番外編 あなたがいることで
2025年5月30日
肖子涵の誕生日の漫画の元となった書き下ろし小噺です。誕生日の漫画はX、ブルスカ、クロスフォリオにて公開中です。
自分の生まれた日が嫌いだった。邪祟の血を引いている自分が嫌いだった。
兄を目の前で見殺しにしてしまった自分が嫌いだった。愛しい人を護れなかった自分が嫌いだった。
嫌いだった。嫌いだった。嫌いだった。死にたくなって、消えたくなって、赦されるものではないと、自分に枷をつけて痛めつけた。
──けれど、絶望には希望が付き添うとはこのことで。
肖子涵の目の前に白く、自分よりも小さい手が差し伸ばされる。見上げれば愛しいあの人が立っている。
澄んだ水のような心地のいい声色が自分を呼ぶ。字ではなく、本当の名前を呼ぶ。
肖子涵は手をそっと握る。
「君の居場所は私だ」
眩い光の中で彼は笑う。
「愛してるよ」
握った手が自分を引っ張る。
「今までも、これからも」
自分につけた枷が音を立てて崩れていく。周りの黒が消えていく。
「肖寧」
今までの後悔や苦痛が全て消えていく。骸たちが崩れていく。
(ああ、そうだ──)
目の前の、自分より低い彼はいつものように笑う。
(あなたのその笑顔が好きで)
握ってくれた手の温もりは逃げはしない。
(あなたのその声が大好きで)
一度離れて、背中に両手をまわされる。
(あなたの)
肖子涵も彼の頭と腰に手をまわす。
(存在が、)
首元に顔を埋めて、儚い彼の匂いが鼻を掠める。
(愛とは簡単に呼べないぐらい、愛していて)
「君は生きていい人だよ」
「どうか、私のために生きて」
「君がいることで、私はここにいられるから」
背中を撫でてくれるその手の温もりは消えない。愛を教えてくれる匂いも消えない。優しい薄茶も、声色も、自分にだけ見せてくれる甘い笑みも、全て、全て、全て。
「肖寧」
──またあなたは俺の名前を呼ぶ。
──俺も、あなたの名前を呼んでいい?
「いいよ」
「私は君に呼ばれるのが、何よりも好きなんだ」
「君にだけ呼ばれたいんだもん」
肖子涵は彼の首元から顔を離して、額同士をつける。
「──宁巴」
五月の儚い日。
自分の誕生が好きだ。
あなたに生きてほしいと願ってくれたから。




