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護誓散華  作者: くじゃく
望郷なる児
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三十一 戦争(3)

 宁麗文と肖子涵は汪氏の門弟と共に迫り来る軍から北武の住民を避難させていく。門の外へ出て洞窟へと思い立っていたが、それに気付かれてしまえば袋の鼠の状態になってしまう。別の道に進んでも邪祟がたむろしている可能性もある。ではどうすればいいのか?

 肖子涵は腰を低くして一枚の札を地面に叩きつけた。すぐに陣が発動して宁麗文が集めた住民の周りに防護壁を立ち上がらせる。彼はそれを見て他のところへ向かって兵を蹴散らしてから同じことをした。

 「皆さんはここで待っていてください! 君たちも守霊術を掛けて!」

 宁麗文は住民、そして汪氏にそれだけ言って陣から出て進んでいく。門弟たちも彼の言葉に頷いて散り散りになりながら術を掛けにまわった。

 「肖寧、札はあとどれ位残ってる?」

 「あと数枚ほど。しかし、兵の数が多くて避けきれない」

 「だろうな。こんなにキリがないのは膳無以来だ」

 宁麗文は剣だけでなく足技でも気絶させていく。肖子涵も相手の剣を自分の剣で払い落としてから顎を下から殴っていく。

 遠くに号令が響いてその直後に弓矢の音が聞こえた。宁麗文は上を見てそれを避け続ける。

 (クソ、弓もあるのは面倒すぎる! 壁の上にいるっぽいな……)

 宁麗文は登れそうな梯子を探す。しかし、秋都漢氏はそれを想定していないので当然見つからない。その間にも逃げ遅れた住民は矢の雨を受けて次々と倒れていく。宁麗文は奥歯を噛み締めながらただひたすらに殴り蹴りを続けた。

 肖子涵は相手の剣を奪って地面に刺してから拘束符を数枚取り出し、柄に飛び上がってから顔を目掛けて投げていく。それを貼られた湯氏の兵は次々と身動きが取れなくなって倒れ込んだ。そのまま廓偲を仕舞って向かっていく彼らの攻撃をかわしながら胸を蹴り、顔を鷲掴んで吹き飛ばす。兵や門弟たちはその『誰にも勝てない』男を見て恐れおののき始める。肖子涵は次の一人の男の顔を鷲掴んだまま宁麗文に振り向いた。

 「宁巴。上は俺がやる。ここにいる者は全て頼む」

 「はあ!? どんだけいると思ってんだ!?」

 剣を持ちながら顔に蹴りをかます宁麗文に肖子涵は息で笑う。

 「任せたぞ」

 そのまま彼は鷲掴んだ兵を他の湯氏たちがいる場所へと投げて、門へ一直線へと向かっていった。宁麗文は頬をひくつかせて「ふざけんなよ……」と怒りを表し始めた。

 

 黒煙が酷くなる。空を見れば全てが黒く見えた。宁麗文は住民に襲いかかる兵を殴っていき、その度に彼らを避難させて守霊術の中へ放り込んでいく。止まらない兵たちに段々苛立ちを募らせ始め、遂に爆発した宁麗文は目尻を吊り上げながら暴言を吐き始めた。

 「なんでこんなに多いんだよっ! 疲れるだろうが! いい加減にしろ!!」

 そのまま足を上げて兵の顔を踏んでから飛び上がって次々と彼らの顔を踏みながら走っていく。祓邪を仕舞ってから地面に手をついて顎目掛けて蹴って、兵を飛ばしてから着地する。乱れた髪をそのままにして肩で息を荒らげながら拾った兵の軟剣を地面に突き刺して霊力を注ぐ。彼の周りに陣が張られ、それに入った湯氏たちは瞬く間に泡を吹いて倒れだした。

 「ほんっっっとーーに許さないからな……覚悟しておけよ……」

 軟剣を地面に突き刺してからゆらりと身体を起き上がらせる。目には苛立ちを含ませており、鬼に近い形相になって彼らを睨む。彼らは宁麗文を見て悲鳴を上げながら、それでも向かっていく。宁麗文は壁に向かって「肖寧! 後で覚えてろ!!」と怒りを吐き捨ててから兵たちに立ち向かった。

 一方その頃、肖子涵は壁の外にいる門弟たちを捨てられた剣で陣を作って封じ込める。そこから出られない彼らは肖子涵に向かって弓を引くが、彼はそれを全て避けて飛んでから一人の顔を踏んでその先にある梯子に腕を伸ばして掴んだ。怒号の中でも平然と上っていき、下から数人が彼を追っていく。肖子涵は懐から拘束符を取り出して先頭に上っている男の顔に貼りつけて崩し落とした。目をくれることもなくそのまま登りきって壁の上へと向かっていく。

 少しして登りきった彼に気付いた門弟たちは真っ先に弓を向けた。肖子涵は四年前の埜湖森の洞窟で使った、目くらましの術──『鷹奪ようだつ符』を地面に叩き落として煙幕を起こして影を消す。門弟は咳き込みながら目を凝らすが、煙が消えかけた時に地面から雷のような眩い光が目を潰して強い衝撃が走った。わけも分からない状態に彼らはその衝撃を受けて膝から崩れ落ちていく。煙が完全に消え去られた頃には肖子涵は廓偲で壁から御剣で宁麗文の元へ向かっていた。

