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護誓散華  作者: くじゃく
花の想い話
33/220

十一 こぼれ落ちた花(1)

 町から出る前にまずは住民たちに挨拶をしてからにしよう、と宁麗文と唐秀英は話し合って再び彼女たちを広場へ集めた。

 「皆さん、お集まりいただきありがとうございます。僕たちはこれから餓蝗の件に向かいます。終わりましたら、桂城唐氏からの報せが届くかと思われます。しばらくの間でしたが、お邪魔させていただきました」

 唐秀英が腰を折るのを見て宁麗文も腰を折り、身体を起こしてから二人で拱手する。住民たちも立ち上がって二人と同じように拱手をした。その中でも紅花が彼ら二人の目をそれぞれ見る。

 「こちらこそ、我々の復興に携わっていただきありがとうございました。至らぬ点があったと思いますが、唐公子、そして宁公子のお陰で元の日常に戻ることが叶いました。本当にありがとうございました」

 全員腰を折り、上半身を起こしてから腕を下ろす。宁麗文と唐秀英は自然と口角を上げていて、心の底から温かい気持ちに包まれた。住民たちの間から阿晴が飛び出してそのまま唐秀英に抱きつく。

 「秀英兄ちゃん、今度はいつ来れるの?」

 唐秀英は目を微かに見開き、宁麗文と顔を合わせて照れるように微笑む。

 「僕たちの仕事が終わったら遊びに行くよ。それまでにいい子にできる?」

 「うん! いい子で待ってる! 絶対だよ?」

 「うん。絶対だ」

 唐秀英は阿晴の前でしゃがみこんで三本指を立てる。阿晴も目を輝かせながら唐秀英と同じように三本指を立たせた。宁麗文はその光景を見て微笑ましく思いながら、不思議と肖子涵の存在を思い出した。

 (……私もいつか、肖寧と約束することがあるのかな)

 呆然とそれを考えていると、可馨が目の前にいるのに気付かず、「宁公子」と声を掛けられて我に返った。

 「この度は本当にありがとうございました。あなたたちがいなければ、私たちは今を生きていけませんでした。これから餓蝗の件について行かれるのですよね?」

 「はい。餓蝗はまだどこかに潜んでいる可能性があります。これを先にやらなければまた元に戻ってしまいます。彼らのことは心配でしょうが、唐公子が桂城唐氏に連絡をして帰してくれるそうなので、ご心配なく」

 可馨は安堵したように微笑み、気の抜けた声で「よかった……」と呟いた。

 「それと、万が一この町に来るとした場合のためにこちらから術を掛けさせていただきました。よっぽどのことがない限りは安全ですので、気楽に過ごしてください」

 「何から何まで……もう、どうお礼を述べればいいか。どうかお怪我をなさらずに。私たち一同、またあなたたちが来るのを待っています」

 「はい。また遊びに行きます」

 宁麗文がにっこりと微笑むと可馨の頬が赤く染まる。「では」と小さく声を出して腰を折り、そのまま逃げるように去っていった。宁麗文はその不思議な行動に首を傾げていると、後ろから宁雲嵐が彼の肩に腕を回しながらニヤニヤと笑っていた。

 「全く罪な弟だな、お前は」

 「なんのこと?」

 「何ってお前、あの子に惚れられてんだよ」

 宁麗文はきょとんと瞬きをして、それからにっこりと笑う。

 「それはないだろ。大体、惚れられてるんだったら今頃声を掛けたりなんてしないって」

 手を胸の前に出して横に振る。宁雲嵐はじっとりと彼を見つめていて、「そういうことじゃない」と言わんばかりの顔をしていた。

 唐秀英が立ち上がって阿晴を帰す。二人に向き直って「行きましょう」と言った。

 

