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護誓散華  作者: くじゃく
晴れの行方
52/220

十七 羊肉(2)

 そこから半時辰ほど膳無の門の前で話しながら待っていると、連絡を受けた宁雲嵐が御剣で青鈴と共に膳無に降り立った。

 「兄上。青鈴も。ごめんね、急に呼んだりして」

 「いや、ちょうど暇してたから大丈夫だ。青鈴も退屈していたみたいだしな」

 宁雲嵐は視線を弟から秦雪玲に向けて拱手をする。青鈴も続けて拱手をして挨拶をした。秦雪玲も二人に向けて拱手をして三人はほぼ同時に手を下ろす。

 秦雪玲は青鈴の元に一歩進んで彼女の手を握って上げた。青鈴は瞬きをして握られた手と彼女の顔を交互に見る。

 「あなたが青鈴さんね。宁麗文さんからお話は伺っているわ」

 青鈴は宁麗文が自分のことを話したことに驚いて視線をずらして彼を見る。その目は「何か余計なことでも言ってないでしょうね」とでも言いたげだった。宁麗文はすぐに首を細かく横に振って否定した。

 

 そのまま二人を連れて食事処に入る。夕方前だからか人は少なかった。六人だけでは人が多すぎるということで二階にある少し広い個室を秦麗孝に貸しきってもらって二階へ行く。宁麗文は青鈴を挟んで宁雲嵐と座り、他の三人は秦雪玲を挟んでそれぞれ隣同士に座った。

 「皆は何が食べたい? 宁麗文くんは羊肉だろ?」

 宁麗文は「うん」と即答をして追加で宁雲嵐と青鈴の分も頼む。秦姉弟と漢沐熙は適当に注文して先に届いた茶を飲んでいた。

 「そういえば、秦雪玲殿は確か嫁ぐんじゃなかったか?」

 宁雲嵐の言葉に宁麗文は驚いて彼を見る。宁雲嵐は驚く彼に瞬いたがすぐに息を吐いた。

 「父上の代わりに会議に出席してたから知ってるんだよ」

 「父上の代わりに? 何があったんだ?」

 「ただの風邪だ」

 宁麗文は珍しいと思いながら顔を前に戻す。自分から特に話すことがないので、また茶を飲んで話の続きを聞くことにした。

 「そうよ。琳玩龔氏のところに嫁ぐの」

 「琳玩龔氏!?」

 次に驚いたのは青鈴だ。彼女は琳玩の生まれであるから、秦雪玲から出た言葉を信じられないという表情で見る。秦雪玲は彼女の顔を見て微笑んだ。隣にいる秦麗孝は眉間に皺を寄せたまま黙り込む。宁麗文はその顔を見て昨夜に彼女が言っていた言葉を思い出して「なるほど」と浅く呆れ笑ってしまった。

 「龔飛龍と婚姻の儀を結ぶんだな。場所はやっぱり琳玩か」

 「ええ。だけど、彼の顔も声も知らないの。当日になって初めて会うのかしら。でも前日に膳無にも来られるみたいよ」

 「あいつはやめといた方がいいよ。というか俺が絶対止める」

 急に駄々をこねる子供のような声を出す秦麗孝は茶を一気に飲み干して乱暴に茶器を卓に置いた。

 「あいつは生粋の女嫌いなんだ。そんな奴に姉ちゃんを行かせるわけにはいかねえ」

 不満という不満を口に出す秦麗孝は彼女の肩に頭を乗せる。秦雪玲は困ったように微笑み、漢沐熙は腕を組んで呆れる。宁雲嵐は面食らい、青鈴は彼のその顔に怪訝な顔をしていて、宁麗文は扇子で口を隠しながらやはり呆れ笑いを声に出していた。

