が肩に触れ、それに対してびっくりして手に持っていた飲みかけのメロンソ―ダが滑り落ちそうになる。


「うぁっ! び、びっくりするので急に現れないでもらえます?」


「ごめんごめん」


「それで何しに来たんですか? みんなと遊んでいたのでは?」


「みんなまだ遊んでるよ」


「ならまだ一緒に遊んでていいですよ?」


「つめたぁい、瑠璃ちゃん、もう少しお姉ちゃんに愛をください」


周りの目を全く気にすることなく麗奈がすりすりと頬擦りをしてきたが愁は邪魔な頭をどかそうとする。


「離れろ」


(う、うぜぇ)


「もうツンデレなんだから、瑠璃ちゃんは」


麗奈が頬をツンと突いて、愁はイラッとくるが我慢しつつ、軽く受け流した。


『今日はなんでこんなに構って何だ? 朱音』


麗奈には聞こえないよう愁が小声で朱音の耳元で聞いた。


『それはおそらく愁様と遊べて嬉しいからかと……一週間から準備を整えて楽しみにしてらっしゃいましたので』


『それであんなにテンションが高いわけか』


『はい。愁様、今日は麗奈様に付き合っていただけませんか?』


『最初からそのつもりだよ』


「朱音も瑠璃ちゃんも私を除け者にしてコソコソ話ってズルい。はは―ん、もしかしなくても瑠璃ちゃんってば朱音を狙ってたの?」


「何を言ってるんですか、そんなわけないでしょう」


妹の馬鹿みたいな妄想を軽く受け流していると少女が愁の元に駆け寄ってきた。


編み込んだ髪にリボンを付けた特徴的な見た目の彼女は、世界的に有名な医師を親に持ち、学園では常にカ―スト上位にいるようなギャルだが、積極的に学校周りの掃除を率先してやるような社交的な一面も持っているため男女問わず人気がある。


「ねぇねぇ、るりりん、ちょっといい?」


「るりりん?」


「そっ、るりりん。君のことだよ、淺川愁くん?」


「「え?」」


埜生の意表を突くような発言に三人が驚きの顔を隠せずにいると彼女はそのまま言葉を続け、更なる衝撃を与えた。


「私は君に一度助けられてるんだよ? まぁ君にしてみれば大したことをしたとも思ってないんだろうけど」


(助けた? 俺が? いやそれよりも何でバレた?)


「あ、勘違いしないでね? 君の変装は完璧だよ。普通なら絶対気づかないから。私はモデルだから骨格を見れば性別を判別できるってだけ」


「そ、それもすごいと思いますけど」


「きっと、苗字が変わってるから何か言えない事情があるんだろうし詮索はしない。でも、私から話しておきたいこともあるからそうだなぁ……急ぎじゃないし夏休み明けに生徒会室の隣の空き教室で話をしよう」


「わ、分かった」


「んじゃ、話も終わったしりんりんと先輩のところへ行こう」


「ちょ、ちょっと、待ってください」


話を呑み込めない麗奈が愁とリ―シェのところへ向かおうとする埜生を呼び止める。


「気になるなられなりんも来ていいよ? きっとれなりんにも関係ある話だから」


埜生の意味深な発言に怪訝な表情をしつつ、今は考えてもしょうがないと判断した愁と麗奈は問いただすことを諦め、遊んで忘れることにした。

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