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護誓散華  作者: くじゃく
人間と邪祟
211/221

番外編 酒肆の柳絮(1)

 あの事件から二年が経った。宁雲嵐や宗主になったばかりの者やまだその座を譲られていない時期宗主の者たちを集めて食事会を開くことにした。宁麗文と肖子涵はどちらにも当てはまらなかったが、宁雲嵐からの誘いを受けた。特にこれといった理由もないので快く承諾して、集合場所である江陵へと急いだ。

 御剣で向かって江陵へ着いて青天郷の前で降りる。二人は手を繋いだまま歩いて門の下をくぐった。話をしながら歩けば集合場所である食事処へ辿り着いて、中にいた店員に告げてから案内してもらう。そこは他の場所とは違く、大層広いところで、江陵宁氏の邸宅にある客間までとはいかないが広々としたところだった。

 「こんなところに広い場所があるなんて。肖寧は知ってた?」

 「知らなかった」

 「はは、だろうね」

 戸を開けると二人以外の子供たちが既に揃っていて各自食事に手をつけていた。戸の開く音に気付いた各々が二人を見ては手を振ったり声を掛けたりとする。そのうち立ち上がって二人を席に案内するのが秦麗孝だった。

 「秦麗孝、君。もう酔っ払ってないか?」

 「よっぱらってないよ〜〜だはは!」

 「やっぱり酔っ払ってるだろ……」

 酒が回っているからだろう、いつもよりも目を弧に描きながら宁麗文の背中をバンバンと叩いている。視線だけで分かる肖子涵の嫉妬する雰囲気に呆れ笑いながらも、その揺れる三つ編みを見て秦雪玲を思い出していた。

 (あれからもう二年ぐらい経つけど。たまにご飯に行ったりもするし、何も言わないけどさ。まだ立ち直れてなさそうなんだよな)

 少し顔を俯かせている宁麗文に肖子涵は一つ瞬いて彼を呼んで顔を上げさせる。

 「どうかしたのか。痛かったか?」

 「いや……なんでもないよ。ただの考えごと」

 眉を下げて秦麗孝と宁麗文を交互に見る肖子涵に微苦笑を浮かべながら手を繋いで指で彼の手の甲を指で軽く擦る。

 秦麗孝は二人を空いている四人の席へと案内する。

 「ここだよ。宁の兄貴と肖の兄貴の間だ」

 「え、兄上たちも? 来るのか?」

 それに近くに座っていた万燈実が声を掛ける。

 「そもそも俺たちを呼んだのは宁公子なんだ。それで、隣に君たちを座らせるって言ってた。肖公子も肖子涵が隣に座ってほしいってのも言ってたよ」

 「君も来てたのか!」

 宁麗文は驚いて万燈実に声を上げる。彼はにこにこと笑いながら頷いて、そして隣の万燗流を横目で見た。

 「本当は阿流だけだったんだけど。けど、せっかくならって俺もお邪魔したんだ」

 隣にいる万燗流の頭を撫で、彼は兄からの体温に微笑みながら擦り寄る。

 万燗流は犯罪者となった兄を今でも家に置いている。確かに亞夢を殺され、その復讐として父親を自ら手に掛けたのだ。それは親殺しという重罪ではあったが、万燗流自身として「父は殺されても仕方のない運命だった」と考えて死刑にはしなかった。また、万燈実自身も自分が巻き起こした事件について酷く後悔をしていて、瀕死状態の宁麗文を気にかけていた。あの後の彼らはそれぞれ反対の道を歩んでいたので、それ以降の交流もなかったのだ。

 そして、宁麗文の裁判の後の、唐厭万氏への訪問によって再会した。親友を殺され、実の父によって瀕死の状態になってしまった宁麗文に焦燥していた万燈実は、彼ら二人を見て、安堵の涙を流していた。

 「そうなんだ……」

 「うん。でも皆、俺を見ても何も驚かなかったんだよ。なんでかな?」

 宁麗文と肖子涵の隣にいた秦麗孝は眉を上げて頭の後ろで手を組む。

 「なんでって、お前も俺たちのダチだからだよ」

 万燈実はそれに瞬きをした。

 「万燗流から聞いた。お前、親父が憎かったんだろ。宁麗文たちと一緒にいたってのも知ってるし、どうして彼が死んだのかも知ってる。まあ、その原因までは聞いてないけどな」

 「いつ……聞いたんだ?」

 「こいつの裁判のあとだよ。一旦皆帰って、それから万燗流が俺たちを集めた。そこでこいつらがお前とその邪祟を匿ってたってこととお前が自分の父親を憎んでたことを聞いた」

 秦麗孝はにっこりと笑って宁麗文の肩に自分の肘を置く。宁麗文は彼の行動に呆れていながらもその腕を振り払うことはせずに眉を上げ、万燈実に笑いかけて頷いた。

 「皆、君のことを心配してたんだと思うよ。じゃなかったら今頃君を追い出してるし酷く責め立てたりしてる。でも、皆それをしなかったしむしろ君と会いたがってた。だろ?」

 「そういうこと。だから驚かないのも当たり前だってわけ」

 秦麗孝は片目を閉じて指を鳴らし、宁麗文から離れて「んじゃ戻るわ!」とへらへらと笑いながら席へと戻って行った。宁麗文は相変わらずだ、と呆れ笑いつつも軽く手を振って見送った。そして万燈実を見ると目に涙を溜めて泣きそうに笑っていた。

 二人も席に着いて並べられている料理に手をつける。どうやら各々が注文をしてその都度その都度運ばれてきているらしく、空になった器はすぐに取り下げられてまた新しい料理が来るの繰り返しとなっていた。

 「ふふ、やっぱり美味しい」

 宁麗文は地元の飯に頬を緩めていて、食べながら目を弧にしている。肖子涵はその表情に目を細めていて、彼もまた目の前の食事を楽しんでいた。

 「肖寧、これも食べてみる?」

 「食べる」

 宁麗文は自分の湯匙で掬った汁物を彼の口元へ運ぶ。それを啜って飲む肖子涵は見えない前髪の奥で小さく笑った。

 「美味い」

 「でしょ? もう一口あげるよ」

 「うん」

 宁麗文が肖子涵に飯を与えているのを見る万兄弟、そして湯皓宇は気まずい顔で飯を食べている。湯皓宇はちらりと兄弟を見て、それに気付いた万燈実が微苦笑を浮かべた。

 「……恥ずかしくないのか? その、こいつらの前で……」

 「いやあ、なんとも。そもそも俺は二人と亞夢……俺の親友と一ヶ月ぐらい暮らしたことがあるんだ。こういうのはしょっちゅうだったし、もう慣れてるよ」

 「え、もしかして恋仲になる前から? あれを?」

 目を点にする湯皓宇に万燈実は頷いて、そして料理を一口食べる。

 「他にも、肖子涵はよく彼に自分の外衣を着せてたし、宁麗文だって彼がどこかに行く度にずっと心配してたんだ。まさかなって思ってたんだけど、やっぱりそうだった。いつからお互いを想うようになったんだろうな」

 「……お前、意外と……」

 渋い顔をする湯皓宇に彼は首を傾げている。万燗流は兄のその顔に苦笑を浮かべてい湯皓宇の言いたいことも分かっていた。彼らの向こう側にいる恋仲の二人はそれに気付かないまま、宁麗文の前の汁物を全てなくしていた。

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