 「宁巴。どうだ」

 廓偲から降りた肖子涵に宁麗文は目尻を吊り上げながら「何がどうだだよ!」と怒る。

 「こんぐらい多けりゃ疲れるんだけど!? 一人に大勢なんて殺す気か!」

 「すまない」

 「ぎーーーー!!」

 宁麗文は怒りよろしく二人の兵の頭を両手で鷲掴んで吹き飛ばす。肖子涵はその場で下唇を噛んで申し訳なさそうに眉を顰めた。

 それから二人は剣を使わずに投げ、関節を決め、時には飛び技も使っていく。彼ら二人の間に結構な距離が開き始めた頃に宁麗文は一人の少年を見つけた。急いで彼の元に駆けつけて拾い上げてから守霊術の中へ走っていく。着いたところで近くにいた住民に預ける。

 「まだいない人はいますか?」

 住民たちはざわざわと話し始めるが、誰もかも首を縦には振らなかった。つまり、救えた人数はこれで全員だということだ。宁麗文が安堵の溜息を吐いて一歩退いた時、住民の中の一人が声を漏らした。

 「後ろ!」

 宁麗文がその声で振り返る。彼の目先に壁の上から一本の矢が飛び込んだ。

 (しまった!)

 息を詰まらせ、足を竦ませてしまい立ち尽くした彼は背中に冷や汗を流し、もはやここまでかと死を悟った。

 ──瞬間。

 稲妻のように彼の元に駆けつけ、それを振り上げた剣で弾き飛ばす。その人物は楠塔森にいたはずの汪仔空だった!

 宁麗文は驚きのあまり彼女の名前を呼ぶ。

 「君、楠塔森にいたんじゃなかったのか!? どうして来たんだよ!」

 汪仔空は剣を振り回して湯氏たちを払い退ける。

 「どうしてって、ここは私の大切な場所よ。皆が傷付けられてる合間にうかうかと見殺しにさせるわけにはいかないわ」

 「でもっ……君には湯一鳴との子供がいるだろ? 響かせたら危ないじゃないか!」

 汪仔空は後ろ目で宁麗文を見て微かに笑う。

 「そんなことで堕胎だたいしてしまう子は私と阿鳴の子じゃない。お願いだから加勢して!」

 それまで呆然と立ち尽くしていた宁麗文は彼女の言葉で我に返って祓邪を抜く。彼女の後ろを守りながら双方の宗主、そして湯皓宇がいる高台まで駆けていく。

 「湯一鳴は?」

 「あの子なら今、門の前で兵たちを鎮めてる。肖子涵も合流しているわ」

 「肖寧ともか。なら安心だ」

 門の下で轟音が鳴り響く。きっと肖子涵が派手に湯氏を吹き飛ばしているのだろう。宁麗文はやや引きながらも高台へと急いだ。

 双方の宗主の間にいる湯皓宇は脂汗を噴き出しながら奥歯を噛み締める。

 いつになれば湯連杰は落ち着いてくれるのだろうか? いや、彼はもう、我慢の限界だったのだろう。長年あの河のために戦争を起こしかけて、それを幾度も息子たちに止められた。それが今、『湯一鳴が北武汪氏に拉致された』という、北武汪氏にとっては理不尽な言いがかりで起こされたのだ。これを止める者は誰もいない。湯連杰は確実に暴走をしてしまったのだ。

 「お父様!」

 汪仔空の声に汪俊杰が気付く。また、湯皓宇も気付いて息を詰まらせたが、湯連杰を抑えるためにもう一度剣に力を込めた。汪俊杰は混乱した頭で眉を顰める。なぜ娘が戦場と化してしまったこの場所にいるのだろうか。しばらく帰宅をしなかった彼女はいつもの服装を身にまとっていなかった。様々な疑問が浮かび上がるが今はそれどころではない。最悪の場合、汪仔空も巻き込まれて死んでしまうだろう。

 「来るな!」

 眉を顰めながら動きを制する汪俊杰に、汪仔空は首を横に強く振った。

 「湯皓宇。阿鳴はもう来たわ、だからもうやめさせて」

 「なっ……!?」

 それを聞いた湯皓宇と湯連杰は目を見開く。湯連杰にとっては、まさか彼が北武汪氏に拉致されていなかったとは思わなかったのだろう。しかし、もはや止める術もない暴君は二人を押しやった。よろけた湯皓宇を汪俊杰が受け止め、その隙に湯連杰が彼女へ足を向ける。

 「貴様か。阿鳴を連れ去ったのは」

 「連れ去った? 違うわ、あの子は私を連れていっただけ。あなたは思い違いばかりしている」

 汪仔空は一歩踏み出して眉を顰める。

 「あの子はあなたを父親だと認めていない。あなたが勝手なことばかりして、湯皓宇や阿鳴をおざなりにした、最低な父親よ」

 息子だけでなく、敵の娘にも酷いもの言いを投げられた湯連杰は、目尻を更に吊り上げて彼女へ剣を槍のように持ちながら突進する!

 焦る宁麗文は汪仔空の襟元を掴もうとしたが、彼女はその手を強く振り払った。

 「北武汪氏の娘はこんなにも教育がなっていないとはな!? 俺が直に教えてやる!!」

 そして湯連杰は剣を構え、汪仔空に向けて投げた!

 それを弾き飛ばそうと剣を構えるが、頭の中がぐにゃりと曲がる。目の前が揺れて慌てて顔を上げると、目先に剣が向かっていた。息を詰まらせた彼女の前に誰かが飛び出して強く押して、そして背中に強く刺される。その人物は汪仔空を庇うように倒れ込んだ。愕然とした彼女はその名を強く叫んだ。

 「──阿鳴!?」

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