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第9話 旅は道連れ……死なばもろともっ

前回の『前書き』から登場していただいたスライムさん、今回も引き続き登場。

……え?出てない?……そんなはずないんだけどなぁ……。

ともかくも、絶対絶命のこの状況から、失地回復はありえるのか?

今回、『スライムさん、死す!』を、刮目して待……たなくても良いな……。

空目して待……たずに以下をどーぞ。

「気持ち悪ぅいぃ……べったべたするぅ……」

 ラケルはまだぶつぶつ言っていた。

「なら、まずはさっきのところまで戻るか。もう一度、体を洗えば良いんじゃろう?」

「いや、僕の服も汚れちゃったし、宿に戻らないと着替えもできないし……」

「なら、これからまっすぐ宿に向かうんじゃな?」

「それが、このままじゃあ戻れないんだよねぇ……」

「ん?どういうことじゃ?」

 ラケルはそれには答えず、スライムにそろりそろりと近寄ろうとする。

「ちょっと待ってて」

「いや、待ってろって言われても。おぬしに着られている以上、わしも付いて行くしかないんじゃけど」


 ラケルはさきほどのスライムの前で剣を抜いた。そして、その剣を振りかぶ……らずに、剣先でスライムをつつきだす。

「な、なにやっとんの?」

「静かにっ!……戦闘中だよ、一瞬の油断が命取りになるからね」

 え?どこで戦闘が……とトロイはあたりを見回せ……なかった。もちろん、ラケルに着られているために動きの自由が利かないからだ。

 トロイにはふざけている様子はなかった。真剣な顔でスライムをつついている。やっていることは、子供が虫をつつきまわして弄んでいるのとなんら変わりない。

 やがて、スライムはぴくりとも動かなくなった。

「ふうっ……」

 ラケルは一息つくと、額の汗を拭った。

「いやそんな『一仕事したぜー』って感じだされても……」

「……命を懸けた勝負だからね」

「わしには、単なる弱いものいじめにしか見えんかったが……」

「ええっ、何で!?」

「何でも何も、一回その剣を振ればそれで終わりだったじゃろうに」

 ラケルは肩をすくめて頭を振った。

「わかってないね……良い?よく聞いてよ……僕が剣をこう振りかぶったとする、そして、振り下ろす……絶対外すよ。うん、間違いない」

 変なところに自信を持った台詞ではある。本人には言いにくいことだろうが……。

「おぬし、変なところに自信持っとるな……」

 ……あ、本人に直接そのまま言ってるよ。

「うん、今までもそれで的外して刃こぼれさせちゃったりね……それで(お財布的にも(心の声))痛い思いをしてきたし……だから、この方法が一番確実なんだよ。僕だって学習するさ!」

「いやあの……学習の方向が違うんじゃないかと……普通は、剣の腕を磨くとか……」

「トロイ?何言ってるのさ、僕の剣技が上達するわけがないじゃないか!」

「力いっぱいそんなこと叫ばないでくれる!?……聞いているわしの方が情けなくなってきたんじゃけど……」

「だって、事実は曲げられないよ?ありえない未来を夢見るなんて単なる現実逃避だし、後ろ向きにうじうじ悩んでたって仕方ないし!」

 だからといって、それは前向きというよりは思考停止なんじゃないかと思うトロイであった。

「わし……とんでもない人間とパーティ組んだかもしれん……」

「あー、それも良く言われたー」

 ぼそっと呟くトロイに、あっけらかんと返すラケル。

「せめて、そこは聞こえてても聞こえないふりをするのが礼儀ってもんじゃと……」

「えー、だってそこで『え?なんだって?』とかで返したら『鈍感系(ピーッッッッ)(主人公)』とか呼ばれるパターンの奴でしょ?僕、鈍感じゃないし!」

 その前に『主人公』ってのも怪しいものかと。ピー音入れられちゃってるし。

「いや、鈍感とか敏感とかという前に、空気読め……ああっ!」

 逆の立場に立って、初めて『空気を読む』という言葉の意味を理解したトロイであった。

 うん、経験は学習の母。……あれ?お父さんは?

 もとい、経験は最良の教師。……でも、お高いんでしょ?……あれ?

「じゃが、弱った相手をいたぶるのもどうかとは思うぞ。殺さずに済むのならそれに越したことはあるまい」

 トロイが何とかその場の空気を立て直す。

「……何言ってるの?冒険者とモンスターだよ、お互いに殺す覚悟と殺される覚悟があって当然だよね」

 ラケルがその空気をあっさりとぶち壊す。お前がいうか、という話はあるが。

「じゃが、無益な殺生は……」

「無益じゃないもの」

 丁々発止、畳みかけるように言葉が重ねられていく。さきほどの戦闘よりよっぽど緊迫感がある。

 ラケルが今度は短剣を取り出し、スライムの下に差し込んだ。

「さっきもその短剣で良かったんじゃないか?突くだけならその方がやりやすいじゃろ?」

「……え?最期の力を振り絞って、スライムが飛び掛かってきたらどうするのさ?……僕、死ぬよ?」

 ……え?瀕死のスライムにすらまともに戦って勝てないの?さっきの、『殺される覚悟』って何なの?

