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護誓散華  作者: くじゃく
夢幻との燈
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三十八 亞夢(4)

 先程身を潜めていた民家を見つけた。しかし、後ろを振り返ればまだ万氏がいる。万燈実が上を見れば遠くに微かに御剣をする門弟が見えた。絶体絶命、その言葉が似合う現状だが、それでも三人は走る。肖子涵は目線を上げて微かに顎も上げた。

 「すぐに右へ寄れ」

 「え」

 万燈実が言うと同時に肖子涵が彼ら二人を右に体当たりする。驚く二人が声を上げる前に、今まで走っていた道の奥から雪崩がどっと押し寄せる!

 「雪崩だ」

 「……今言うな! 見りゃ分かる!」

 万燈実は青い顔をしながら亞夢の手を引いて行く。彼も顔を青くしていたが、それもやめて顔をしっかりと前に向ける。幸い、雪崩で後ろを追っていた万氏は巻き込まれただろう。時間稼ぎはそれとなくできるが、問題は御剣をしている門弟たちだ。空を見上げれば弓を番えているのが見える。流石に上空に札を飛ばせば風に揺られて上手く発動できないだろう。三人は木々に紛れて走る。鬱蒼とした森に入って、雪が降り始めた。

 「このまま行けば、完全に撒ける!」

 万燈実は震える脚に叱咤しながら走る。後ろで、亞夢が何かに気付いた。肖子涵もそれに続いて気付き廓偲で防ぐ。万燈実はその音で振り返った。

 「父上!?」

 なんと、万克勤が雪にまみれずに、地面すれすれを御剣で追っていたのだ!

 肖子涵の廓偲を押しきらんとする万克勤のこめかみに青筋が立つ。

 「そこを退け。その邪祟を差し出せ」

 肖子涵は見上げるように睨む。

 「断る」

 短く拒否する言葉に万克勤の奥歯に音が鳴る。剣の先をグリグリと位置を変えれば、宁麗文の頬の近くまで寄った。肖子涵はそれを退けるように彼の剣の先を上げる。

 「なら宁麗文を殺させろ」

 「なぜ?」

 「憎い江陵宁氏の息子だからだ」

 肖子涵のこめかみに青筋が酷く立ち、そして眉を顰めて黒い顔をする。

 「誰もこの方を殺させやしない。お前が死ねばいい」

 「──貴様!」

 万克勤の剣が一度引き、今度は宁麗文の顔を目掛けて突きつける!

 肖子涵はそれをかわして身を低くし彼の足元を掬った。万克勤はよろけ、すぐ剣を地面に刺して体勢を整える。

 「老いぼれが何をイキっている。ただただ傲慢な態度だけを見せて何が楽しい?」

 肖子涵は挑発を続ける。

 「お前は自分を宁浩然よりも尊いとおごっているのか? 自惚れるのも大概にしろ。虫唾が走る」

 次々と挑発を受け続ける万克勤は肖子涵に向かって襲い掛かる。しかし、彼は宁麗文を抱えながらその攻撃をいとも簡単にかわす。一手一手、そのどれもが全て分かっているかのように避け続けて、遂に彼の喉元に廓偲の先を突きつけた。万克勤はそれに目を見開いて剣を下ろして奥歯を噛み締める。

 しかし、その口元が笑みに変わる。肖子涵はそれを見てすぐに振り返った。いつの間にか、自分たちの周りには御剣で追ってきた門弟たちで囲まれている。そしてその中でも万燈実と亞夢がそれぞれ雪に埋もれるように押さえつけられていた。

 (しまった!)

 万克勤の行動はただの猿芝居に過ぎなかった。最初から肖子涵と宁麗文に的を向けたわけではない。狙いは二人の後ろ、万燈実と亞夢の二人だったのだ!

 肖子涵が顔を上げた瞬間、万克勤が廓偲を剣で弾く。そして亞夢目掛けて剣を振るう!

 肖子涵はすぐに廓偲を飛ばそうとした。が、彼がそう行動する前に誰かが万克勤に体当たりを仕掛けた。肖子涵はふわりと軽くなった腕の先に驚いて声を上げる。

 「宁巴!?」

 なんと、白い顔をしていた宁麗文が万克勤を、力を振り絞った自分の手で横に突き飛ばしたのだ。それに彼以外の誰もが驚き、万克勤は門弟に支えられ、肖子涵から落ちた宁麗文はそのまま雪の上に倒れた。

 身体を震わせながら赤い血を吐く宁麗文は冷笑する。

 「驚いただろ。私がもう動けないとでも思ったのか?」

 震える腕で上半身を起こし、かじかむ膝で脚に力を入れる。冷たくなった手で雪を掴んでぼやける意識の中で、彼は立ち上がる。俯かせていた白い顔から、赤く吐いた血と燃え上がるような茶色が見えた。宁麗文は息を浅く吸って吐きながら祓邪に手を伸ばして、血を吐いてその動きを止める。万克勤は満身創痍の彼を見て、立ち上がったままほくそ笑んだ。

 「もう瀕死だというのに、威勢がいいな。まるで黒虫のようだ」

 万克勤は剣先を下にして一歩一歩と宁麗文に近付く。今にも倒れそうにふらふらになっている彼を引こうとした肖子涵に腕を一本横に伸ばして制した。

 「黒虫と同等にするなよ。お前の方がよっぽどそいつとお似合いだ」

 万克勤は舌打ちを大きくし、足で彼の腹を強く蹴る。宁麗文は赤黒い血を大きく吐いてその場で倒れ込む。そして彼の頭目掛けて万克勤の剣が下ろされるのを、肖子涵が目を見開いて廓偲で万克勤の攻撃を防ごうと伸ばした。

 しかしその瞬間、門弟を吹き飛ばした亞夢が宁麗文の上に覆い被さって。

 ──その剣を背中で受け止めてしまった。

 万燈実は顔を白くしたまま彼を叫び、宁麗文は顔を見上げ、彼の吐く黒い血を浴びた。

 「……亞、夢……」

 彼は優しく笑って、口で何かを呟いて、瞬く間に着ていた防寒具を遺して塵となった。

 そして、それは雪の上に舞い落ちた。

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