 「そんなこと言ったって何も変わらないだろ。姉さんが龔飛龍の嫁に行くのは決定してるんだし」

 「今すぐ破棄すればいいだろ。適当な理由つけてさ」

 「例えば?」

 漢沐熙からの問いに秦麗孝が急に口ごもった。秦雪玲以外の全員は首を傾げながらその答えを聞く。秦雪玲だけは秦麗孝の頭を乗せられた肩とは逆の手で撫でた。

 「あなたの言いたいことは分かるわ。けど、しょうがないことなの」

 「姉ちゃん……」

 秦麗孝は秦雪玲から離れてそっと手を握る。秦雪玲は目を細めてその手を握り返した。

 その後に注文が届いて大量の料理が卓に並べられる。羊肉が多めになっていて、宁麗文はまた目を輝かせながら口を腕で覆った。

 「と、とりあえず。二人共、羊肉食べてみてよ。絶対気に入るからさ」

 宁麗文は腕を下ろして二人に勧め、宁雲嵐と青鈴は箸でその肉を摘んで食べる。すると二人の顔は瞬く間に輝いて、急に食べる速度が上がった。宁麗文はにこにこと笑っていたが、気が付けば残りの一個になっていて驚いた。慌てて箸でそれを掴んで心の中で泣きながら味わう。それを見かねた漢沐熙がまた羊肉を注文して、今度は宁麗文も箸の速度を進めた。他にも牛、キジ、うさぎ……と多様な肉料理をそれぞれ食べて、二時辰も経った頃に宁雲嵐と青鈴は帰ることになった。

 「お前はまだ帰らないのか?」

 宁雲嵐が弟に問う。宁麗文はその言葉に頷いた。

 「まだ膳無について知り尽くしてないからね。それに、明日もまたまわるんだ」

 「程々にしておけよ。俺も青鈴も暇じゃないんだし、そもそも父上が風邪をひいてるんだ。あんまり長く家を空けてたらまた心配されるぞ」

 「はは……」

 宁麗文は扇子を広げて呆れる。もう成人しているというのにこの歳になってさえも心配されるのかと笑ってしまった。

 「秦雪玲さん。琳玩に行かれるのでしたら、どうかお気をつけて」

 青鈴は秦雪玲の手を握って言う。秦雪玲は優しく微笑んでから頷いた。

 「また一緒にご飯を食べましょう。今度は江陵で食べたいわ」

 青鈴は秦雪玲の言葉に顔を明るくする。きらきらと星のように煌めいた瞳で「ぜひ!」と返した。

 そうして宁雲嵐は豪静に青鈴も乗せて暗い空を飛んで江陵へ帰る。それを四人で見送ってから秦氏の邸宅へと帰る。秦姉弟を前に、宁麗文と漢沐熙を後ろにと歩いていく。

 「そういえば、秦雪玲さんの婚姻の儀はいつなんだ?」

 宁麗文はふと思いついた疑問を漢沐熙にぶつける。漢沐熙は彼の顔を見て、横目で一瞬だけ秦麗孝を見てから「二週間後だ」と答えた。

 「二週間後。早いような遅いような」

 「姉さんにとっては早いだろうな。あっちにとっては遅いと思うけど」

 「琳玩は今はそれの準備でもしてるのかな」

 漢沐熙は肩を上げて落とす。それを聞かれても琳玩龔氏の人間ではないから答えようがない。宁麗文は一つ息を吐いて双子を見た。

 二人は柔らかな灯りの中でも手を繋いでいた。お互いは顔を見合わせて話をしながら笑い合う。宁麗文は少し羨ましいと思った。

 この姉弟の周りは沢山の愛で溢れている。春に共に産まれ、最初から手を繋いで生きている。

 この姉弟は二週間後に、離れ離れになってしまうのだ。

 「……ねえ、漢沐熙」

 宁麗文が小声で漢沐熙に声を掛ける。

 「後でさ、秦麗孝も誘ってお酒でも飲もうよ。絶対秦雪玲さんのことずっと言うよ」

 漢沐熙は一つ瞼を閉じて開き、そして噴き出す。二人でニヤニヤと笑いながら「そうしようぜ」と答えた。

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