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護誓散華  作者: くじゃく
夢幻との燈
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三十七 雛(3)

 朝になれば最初に肖子涵が起きる。その後に宁麗文が身動ぎをして起きて彼から離れる。離れた際に少し悲しそうな顔をする肖子涵を見てぐっと気持ちを堪えたが、そっぽを向いて見なかったことにした。髪を整え純白の外衣を羽織って紐を結ぶ宁麗文は格子状の窓を見やる。

 「ちょっと外の様子を見てくるよ。肖寧は二人を頼む」

 「ダメだ。俺が行く」

 立ち上がった肖子涵に宁麗文は呆れて自分の腰に両手を置く。そして彼の全体を見回して溜息を吐いた。

 「君は全身が黒いから見つかりやすいんだよ。私はどちらかと言えば白い方だから、多少は紛れると思う。だから外に行くよ」

 「あなたが飛ばされてしまっては元も子もない。俺が行く」

 「あのねえ……」

 ああ言えばこう言う、宁麗文は片手で額を押さえて頭を振る。どう言ったって肖子涵は折れないし頑なに行きたがろうとする。宁麗文は諦めて万燈実と亞夢を起こした。

 「今から私と肖寧で外の様子を見てくるよ」

 「え? こんなに雪が降ってるのに?」

 暖まったからと肖子涵にきちんと外衣を返す万燈実は唖然としたままで、その言葉に宁麗文は頷く。彼は宁麗文のその顔に瞬きをしてやっと驚く。

 「いや、無理に出るなよ! もしそれで遭難しちゃったらどうするんだ? 俺たちは別に慣れてるからいいけど、宁麗文はそうじゃないんだろ? また去年みたいになるぞ!?」

 「大丈夫だよ。肖寧からもらったこの外衣があるんだし。じゃ、行ってくる」

 万燈実の説得も虚しく、宁麗文は片手を上げてにっこり笑ってから肖子涵と外に出た。戸が閉まった後、万燈実と亞夢は「正気か……?」と絶句しながら呆れていた。

 外はまだ吹き荒れている。昨晩よりかはマシだろうが、しばらくいれば凍え死んでしまうかもしれない。宁麗文はなるべく肖子涵の身に寄り添い、肖子涵は彼の腰をしっかりと掴む。二人の外衣は風に煽られバサバサと音を鳴らした。

 「流石にこんなに強いと人は来ないか」

 宁麗文は口の中に入ってくる雪をぺっぺっと吐きながら呟く。肖子涵も頷いて「あまり遠くにいると戻ってこれない」と言って、二人で踵を返す。

 数十歩踏みながら二人は銀世界を見回す。どこを見ても白く、木はあるだろうが上手く見えない。宁麗文の鼻と耳が赤くなって感覚もなくなりつつある。肖子涵は彼を自分の外衣の中に入れて歩調を速くした。

 もう少しで万燈実と亞夢がいる民家に辿り着こうとした瞬間、微かに銀の音が聴こえた。肖子涵は真っ先にそれに気が付き即座に廓偲を引き抜いてその音の正体を斬り裂く。宁麗文はその正体に驚いて彼から離れてしまった。

 その時、宁麗文は口を覆われ、腹を掴まれ、瞬く間に肖子涵の前から消えてしまった!

 「宁巴!?」

 肖子涵は彼の名を叫ぶ。しかし、返ってくるのは風の音だ。目を凝らして辺りを見回す。廓偲を構えてまた来る音に集中する。空から降ってくるその音たちの正体は、無数の矢だった!

 肖子涵はそれを全て斬り落とし、白い息を吐いて周りを見ながら宁麗文を呼ぶ。どこに呼んでも返ってこない彼の声に眉を顰め、舌打ちをして急いでその場から離れて民家へ駆けた。

 民家の戸を勢いよく開けて閉めた肖子涵に、万燈実と亞夢は驚いて身を縮こませる。が、彼だと分かって少し安心するが、すぐに隣に宁麗文がいないことに気付く。

 「宁麗文は?」

 「攫われた」

 万燈実と亞夢はそれに驚き、眉を顰めたり目元を引き攣らせる。誰が彼を攫ったのかは分からない。吹雪の中に亞夢ではない、他の邪祟がいるというのだろうか? いや、邪祟は冬には現れにくい。だとしたら人間か動物の仕業なのかもしれない。どちらにせよ、彼は今、大変なことに巻き込まれていることには違いない。

 「一大事だ。俺たちも探しに行く」

 「いや、迂闊に動いては危険だ。しばらくここにいろ」

 万燈実は彼の言葉に強く反抗する。

 「できるか! 亞夢、行くぞ」

 亞夢は万燈実の声に頷いて立ち上がる。肖子涵は目元を引き攣らせながらも溜息を吐いて片手で頭を抱えてそのまま振った。

 民家から出た三人は散らばらないように走って南下していく。どこを見ても吹雪いていて、心なしか先程家を出た時よりか強くなっている。白い息を吐きながら宁麗文の名を呼び、吹雪から逃げるように走っていった。

 

 いつの間にか気を失ってしまっていたようだ。宁麗文はガンガンと鳴る頭を押さえながら目を覚ます。うつ伏せになったまま少し起き上がる。

 (クソ……最悪だ。肖寧から離れてしまった……どこだよここは)

 軽く舌打ちをして頭を振ってから辺りを見回す。薄暗いそこは簡易的な牢屋のように窺える。宁麗文は眉を顰めながら軽く身動ぎをして地面を触る。どうやらそれは土でできていて、肘を軽く曲げれば壁に当たり、それに触ってみれば土でできている。少し腕を伸ばしてみれば天井には木のようなものが埋め込まれていて、指の第二関節で叩けば軽い音が反響した。全体的に土の匂いがして気分のいいものではない。

 少し咳をして立ち上がろうとしたが、はっ、と気付いてしまう。先程叩いた天井は寝そべったまま叩くことができた。つまり、彼のいる場所は完全に立ち上がることができない!

 (嘘だろ!? 本当にここはどこなんだよ!)

 宁麗文は左手で祓邪の柄に掌を這わす。ここで抜こうとしても長さが足りずに抜ききれない。柄の先でカンカンと天井を鳴らしてどうにか抜こうとしていると、頭上から微かに声が聞こえた。動くのをやめてじっとその声に耳を這わせる。どうやら複数人が宁麗文の上で何かを話しているようだった。

 「……に、……いを……」

 「……なら、……を、こ……に……」

 (なんて言ってるんだ? あんまり聞こえないな……でも、上に誰かがいるってのは確かだ)

 宁麗文は少しずつ身動ぎをして、うつ伏せから屈んだ状態になって前に身体を進める。しかし彼の体勢は中腰に近く、あまり動くことはできない。歩いていく度に疲弊していき、腰が疲れてきてしまった宁麗文は祓邪の鞘を左手で軽く持ち上げ、柄を右の逆手で抜いてみる。左手では抜ききれなかったそれは、右手ではぎりぎり抜ききれた。それをそのまま横に向けて斜め後ろの土壁を掘っていく。本来の剣の使い方ではないが、今はそれどころではない。宁麗文はガリガリと削っていき、やがてコンッと何かに当たる。剣で更に削っていけば、白い何かが見えた。それをよく覗いて見て、宁麗文は顔を青ざめて小さく悲鳴を上げる。

 (なん──なんで、なんで人の頭がここにあるんだ!?)

 そして同時に自分が今、どこにいるのかも悟ってしまった。

 ──ここは、墓地の中だ!

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