 町を抜けてから御剣で空を飛ぶ。怪しい場所がないかを確認しながら森の中で開けた場所に降下した。

 「今のところこれと言った場所はありませんでしたね。しばらくここから歩いて巣を探しましょう」

 唐秀英の言葉に二人は頷き、三人並んで歩き始める。ふと宁麗文は思い出したことがあり、それを宁雲嵐に小声で聞いた。

 「兄上、凶鶏のこと覚えてる?」

 「ああ、それがなんだ?」

 「世長会で話題に出てた? あと私と肖寧の名前も出してないよね?」

 宁雲嵐は片眉を上げて「当たり前だ」と返した。

 「言ったら言ったでお前ら二人に尋問するだろ。だからあえて言わなかった。父上もそれは避けたいだろうしな」

 「そっか。ならいいんだ。その後何か対策とかしたの?」

 「埜湖森は立ち入り禁止区域にして、一般人が入れないように陣を張った。江陵からは令を敷いたから、よっぽどのバカでないなら入らないだろ」

 宁雲嵐は腕組みをしながら鼻で笑う。宁麗文はその様子に乾いた笑いを出すしかなかった。

 唐秀英と三人で歩けど歩けど、どれだけ探しても巣らしきものは見当たらない。もしかしてこの森の中ではないのか? と三人で考えるも、町に一番近いのはこの場所なのだから、ここでしか見つからないはずなのだ。段々とくたびれてきた宁雲嵐は立ち止まって傍にあった木に寄りかかる。

 「なあ、少し休憩しないか? このままいくら探しても体力がなきゃ見つかるもんも見つからない」

 「確かにそうですね。ここらで一旦休みましょう。日も暮れてきますし、野宿という形になりますが……」

 「大丈夫大丈夫。俺はこういうのに慣れてる。でも麗文は慣れてないからな」

 宁雲嵐の言葉に宁麗文はムッと頬を膨らませる。

 「何だよ。別に野宿ぐらいしたことあるし。ですよね、唐公子」

 唐秀英は困ったように笑いながら宁麗文の言葉に頷いて肯定する。宁雲嵐は目を見開いて愕然とした。

 まさか、弟が自分の見ないうちにここまで成長していたとは!

 これは宁雲嵐にとって喜ばしいものではあるが、それと同時に兄離れをし始めたのかと淋しくも思った。

 三人は周りから火を灯すのに最適な木の棒を拾い集め、中心に置いて宁雲嵐が点火符をかざす。火が灯り辺りを柔らかく照らす。森の中にいたうさぎや鳥を捕らえて血抜きをしてから焚き火で焼く。宁雲嵐は火の加減を見ながらふと口を開けた。

 「ところで、あの町には男が全員連れ去られたんだろ?」

 「うん、そうだよ。それがどうしたんだ?」

 宁雲嵐は首を傾げて瞼を閉じる。少しの間を開けて「いや、変だなって」と呟いた。

 「変? 確かに出る直前まで思ってたし唐公子と考えたけど何もなかったよ」

 宁雲嵐は息を吐いて頭を振る。

 「唐秀英殿から聞いたんだが、爺さんがいたんだろ。なんで男が全員いないはずなのにあの爺さんだけが残ってたんだ? 女子供の中にいるのは不自然だろ」

 それに唐秀英が答える。

 「彼は町の長だと聞きました。彼から聞いたのですが、連れ去った側の言い分では、男が全員いなくなっても長がいなければ町として成立しない。どうせなら仕事のできない女子供を残してそのまま自滅でもすればいい……だそうです。なので、男性の中で彼だけが残っていたのです」

 「それでもおかしくないか? 長がいなくなったら代わりに誰かがやればいい。町から人が一人もいなくなった時点でそれはもう町とは言えなくなる。なのになんで女子供と一緒に残されてるんだ?」

 「兄上。深く考えすぎだ」

 宁麗文はちょうどよく焼けたうさぎの肉に手を伸ばして息を吹きかけながら食べる。

 「別に敏さんがいてもいなくても変わらないよ。どちみち可馨さんたちだけで仕事はやっていけてるんだし。それに、私たちが来た時からは彼はもう指示なんてしてなかった。代わりに紅花さんがやってるんだ」

