表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
護誓散華  作者: くじゃく
夢幻との燈
117/222

三十八 亞夢(2)

 「宁巴!」

 はっと目が覚めた。宁麗文は息を詰まらせ、勢いよく咳き込む。依然として異臭はする。しかしどこからか分からないが少しずつ新しい空気が入っていくのを感じる。

 「肖寧?」

 小さく声を出して、近くにザクザクと音が聴こえる。宁麗文は目を見開いて、寝そべったまま、息を強く吸った。

 「肖寧、ここだ! ここにいる!」

 掠れた声にまた咳き込むが続けて彼の名前を呼び続ける。祓邪を握り締めながら叫ぶ。肺の中に空気を入れて、肖子涵に助けを求める。

 「ゲホッ……ここにいる!!」

 土埃に目をやられて瞼を閉じ、そして一番近くに音が鳴った。目を開ければそこに汗にまみれて息を乱している肖子涵がいた。

 「宁巴」

 宁麗文は微かに口角を上げてまた咳き込む。肖子涵は板を上に退けてから彼の腕を引き上げて地上へと出した。口の中に入ってしまった土を唾と共に吐きながら彼の胸元に手を当てる。

 「ごめん、離れちゃって」

 「構わない。あなたが無事でいられるなら」

 宁麗文は軽く笑って立ち上がろうとする。しかし、しばらく生き埋めにされていた状態でまともに力が入らない。肖子涵が彼の腰を掴みながら立ち上がって周りを見る。気付けば仕えは三人を囲んでいた。

 「今はどういう状況なんだ?」

 宁麗文からの問いに万燈実が答える。

 「君を助けに来て、土を掘り続けてたらこいつらが来た」

 「亞夢は?」

 「俺の術で隠れさせた。唐厭の門の近くの民家にいる」

 肖子涵は宁麗文の腰を掴みながら答える。「そっか」と返す宁麗文はまた咳をした。

 「なら、今すぐここを出よう。亞夢も連れ出して、また違うところへ」

 「分かった」

 万燈実は仕えたちの前で剣を突きつける。彼らは自分たちの仕える宗主の子供に顔を引き攣らせた。

 「若様。我らに剣を突きつけるということは、あなたを敵と見なすこととなります」

 万燈実は「だからなんだ」と強く言う。

 「元々俺は次期宗主になんてなりたくなかったんだ。俺は大切な親友と共に歩むことを、過ごすことを決めた。お前らに邪魔をされたくないから、例え敵になったとしても構わない! 退け!」

 言いきった彼はそのまま強く一歩を踏み出し、剣を振り回しながら道を開けて進む。肖子涵は宁麗文を抱えてから一気に踏み出した。仕えは一度おののき、しかし顔を顰めて後ろから追っていく。

 「お前は亞夢を連れてから行け。俺たちが引きつける」

 「分かった!」

 肖子涵は急停止してから振り返り、宁麗文に顔を向ける。彼も頷いてその場で降りて祓邪を一度振ってから斜め下に地面に向けた。少し咳をして強く一歩踏み出し、そのまま仕えたちへと向かっていった。

 万燈実は息を荒らげながら邸宅の門を過ぎて亞夢を探しに行く。一番端で気付かれないような民家に彼はいる。振り返っては着いて来ていないことを確認して脚を止めずにただひたすらに駆け抜ける。

 少し経って一軒の民家に辿り着き、肩で息をしながら戸を開ける。肖子涵の術で目くらましをしている亞夢がいるだろう方向に万燈実は声を掛けた。

 「亞夢。もう行こう」

 しかし、彼の声は返ってこない。万燈実は不思議に思って一歩踏み出す。どこにも亞夢がいない。

 (家を間違えたか? いや、ここのはず)

 万燈実を眉を顰めながら周りを見渡す。やはり彼はいない。家を出てみると、来た道に違う騒ぎが起こっていた。

 まるで誰かが墓地に向かっていて、それを捕らえようとするような──。

 「──まさか!?」

 また脚を来た道、墓地がある場所へと駆け始める。所々に亞夢の匂いがした。万燈実は何も、彼のことを考えたくはなかった。しかし、匂いはする。ずっと、ずっと遠くから、墓地のある場所から彼の匂いがするのだ。万燈実は顔を青から白に変えて風のように走っていく。そして空高く、彼の名を叫んだ。

 「亞夢!」

 

 仕えの群衆が二人を囲む中、ずっと咳をしていた宁麗文は目を眩ませてその場に崩れ落ちる。

 「宁巴!」

 肖子涵は振り返って彼を見る。宁麗文は地面に刺した祓邪を握ったまま胸を強く握り締め、それでも尚咳き込んで、遂には血を吐いてしまった。

 「ヒュー、ヒュー……」

 (喉が痛い。何か吸ったか? 土でもなさそうな……)

