零 終わりと始まり
──彼は修士だった。
──彼は病弱だった。
──彼は親切だった。
──彼は正義だった。
──彼は——。
人を救い護ることを天に誓っていた。
たとえ自分が傷付いてしまっていても。
裏切られてしまっていても。
濡れ衣を着せられてしまっていても。
死の淵に立たされてしまっていても。
──これが人生というものなのだから。
彼は膝を抱えて笑う。それはかつての幼き子供のようだった。
燃え盛る橙の中にいる自分を止める人がいた。共に逃げようと言われた。けれども彼はそれを良しとせずに拒んだ。
業火の渦中で血の涙を流す。それは憎悪、憤怒、悲哀、様々な感情が流れていた。彼の中にはもう何もない。ただただ、優しく笑うことしかできなかった。
今、私はどんな人間に見えるだろうか?
君にとっての私は、どんな人間に見えただろうか?
世間からの私は、きっと最低で最悪な人間だっただろう。
私は私を、最低で最悪で、転生をも赦してはくれない人間だと思っているよ。
剣は自分の胸元に向けられている。最後に愛しいあの人に微笑んで、そして自分を刺す。流れる赤い血は、炎に巻かれて消えていった。
愚かなる彼の運命は、ここから始まる。