エピローグ
「お父さん、私、待っているから」
ミサが、手錠をかけられて王都に連行されてゆくギルド長に声をかけた。
「どれくらいの刑期になりそうなのか」
ガイアは横にいるサラに訊いた。
「そうね。数年間の労務刑じゃないかしら」
「そんなに?」
「あら、それでも軽い方よ。本当なら死刑でもおかしくないわ。だって魔物の側に情報を漏らして王国の騎士を売ったのだから」
サラが王都から魔物の動向を調査するために冒険者を装い潜入していたことを謎の人物に漏らしたのはギルド長だった。スタンビートの後、調査に来た王国の調査隊にギルド長が自白をして判明した。ギルト長はその謎の人物に協力したことがスタンビートにも繋がったと思って、良心の呵責から自白したのだと言う。
「ただ、スタンビートから町を守った功績と、娘のミサを殺すと脅されてしたことだったから情状酌量の余地があるということで大幅な減刑になり数年の労務刑ですむはずよ」
「それにしてもミサはギルド長の子だったのか」
「ギルド長には別に妻子がいて、ミサは不倫してできた子だったの。でも、ミサの母はミサのお産で死んでしまい、かと言って妻子のいる自宅に引き取ることもできず、宿屋の夫婦が面倒をみていたのよ」
「そうだったのか」
「でも皮肉なことに、今回、ギルド長が逮捕されたことで、奥さんは離婚して子供も連れて実家に戻ってしまったの。だからギルド長の出所を待ってくれているのはミサだけみたいね」
「ギルド長を脅していたのは誰だったんだ?」
「それが分からないのよ。ギルド長も相手の素性を知らないようだし……」
(まさか野狐なのか)
「そいつは本当に人だったのか?」
「何、変なことを言うのよ。それとも何か心あたりでもあるの?」
「いや、別に……」
「それより、一体、あなたは何者なの? その力は何なの?」
地が割れ、その谷に魔物が落ち、残った魔物も焼き払われたのは偶然の天変地異か神の奇蹟だと思われていた。
あまりにも桁外れの力だったので、とても人間のなす仕業だとは思われなかったのだ。
前線にいた兵士もガイアがしたのだと思っていなかった。もし、魔法なら術者が、詠唱をして魔法陣が出現し、それから魔法が発動すると思っているからだ。だが、ガイアは詠唱も唱えなければ魔法陣も出していない。だからガイアの仕業だと思っていない。ただし、ジョンとバイオレットはガイアが無詠唱で回復魔法を使ったのを知っていたがガイアが秘密にしておいてほしいと二人に言ったら、黙っていてくれた。
だからガイアが魔物を殲滅したということを知っているのはサラだけだ。
しかし、サラはそれを公言していなかった。
「そう思うならどうして調査隊に俺のことを言わない」
「あなたの力は凄すぎて中途半端に公にできるようなものではないわ。だからまず、私にすべてを話してちょうだい」
「それはまだできない」
「とにかく、あなたには一緒に王都に来てもらうわ。いろいろ訊くことがあるから」
「それは断る」
「そういうわけにはいかないわ」
サラがいきなり魔法の使用を無効化する拘束具を取り出した。
それを見てガイアは逃げ出した。
サラが後を追ってきた。
「待ちなさい!」
「どうしてそんなことをする」
「あなたの異常な力は脅威だわ。だから秘密裏に調査する必要があるの。大人しくこれを付けて私と王都まで来なさい!」
町を出て人がいなくなるとガイアは空に飛翔した。空を飛べることはサラにバレていたから、いまさら隠す必要は無かった。
「ずるいわ」
「それじゃあ」
「私は諦めないわよ。あたなたの正体をきっと突き止めるから」
ガイアは高度を上げると風に乗った。
見る見るうちにサラが小さくなってゆく。
「どう思う」
周りに誰もいなくなったので白狐に話しかけた。
『何のことだ』
「ギルド長を脅した奴のことだよ」
『多分、野狐の手下だろう』
「野狐自身じゃないのか?」
『そいつが野狐なら、回りくどい方法を取らなくてもサラのことを見破れるだろうし、サラはとっくに消されている』
「そうか……」
『だがその件も、今回のスタンビートの件も裏で野狐が糸を引いていることは間違いないはずだ』
「野狐の目的は?」
『もともと野狐は人間界に害をなす存在だ。奴はこの世界を支配するつもりだ。なんとしても止めなくてはならない』
「ああ」
ガイアがスタンビートを阻止した後、西の森からは魔物がいなくなった。さらにギルド長に接触した謎の男も姿を消した。そして、隣国の皇国で最近魔物が頻繁に里を襲うようになったという話が伝わってきた。
「野狐は隣の皇国にいるのか?」
『その可能性はある』
ガイアは風に乗り、隣国の皇国へと向かった。
新たな旅の始まりだった。
これで第1部は完結します。
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