 「なぜ彼女が指示をする? それは長のやることだろ」

 宁雲嵐からの続く問いに宁麗文はうんざりし始めた。もう答える気力はないと言いたげに肉を食べるのに集中する。代わりに唐秀英が鳥の軟骨を手でちぎりながら答えた。

 「彼は随分とお年を召されていました。見た感じ、身体もまともに動けるようではありませんでした。なので、紅花さんが代わりに務めました。彼女は父が敏さんの補佐だったようで、仕事のやり方も把握していたんです。紅花さんは『もし父がいなくなった時に備えてあたしも仕事を覚えているんです』と話していました。僕たちが任務に向かうまでの二ヶ月の間は連絡網を必死に探して、命からがら伝えてくださったんです」

 宁雲嵐はその返答を聞いて納得のいかない様子で肩を落としながら、宁麗文より大きいうさぎの肉に食らいつく。何度か咀嚼をしていた時に、ふと宁雲嵐は片眉を上げた。

 「そうだ。お前ら、凶鶏が何を食ってるかは覚えてるか?」

 それに宁麗文は呆れたように返す。

 「今更なんだ? 当たり前だろ。人の頭部だ」

 「そう、頭部だ。喰うときはくちばしで一気に首まで咥えてちぎり殺す。それが凶鶏だ」

 改めて捕食する凶鶏の様子を想像してしまい、宁麗文と唐秀英は少し身震いをした。「なんで急にそんな怖いことを言うんだ!」と言いたげな宁麗文に、宁雲嵐は二人の様子をそのままに口を続ける。

 「それなんだがな、最近凶鶏がいたとされる現場からあるものが残っていたんだ。なんだと思う?」

 「あるもの?」

 宁麗文と唐秀英は互いに顔を見合わせ、肉を飲み込んでから宁雲嵐を見る。宁雲嵐は最後の一口を豪快に口の中に入れ、咀嚼をして飲み込んだ。

 「人体の中で一番硬いものだ」

 「なんだそれ。骨じゃないのか?」

 宁雲嵐は瞼を閉じてちっちっと人差し指を横に動かす。瞼を開けて肉を刺していた木の棒に火をつける。

 「歯だよ」

 「歯?」

 「ほとんどは胃酸で消えるが、歯は少しだけ残る。それほど頑丈なものなんだ」

 歯。確かそれらは規則正しく、白い。真ん中には軽く凹みがある。宁麗文はそれにあるものを思い出した。

 ──あの池の底に沈んでいたもの。白くて小さく、そしてほとんど同じ形だった。そして中央に僅かな凹みがあったことも思い出す。

 それはもしかして、人間の歯なのではないか?

 「それのお陰で残りの凶鶏の居場所が掴めたんだ。もうそろそろ奴らも潮時だろうな──麗文?」

 宁麗文は急いで肉を食べきって立ち上がる。辺りを見回して二人を置いて御剣に乗って飛び出した。残された二人は一瞬だけ呆然とし、慌てて宁麗文に着いていく。

 (あの池はすごく綺麗だった。人里に流れてこないようにせき止められていて、流す時はほとりに押し出してまた新しい水を入れる。そして底に沈んでいた大量の白いもの。もしかして、もしかして──)

 山の中にある池。町にいる唯一の男である敏。そして三十年ほど前に全滅したかと思われた、突然現れて消えた餓蝗。苑が言っていた、敏は昔からこの町にいたのではなく、二十年近く前に越して町長を勤めていた。その前の彼の住んでいた場所は分からない。唐秀英の話では一部では人喰いがあった。その原因は餓蝗による虫害。餓蝗は魔で、人ではなく農作物だけに害を成す。そして食糧がなくなった住民たちは互いに喰い殺す。もしその中に別の何かがいたのなら?

 餓蝗を操る『何か』がいたのなら?

 (可馨さんたちが危ない! 守霊術を掛けるべきじゃなかった!)

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