第5話 疑惑
「大丈夫ですか」
ガイアは女に声をかけた。
女は何が起きたのかまだ理解できない様子で返事をしない。
ガイアは女の手足を縛っているロープを一瞬で消した。
「え、ええええええええ?」
単にきつく結んであるロープを解くのが面倒なので、ロープが砂のようになって消えることをイメージしたのだ。
「今、何を?」
「魔法かな」
少し失敗したかなと思い、そう言ってごまかした。
「魔法? 無詠唱でロープを消す魔法を使ったというの?」
「いや、まあ……。それよりも何があったの?」
「それは……」
女は下を向いた。
「ともかく、ここは危険だから森の外に出よう」
ガイアが空から降りてきたのはもう見られていたので、このまま空から帰ろうかと思った。
『おい、何か忘れていないか』
「なんだ?」
『討伐証明だよ。お前の服はもうボロボロだろう。金が必要なんじゃないか』
「そうだったね」
「誰と話をしているの?」
女が不思議そうに訊いた。
「いや、別に」
ガイアは倒したサーベルタイガーの牙を抜いた。
「これ討伐証明になるかな」
今度は女に訊いた。
「ええ」
「よし」
ガイアは牙と女を抱えた。
「えっ!?」
そのまま空中に浮上すると一気に町まで帰った。
ギルトは深夜まで開いている。
ガイアはとりあえず、ギルドに討伐証明を持ってゆくことにした。
幸い遅い時間だったので酒場も人はまばらで、ジョンはいなかった。
「あのう」
「はい」
「これ、倒したんで報酬をください」
「ええと」
受付嬢の顔が凍りついた。
「これは?」
「サーベルタイガーです」
「どこでこれを?」
「西の森の入り口です」
「そんな、まさか」
受付嬢は牙を持ったまま、奥へ行ってしまった。
しばらくして戻ってくると「ギルド長がお会いしたい」と言っていますと言った。
案内されて奥の部屋に行った。
「君がこれを討伐したのか?」
「はい」
「君は確かEランクだな」
「はい」
「サーベルタイガーはAランクの魔物だ。分かっていると思うが、ランクはそのまま冒険者ランクに対応している。つまりAランク冒険者でないと討伐できない魔物だということだ」
「知っています」
「どうやって倒した」
「氷結系の魔法で心臓を一突きしました」
「うーん」
「何か問題でも」
「君は不正行為を隠している」
「は?」
「君のジョブは剣士だ。なのに丸腰で西の森に入り、しかも上級魔法でAランクの魔物を倒したという。そんなデタラメな話を信じられると思うか?」
「でも……」
「おそらくAランク冒険者のパーティが命がけで倒した獲物を横取りしたのだろう。多分、このサーベルタイガーを倒した冒険者たちは相打ちになったのだ。それをお前が利用したのだろう。そういう不正は絶対に許すことはできない」
「本当に俺が倒しました」
「正直に白状しないのなら、この場で拘束して、治安部隊に引き渡すぞ」
「彼は嘘をついていないわ」
助けた女が部屋に勝手に入ってきて言った。
「サラ、無事だったのか?」
「ええ、でも彼が助けてくれなかったら今頃そのサーベルタイガーの餌になっていたわ」
ギルド長が目を剥いた。
「すると、彼が言っていいることは」
「だから言っているでしょ。本当よ。彼は無実よ」
「お前が言うのならそうなのだろう……」
「あのう。どうなっているのでしょうか」
「ここまで話したのなら言うわ。私は騎士団に所属している騎士よ。最近魔物が変異していて、しかもそれに人間が絡んでいるらしいということで冒険者になって潜入捜査をしていたの」
「そうだったんですか」
「私の正体を知っているのはこの町ではギルド長だけよ。それなのに、私の正体がバレて、身柄を拘束されて、あやうく消されかけたの」
そう言ってギルド長の方をサラが見た。
「私じゃない」
ギルド長が慌てて否定した。
「そうかも知れないし、そうでないかも知れない」
サラがゆっくりと言った。
ギルド長は額から脂汗をたらしていた。
サラがガイアの方を向いた。
「私が騎士で潜入捜査をしていることは黙っていてくれる?」
「ああ、いいよ」
「それと、あなたのその力の秘密を聞かせてくれる?」
ガイアは小声で白狐に「どうする?」と囁いた。
白狐の答えは『やめておけ』だった。
なのでガイアはサラの問には答えないことにした。
「悪いが話すことはできない」
「そう」
サラが眉を上げた。
目が怖かった。
「でも、いずれあなたには協力してもらうわ」
そう言うとサラは出て行ってしまった。
ガイアはギルト長の方を向いた。
「それで、ギルト長、報酬は?」
「は、払います」
ギルド長はさっきとはうって代わり、なにかに怯えているようだった。
ガイアはギルド長と受付にゆき、革袋に詰まった金貨を受け取った。
ギルドを出ると宿に向かった。
深夜の町は人通りは無かった。
「さっきはなんで止めたの?」
『あのギルド長の前で話すべきではないからだ』
「そうするとあのギルド長が黒幕なの?」
『いや』
「あの女の人は信じられるの?」
『どうだかな』
「そうだね」
そんな話をしているうちに宿に着いた。
遅い時間にもかかわらず主人は迎い入れてくれた。さらに「残り物ですが」と言いながら夜食まで部屋に持ってきてくれた。もちろん5人前の量だ。
ガイアは食事を終えると、倒れ込むように寝台に転がり、そのまま深い眠りに落ちた。
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