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護誓散華  作者: くじゃく
望郷なる児
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二十七 巣立ち(3)

 二人は起きて再び歩き出す。北武へ向かうには二五十里という長い距離がある。そのため、何日か野宿を経てから歩いていた。数日を跨ぎ、雑木林を抜けて道を進んでいくと、村があって何軒かの民家が建っていた。寄ってみるとそこから顔を出した老人が声を上げた。

 「あいつらもそうじゃないか?」

 顔を家の中に向けてそう話し、次に違う、今度は青年が顔を出す。

 「絶対そうだ。今度は近付かないようにしよう……」

 宁麗文と肖子涵はなんのことか分からず互いに顔を見る。首を傾げてから前に向けて男たちに近寄った。二人の男は小さな悲鳴を上げて中に入り込んで戸を閉める。ますます分からなくなって、その家屋の窓から覗き込んだ。中には飯を食っていたのだろう、数人の男がいてその中にも先程の二人が怯えながらこちらを見ている。宁麗文は「なんで人を見て怖がるんだ!」と次第に頭にきて戸を強引に開けた。肖子涵は驚いて彼の両脇に腕を通して羽交い締めにしながら下がる。

 「宁巴、今は話を聞こう」

 目を吊り上げた宁麗文はバタバタと暴れ出す。

 「できるか! 散々人をジロジロジロジロ見ておいて勝手に怖がって! 私たちが何したって言うんだよ!」

 「暴れるな。宁巴……宁巴、落ち着け」

 肖子涵は腕や脚を振り回して暴れる彼に溜息をついて、腕を離したかと思えば片腕でするりと宁麗文を脇に抱える。あまりにも鮮やかすぎる行動に唖然として、動きを止めて彼を見上げるしかなかった。我に返って大人しく猫のように抱かれている宁麗文は我に返って威嚇をするように戸の中を見ていると、中から別の男が出てきて冷や汗をかきながら「えっと……」と声を掛けた。

 「あなた方は、旅のお方ですか?」

 それに肖子涵は答えた。

 「そうです。先程、あの二人が怖がっているように見えましたが……何かあったんですか?」

 「ああ、えっと……その、ただの旅人でしょうか?」

 彼の言動に二人は怪訝な顔をしながらも頷く。男はそれを見て胸を撫で下ろしていた。とりあえず肖子涵は脇に抱いていた彼を降ろしてから腕をそのまま掴む。宁麗文はまだ勝手に怖がられたことに怒りを収めていなかったようで猫の耳と尻尾が見えるようなその姿に肖子涵は頭を振って彼を宥める。

 「あの二人は以前、ある二人に襲われてああなっただけなんです。それ以来、男の二人組を見るとどうしてもああなってしまって……」

 「男の二人組?」

 男は頷き、「奕沢イーヅァと申します」と拱手をしながら簡単に自己紹介をして、二人も釣られて拱手を返して名を名乗る。

 「それで、男の二人組というのは……」

 奕沢が後ろを見てから違う方向へと指す。

 「ここにいるとあの二人はまだ怯えて、このままだと失神してしまいます。別の場所へ行きましょう」

 「どんだけ気が弱いんだよ……」

 呆れたように頬をぴくつかせる宁麗文に奕沢は苦笑しながら二人に案内をした。

 そこはもう一軒の民家があり、奕沢が戸を開けて二人を家に招く。質素な部屋でもう一人の女が卓の前に座っていて彼女が奕沢に気付くと「あなた」と声を掛ける。肖子涵が彼に誰かと問うと「妻です」と照れくさそうに笑った。

 「まずはこちらへ」

 奕沢は二人を卓の前に座らせ、彼は妻の隣に座る。彼女はすぐに茶を用意して全員の前に置いていく。そこから奕沢は先程の話の続きを始めた。

 「男の二人組というのは、いわゆる道長の二人組です。彼らは自分たち以外の人間が嫌いらしく、近付こうとするとすぐに斬りつけてくるのです」

 「どこから来たのですか?」

 続けて質問をする肖子涵に奕沢は首を横に振る。

 「分かりません。夜中だったもので顔も分かりませんでしたが、服装で男だと思っていたのです」

 「その服はどのような?」

 「道服です。所々に繊細な刺繍がされてあって、身分が高い者かなと」

 「身分が高い者……」

 宁麗文は出された茶を飲みながら声を上げた。奕沢もそれに頷いて瞼を伏せる。

 「あの二人は最初、道長様たちをからかったそうなんです。『お前たち、男二人がどうして歩いているんだ? もしかして断袖なのか?』と……」

 「ゴブッ!」

 茶を飲んでいる途中だった宁麗文は驚いて噴き出す。それでやっと自分たちがどうして怯えられたのかの理由も判明した。自分たちもかの道長二人組と同じように断袖の二人なのかと思われたのだ。

 咳き込む彼に肖子涵が背中を擦りながら奕沢に顔を向ける。

 「それで彼らに襲いかかられたせいで、あの二人は俺たちに怯えたのですか」

 「はい、そうです。見る限り、あなたたちは違うようですね」

 奕沢の言葉に宁麗文は茶器を置いて咳をしてから引き攣った顔で彼に言い返す。

 「当たり前でしょう!? 私と肖寧はただの友人です。決っっっして断袖なんかじゃありません!」

 「宁巴」

 名前を呼ばれた宁麗文は下唇を噛みながら大人しくなる。肖子涵はやや呆れながら「聞かせていただき、ありがとうございます」と感謝を述べた。それから北武へ向かう道を教えてもらって民家から出る。奕沢とその妻は二人を見送った。村から出た宁麗文は胸の辺りを拳で叩きながら咳を止め、肖子涵はその間も背中を擦っていた。

 「なんで男二人が並んで歩いてるだけで断袖って決めつけられるんだろう。ただの友人だってありえるのに。な、肖寧?」

 「……」

 「なんだよその顔。……えっ、もしかして私たちって友人じゃなかったのか!?」

 宁麗文は手を下ろして顔を青ざめながら肖子涵の顔を見た。彼は瞼を閉じて下唇を噛み、どう返そうか迷っている。その間にも宁麗文の頭の中は悲しみに満ち溢れていた。

 (ずっと、ずっと友人だと思ってたけど……実は違ったのか……? それならなんで肖寧は私と一緒にいるんだ……?)

 考えに考えて次第に泣きそうになり、その顔を見た肖子涵は驚きながら彼の目元を優しく指で拭う。肖子涵は困りながらもまだ言葉を探していて、宁麗文はさめざめとした気持ちになっていた。

 「……とりあえず、北武へ向かおう」

 肖子涵はどうすることもできずにそれを言うしかなかった。

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