「そこは、『負けんっ、負けるもんかっ!』っていうぐらいの気概を持たないといかんのでは……」

「現実を直視しようよ。勇敢さと無謀をはき違えちゃだめだよ」

「……なんかわしの方が理不尽なことを言ってる感じになっているのが納得いかんのじゃが……」

「だって、実際にそうなんだもの……あ、やっぱりあった」

 言って、ラケルは短刀でスライムの下から何かを掻き出した。

「……何がじゃ?」

「ドロップアイテム。……今回は魔石だね」

「魔石じゃとぉ!」

 トロイが驚愕の声をあげた。


 言ってはおくが、魔石自体はそれほど珍しいものではない。魔石にはそれをドロップしたモンスターの力が封印されているために、強いモンスターから生み出される魔石ほど高価で取引が行われる。つまり、スライムの魔石にはまず商品価値はない。ただし……。

「スライムなんて、普通はほとんどアイテムドロップしないぞ。しかも、スライムも魔石をドロップするなんてこと、あるんじゃなぁ……」

 稀少価値はあるということである。

「ふーん……ま、売れるかもしれないんだったら取っとくか。……あ、もう一つあった」

「なんじゃとう!」

「……びっくりしたぁ。急に叫ばないでよ」

「スライムが複数アイテムをドロップするなんて……あるのか?」

「だって、実際にドロップしてるんだから、あるんじゃないの?……でも、なんかの草っぽいな。これはお金にならないかなぁ……」

「まぁ、スライムがドロップするアイテムじゃからな。そんなに……ちょっと待て。それ、月光草だったり……しないよな?うん、スライムが月光草ドロップするなんて……なんて……なんて……なんて……なんてこったぁ!」

「ちょっと落ち着いて。なんか知らないけれど、お金になりそうなんだよね?……これだけしかないんだけど?」

「月光草が大量にあったら、それこそ一財産じゃあ!これだけでも、優に人一人が一月ぐらいは生きていけるぐらいの額にはなるじゃろうな」

「そうかぁ……それじゃあ、帰れるようにはなるかな……いや、もう少しあった方が良いかも……」

 ラケルはまだスライム(スライム、だったもの)をつついている。

「いや、さすがにもうドロップは……」

「あ、あった」

「なんでぇ!?……3つ目じゃぞ?なんで?なんで?なんでこんなにアイテムドロップしてるの?」

「だーから、現実にドロップしてるんだから仕方ないでしょーに……んーと、残念。同じ草でも、こっちは雑草っぽいね。ま、一応なんかの足しにはなるかも。取っておくか」

 ラケルは無造作に3つ目のアイテムもしまい込む。

「そんな……ありえん……ありえん、スライムから3つもアイテムドロップなんて……しかもレアアイテムもあるとか……」

 トロイはあまりのことにぶつぶつと呟いている。

 ラケルは人差し指をびしっと突きつけようとして、目の前には誰もいないことに気が付き、自分の胸(を覆っているトロイ)を指差した。……正直、非常に間抜けな構図である。

「トロイ、よく聞いて。僕は弱い。なかなかスライムにも勝てない。幼馴染のパーティにいた頃ならともかく、こんな僕が(ラック)まで悪かったら単独で冒険者なんてできるわけないじゃないか。何もしなくても生きていけるなんて、そんなご都合主義な甘い世界じゃないよ?」

「でもこれ、運が良いとか悪いとかいう次元の話じゃないと……ここまで引きが強いと、もう十分にご都合主義な感じがするんじゃが……」


「僕はね、とっても運が良い人間だと思うんだよ」

 ラケルは笑って言った。

「確かに、僕は弱いし、冒険者としても失格だと言われても仕方ない。冒険者なんて向いてない、それは僕も思うよ。でもね、どこかで神様はバランスを取っているのかもしれない。こんな僕でも、まだ死んでないんだよ?凄いと思わない?ダンジョンにすら入れない冒険者だよ?でも、それでも何とか生きていけてるんだよ。両親はいなくても、僕の周りには幼馴染たちがいたし。みんな、僕のことを嫌な顔一つせずに助けてくれた。それだけでも、とっても凄くラッキーだったなぁ、と思うんだ」

 ラケルはそこで言葉を切った。

「そして、トロイとも出会った……」

 ラケルはトロイを見おろす。

「あ、ごめん、やっぱり僕、とてつもなく運が悪いかもしれない」

 トロイは叫んだ。

「わしをオチに使うなぁー!」

はい、『絶体』絶命ならまだしも『絶対』絶命だったので、『必ず』死んじゃうことになりますね。

惜しい人を亡くしました。

……え?スライムは『人』じゃない?

いやー、そういう差別発言は人権問題になりかねないですよ?

……。

あれ?もうツッコミはないの?なら、ここで表現の限界に挑戦っ!

タイトルの「死なばもろともっ」の部分を「イナ(ピー)ものおきっ」に変えてみようか。

……ちょっとピー音入ったけど、まだ大丈夫かな……じゃあ……。

(ピーッッッッ)って(ピーッッッッ)だから、(ピーッッッッ)すると……




この作品の行方は、誰も知らない。

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