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護誓散華  作者: くじゃく
晴れの行方
43/221

十四 世長会(2)

 世長会が終わり、宗主たちはそのまま客間に残って他の邪祟についての会議を始める。既に退席した子息たちは宁氏の邸宅から出ていて、そのまま帰る者もいれば珍しく青天郷を歩く者もいた。報告を終えた宁麗文は無名で寝台に横たわって息を整えていた。

 思い返せば思い返すほどに紅花が刺してしまった可馨の顔が瞼の裏に浮かぶ。やるせない思いと後悔の念が宁麗文の頭を強く殴りつけていた。一つだけ、救えなかった彼女に向ける言葉だけが頭の中に浮かんでいた。

 (助けられなくて、ごめんなさい)

 あれ以来、人が目の前で死ぬ事件はなかった。なかったからこそ彼女の死がより浮き出てしまい、彼にとって忘がたい最悪の思い出と化してしまっている。

 宁麗文は身動ぎをして両手で顔を覆いながら重く息を吐いた。

 (あの時、肖寧ならどうしてたんだろうな)

 宁麗文は肖子涵を思い出し、その場に彼もいた時の想像をする。きっと彼は真っ先に紅花から唐秀英の剣を奪っていたし、おそらく彼女を気絶させて両方とも身も心も無事でいさせられただろう。宁麗文は肖子涵を過信しているわけではない。ただ、彼ならやり遂げるだろうと思っていただけなのだ。

 「……肖寧、元気でいるかな」

 両手を顔から離して左手首を見る。光に反射しなくともその薄緑色の宝玉は輝いていた。宁麗文はあの夜の餓蝗から身を護ってくれた以降からこの腕輪を見る習慣がついた。あの時は低級の邪祟だったが、四蝗王の時は何も起こらなかった。この腕輪の示す邪祟への効果はどのぐらいなのだろう。どこまでが彼の身を守って、どこからが彼を守れないのだろうか。基準も分からずに一つ息をついて起き上がる。

 その時に戸に音が鳴った。背丈からして宁雲嵐のようだった。

 「麗文。入るぞ」

 「うん」

 戸を開けて入る宁雲嵐は後ろ手で閉める。宁麗文は寝台に腰掛けたまま宁雲嵐と対面した。

 「落ち着いたか?」

 「なんとか」

 「そうか」

 宁雲嵐は宁麗文の手首を取って立たせる。宁麗文は彼がなぜ自分を立たせたのかと疑問に思っていると、彼が口角を上げた。

 「お前に会いたがってる人がいるんだってよ」

 

 宁麗文が慌てて邸宅を出る支度をして門を通り過ぎると、そこには数人の男が立っていた。

 先程まで共に報告をした唐秀英と昨日に宁麗文を散々振り回した秦麗孝、そして秦麗孝に肩を回しているのは秋都漢氏の息子である漢沐熙カンムーシーだった。宁麗文は特に秦麗孝を見てがっくりと肩を落とす。

 (なんだ、肖寧じゃないのか……)

 「おいおい、俺たちが会いに来たってのに、何だその顔は!」

 秦麗孝は漢沐熙の手を振り払わずに腕を組む。漢沐熙は苦笑しながら「まあまあ」と腕を肩から離した。

 「宁麗文くんは他の誰かと会いたかったんじゃないのか? だからお前を見てがっかりしてるんだよ」

 「はぁ!? その誰かって誰だよ。なあ宁麗文、何か奢るから教えてくれ!」

 秦麗孝はすぐさま宁麗文に駆け寄って両肩を掴んでガクガクと揺らす。宁麗文は先程まで寝転んでいたので、脳まで揺らされている感覚がして少し酔った。

 「おいこら、やめろ」

 漢沐熙は秦麗孝の首根っこを掴んで宁麗文から引き剥がす。宁麗文は漢沐熙に心の中で心の底から感謝をした。

 漢沐熙という男は、茶に近い黒髪を頭の上に綺麗にまとめているが毛先は出していて、すっきりとした姿形をしている。顔つきは秦麗孝よりかは優しく、唐秀英よりかは凛々しい。彼もまた秋都漢氏の息子で建築に関わっているからか、箭袖にして軽く見える服装だ。

 宁麗文はこの三人の男がなぜ自分に会いに来たのだろうと考えながら唐秀英に顔を向けた。かなり困っている様子を見た唐秀英は苦笑いを浮かべる。

 「宁公子。とりあえず、一緒に食事でもしませんか?」

 彼ら四人は青天郷を通って、宁麗文と秦麗孝が昨日訪れた食事処とは違う場所を選んだ。空いている卓はどこにもなかったので店員に聞いて上階の個室を借りることにした。

 それぞれ卓を囲んで注文をして、すぐに届けられた酒や餃子、炒飯や小籠包、麻婆豆腐や鶏肉の蒸し焼き……など、卓に乗せきれるかそうでないかというほどの量が届いた。宁麗文、唐秀英、漢沐熙はそれぞれが頼んだ料理の数を確かめ、そして余った料理の数を全て秦麗孝に当てはめる。確実に彼らよりも秦麗孝は多く頼んでおり、三人は口を揃えて「頼みすぎだ!」と叱った。

