7.
目的が確認できれば、早速、破滅フラグの対策に取り掛かる。
「破滅フラグは取り除かなければならないもの、と言うのはわかったけど、どうすればいいのか、だね」
ひと通り、お手製の破滅フラグ集を読んだセドリック様はあごに手を当てて考えをめぐらせている
「そうです。冊子にも書いたのですが、私の夢はとても断片的な情報しかありません」
「えっと……”聖女”、”王子”、”側近”、”婚約”、”悪役”、”断罪”……」
セドリック様は数えるように口にしているのは、私の夢の中で、ポツポツと雨のように落ちてきた言葉。
自分なりに考えて、関係のありそうな情報は書き足したものの、まだまだ考えねばならないことがたくさんあり過ぎる。
「”聖女”というのは言い伝え、王都伝説に出てきます。私の”夢”も”神のお告げ”と考えれば、繋がりはあると言えますし、”王子”や”側近”も聖女との関わりが深いでしょうから、関係していると考えるのが自然な流れ」
子供の頃から語り継がれてきた王都伝説は、国民なら誰もが知っているおとぎ話だ。
聖なる力に目覚めた少女が、闇に侵された国を”救う”物語。
”救い”の象徴となる”聖女”は”破滅”とは真逆になる。
「となると、最も注意すべきなのは、”婚約”や”悪役”、”断罪”が破滅フラグを回避するための鍵になるのかもしれません」
「婚約と言っても、僕に相手はいないし、兄上たちは婚約者候補いるけれどまだ婚約者は決まっていないし……」
そう。ノルマン家に婚約が決まっている者はいない。
もしかしたら、不思議な夢の言葉、すべてがすべて、破滅に関わっているわけではないのかもしれない。
「該当がないのでひとまず消去しますと、”悪役”と”断罪”が残ります。ある意味、わかりやすい言葉ですが、現在の情報だけで分かることは”悪い人に騙されない”ことかと思われます」
「ニーナは、”悪役”は物語の人物ではなくて”悪人”だと思うってこと?」
セドリック様が疑問に感じたように、聖女=王都伝説と考えられる以上、悪役も物語の人物のことのようにも考えられる。
でも、私の中で「違う」と、何かが訴えている。
「はい。物語の悪役とも考えられますが、罪を裁く”断罪”がある。罪を持つとなると現実に存在する”悪人”がいないと成立しないように思います。そのため、何かしら悪人に関わることを示唆しているのではないでしょうか」
「なるほど」
そして、これだけは断言できる。
「それに、セドリック様が悪事に関わる、とは考えられませんからねっ!」
セドリック様の動きが止まった。
「・・・」
「セドリック様?」
不思議に思いながらも声をかける。
セドリック様の視線はあちらこちらと泳いでいた。
「その、ニーナ。僕が言うのもなんだけど、『主人バカだ』ってメアリーに叱られるよ?」
なぜか気まずそうに口を開いたセドリック様。
「えぇ! な、なぜですか!?」
「ニーナ、驚きすぎだよ。僕のこと、評価しすぎだと思う」
驚きで声を上げた私を見て、セドリック様は苦笑をこぼした。
でも、私はセドリック様の言葉に同意できなかった。
「いーえ。セドリック様が悪事に手に染めるなんて考えられません! こんなにも賢くて、お優しく、そして海のように慈悲深い心を持っている。私のような変わり者にも礼節を重んじてくださる、とても素敵な殿方で…」
常日頃、お仕えお慕いしている主人であるセドリック様について、私が感じていることを語る。普段は心の底におとなしく座っているせいか、ひとつ、口に出してしまえば、次々と溢れ出てくる言葉たち。
「に、ニーナ」
まだまだ語りたいと動く唇を止める、小さな声がした。
「はい?」
「わかったから、うん、大丈夫」
セドリック様の頬は、熟れたりんごのように赤く染まっていた。
「お顔が赤いで……はっ! もしや私の風邪が移って!?!?」
「ちが。その、へ、部屋が暑くて」
まだ肌寒い春先のため、窓を締め切っていた。しかし、陽も上がって室内の温度は予想以上に上がっていたのかもしれない。
私はさほど暑さは感じなかったけれど、子供は体温が高いと聞いたことがある。話しに夢中になって、セドリック様の変化に気づかなかった。私の悪い癖だ。
「語りに夢中になってしまい、気づかず申し訳ありません。窓をすこし開けますね」
とりあえず急いで窓を開けてみれば、そよそよと涼しい風が流れてくる。セドリック様は安心したように息をつき、頬の赤みは薄くなっていった。
よかった。熱がすぐ引いたと言うことは、風邪ではないようだ。
大人でもつらい高熱だったから、セドリック様に移っていなくて、本当によかった。