 祓邪を握り締める手に力が入りにくくなり、だらりと垂れ下げてしまう。血はまだ彼の口から流れていく。肖子涵は彼を抱えようとしたが、そうする前に仕えたちに立ち塞がれてしまった。顔を顰めながら廓偲を構えようとするが、距離は宁麗文にも近い。下手をすれば彼にも剣が当たってしまいそうで構えられない。

 仕えはそれぞれ、二人を離れさせて、宁麗文から離れていく。肖子涵は後ろから腕を捕まれ羽交い締めにされた。

 「離せ」

 黒く低い声で彼らに脅しを投げるが、それを聞かないふりして彼の膝裏を蹴って崩れ落とす。背中と頭に腕や足で捕まれ、彼の目の前に剣が数本地面に刺さった。肖子涵は頭を力の限り動かして前を見る。宁麗文は血を吐いて、肘をついて前のめりに倒れてしまった。それを見た肖子涵は黒くなった顔に悲痛の表情を浮かべる。

 「宁巴……! 起きてくれ!」

 宁麗文は焼け切れてしまうほどの喉の痛みに苦しみ喘ぐ。頭の中もぼんやりとしていき次第に掠れていく。

 この咳の原因は土のせいではない。では何のせいだ? どこで何を喰らった?

 彼はぼやける頭の中で懸命に考えを巡らせる。肖子涵は奥歯を噛み締めながら多くの仕えの手や足から逃れようともがく。

 「屍毒しどくにやられたか」

 宁麗文の後ろに誰かが立った。肖子涵が声のする方へ顔を向けると、そこには万克勤が立っていた。

 「あれだけ死体と共にいたら、嫌でも死臭を吸ってしまう。それにお前は剣で無理やり中を探っていただろう。余計なことをしなければそのまま死ねたのにな」

 宁麗文は力を振り絞って振り向いた。万克勤は彼を無表情で見下している。宁麗文は目元を引き攣らせながら低い声で笑ってみせる。

 「……なんのために、私をあの中に入れた?」

 それに万克勤は嘲る。

 「あの妖の食糧のためだ」

 肖子涵は目を見開いて全身に力を入れる。しかし、それに気付いた仕えたちがまた更に力を込めて押しつける。宁麗文は強く咳をして出てきた血を唾と共に吐き捨てる。

 「なぜそこまでして亞夢を殺したがる? 彼は実害を出していない。ただ万燈実と人間と同じ生活を送っていただけだろ」

 「では問おう。なぜそこまでして邪祟を庇う? 被害を出そうが出さまいが、邪祟は邪祟だ。いつかは我らに実害を成すだろう」

 宁麗文は口元を上げて万克勤から顔を背けて笑う。

 「ハッ、こりゃとんでもない宗主だな。そういう身勝手な理由だけで今まで怨詛浄化をしてったってことか? 善と悪の区別はついてるのには賞賛するけど、静かに暮らしたい彼らの事情を知らないまま浄化していたんだとしたら愚かだよな。そりゃあ万燈実も次期宗主になりたがらないし、生者を喰らわない亞夢との生活を望むわけだよ」

 万克勤は何の感情も出さないまま自分の剣を引き抜く。銀の擦れる音に振り返った宁麗文は一瞬だけ目を見開いたが、それを隠すように睨みつけ嘲笑う。

 「今ここで私を殺してどうするつもりだ? まさか亞夢に喰わせるとでも言うんじゃないだろうな?」

 「もちろんそのつもりだが。何か異論でも?」

 万克勤の口は下に歪み、そしてまた上に動く。

 「昔から江陵宁氏にはうんざりしていたんだ。邪祟の情報を伝えたら世長会では我が物顔で開示する。私たちが口に出せば不機嫌な顔をして言動を規制する。我ら世家の中で一番上だからといって思い上がってほしくないものだな」

 宁麗文は父親の宁浩然に対する侮辱にまた鋭く睨みつける。咳をして血を吐き捨ててからまた出た血を垂らす。

 「父上への侮辱なら私にぶつけるな。本人にぶつけろよ。私にぶつけて何の得がある? 金にも酒にもなんにもならないだろ。お前は私より頭が弱いのか?」

 宁麗文のその挑発に万克勤は目を見開き、また口を下に大きく歪める。

 「この、小童が!!」

 万克勤の剣が宁麗文の首目掛けて風を斬る。肖子涵は目を大きく見開いて宁麗文の名前を呼んで、全身に力を入れた。その時だった。

 「やめてください!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