 各自頼んだ料理に手をつけ始め、各々口にそれを運んでいく。宁麗文は唐秀英と秦麗孝とは一体一で食事をしたことはあったが、こうやって家族以外で漢沐熙も含めた大人数で卓を囲むことは初めてだった。だからか、余計に緊張して食べる口を段々と小さくしていく。それに気付いた隣に座っている漢沐熙が、店員が気を利かせて追加で持ってきてもらった小皿に宁麗文の分の小籠包を置いた。

 「そんなに固くならなくていいよ。俺たち友だちだからさ、肩の力抜きなよ」

 「友だち……」

 宁麗文は漢沐熙の言葉に驚く。今までそういう意識をしておらず、唐秀英も秦麗孝もただの他人だと思っていたのだ。

 唐秀英に関しては半年も共にいたので少なからず友人なのではないか? との期待を浮かべていたが、どちらも敬語を使ってしまっているので中々そういったことは聞けなかったし、違うのかと勝手に肩を落としていた。

 宁麗文の顔が唐秀英に向けられる。唐秀英も彼に気付いて顔を合わせ、口に咥えていた箸を口元から離す。

 「どうかしましたか?」

 「と、唐公子……私たち、友人なんですか?」

 「そうですよ。……って、え!? 違ったんですか!?」

 唐秀英は宁麗文と自分の友人の価値観の違いに驚いて箸を落としてしまう。慌てて拾って近くにあった布で拭いて空になった器に乗せた。秦麗孝は骨付き肉を頬張りながら「俺はもうダチだと思ってるぜ!」と笑う。

 「いや、君とは違うから」

 「なんでだよ!」

 漢沐熙は一蹴された秦麗孝に笑い、唐秀英もそれに釣られて笑う。宁麗文は二人の笑い声に唖然としていたが、それも次第に釣られるようになって笑い始めた。秦麗孝は不貞腐れながら骨付き肉を最後まで食べきって、それでも尚拗ねていた。

 空の器が増え始めたところで漢沐熙が口を開く。

 「そういえば、宁麗文くんに俺たちの関係を言ってなかったな。唐秀英と秦麗孝のとこは交易関係ってのは知ってるだろ?」

 「うん。唐公子から聞いた」

 「じゃあ、俺と秦麗孝はどういう関係だと思う?」

 宁麗文は面食らった。急に問題を出されても分からない。しばらく考えてはいたが、どうにも答えは出ずに追加で頼んだ茶を飲む。眉間を揉んでもやっぱり分からないのでとうとう根を上げてしまった。

 「ははは、分からないだろ。実はな、従兄弟にあたるんだ」

 「従兄弟!?」

 「そう、従兄弟。俺の父親とこいつの母親が兄妹なんだ。そんでそれぞれ結婚して産まれたのが俺とこいつってわけ」

 漢沐熙は話を続けながら秦麗孝の肩に腕を回す。秦麗孝はそれもお構いなしにまだ肉料理に手をつけていた。宁麗文はそれぞれ彼らの顔をまじまじと見つめる。確かに秦麗孝と漢沐熙の目元は少し似ていて、雰囲気も若干似ている。しかし、各世家の家訓があるからか、顔つきと体格が似ていても雰囲気までは似てはいなかった。

 「世家同士で結婚なんてあるんだな」

 「そうだぜ。当たり前に決まってるだろ、じゃないとお前もこの江陵宁氏として産まれてない。世家同士で結婚することでお互いがお互いに助け合うんだぜ。ちなみに俺の姉ちゃんも今度結婚する」

 秦麗孝はにやりと片方の口を横に伸ばす。宁麗文は秦麗孝に姉がいることも初めて知った。唐秀英は空になっている皿をそれぞれ重ねながら言う。

 「宁公子はあまり聞かないですよね。彼女──秦雪玲シンシューリンさんは膳無秦氏の長女にあたり、秦兄さんの姉になります。秦兄さんは極度の姉好きなんですよ」

 「おい! そんな誤解招くようなこと言うなよ。俺はただ単に姉ちゃんが好きなだけだ」

 「それのことを言ってるんだよ。まんまお前じゃないか」

 漢沐熙は秦麗孝の肩から腕を離す。そして宁麗文に向き直って「俺たちはこれから膳無に行くんだ。あんたもどうだ?」と笑顔を浮かべる。

 「こいつの姉さんも喜ぶぜ」

 「なんで?」

 「秦麗孝が世長会のことを姉さんにずっと愚痴ってるんだ。そしたらあんたに会いたいって言い始めてさ」

 秦麗孝は箸を空の器に静かに置いて卓に肘を乗せて顎を支える。その顔には漢沐熙よりもいい笑顔が浮かんでいた。

 「お前も来いよ。 ずっと姉ちゃんに紹介したいと思ってたんだ! お前が来たら、姉ちゃんは喜ぶし俺も嬉しくなる。それに、膳無もいいところだから絶対飽きねえと思うぜ」

 それを聞いた宁麗文の心が大きく揺れ動いた。

 世家同士の結婚による従兄弟、そして秦麗孝の姉。世の中にはまだ知らないことが多すぎる。

 もっと知りたいと強く願い始めた彼は息を吸って「行くよ」としっかりと言った。

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