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転生

 ――生まれつき、体が弱かった。

 物心つく頃から、病院のベッドの上で過ごした。

 何度も手術をして、その度に死にかけて、それでもなんとか生きていた。

 窓の外を見ることと、読書と、勉強くらいが私にできること。近くの神社の大きなご神木を見るのが、マイフェイバリット。

 絵を描くのも最初は好きだったけれど、夢とか希望とか、そういうものを描きたくなって、そういうものが自分には遠い遠いものだと思い知らされて泣きたくなるからやめた。

 だから、荒唐無稽で、この世界とは全く違う、突拍子もない世界を描いたファンタジー小説を図書館から借りてきてもらってよく読んだ。

 こんなのありえないだろうというご都合主義で固まったお話だったら大当たり。現実感がまるで無くて、読んでいる間は、つらい現実を一時でも忘れられた――。



 ――十五歳になったとき、両親が消えた。

 事故死だとかそういうのではなく、文字通り消えた。夜逃げってやつだろう。

 膨らむ医療費に、借金。もう限界だったのだろう。私のせいだ。

 私はその日、主治医さんに、治療もしなくていい、薬もいらないから、せめて死ぬまでこの病室にいさせてほしいとお願いした。主治医さんは渋々頷いてくれた。本当は追い出したいだろうに、こんなお金も生まないただの肉袋。

 ありがたいことに、主治医さんは私費で私に治療を続けてくれた。三食のご飯も。私は餓死でも良かったくらいなのに。

 何かお返しできることはないかと考えたけれど、自分にはもう、自分の体くらいしか残っていなかった。

 それでも、こんな骨張って痩せこけた体でも良いならと申し出ると、意外にもすんなり受け入れてくれた。それで死期が早まっても、別にいい。失うものも悲しむ者も、この世界にはもういないのだから。

 冷え込むある夜、最早、当直のときの日課となった、主治医さんとのそういう行為中、ボーっと窓の外を見て、ご神木がライトアップされていることに気づいた。

 ――ああ、そっか。今日は大晦日か。

 去年まで毎年見ていた、ご神木が一年で一番キレイで、一番好きな装いになる日に、私はなんでこんなことをしているんだろうと自己嫌悪する。

 行為が終わり、患者着の上から人肌を感じながら咳き込む。

 いつものことだ。

 主治医さんは慣れた手付きで優しく口元の血を拭いて、寝る前の痛み止めを打ってくれる。

 毛布を多めにかけて、また明日ね、良いお年をと声をかけて出ていった。

 ――体を起こす。

 せめて今年も、ちゃんとあのご神木を見よう。そう思ったからだ。

 ライトアップされたご神木が神々しく、夜空に巨大な影を作っている。

「いいなぁ……。今度生まれてくるときは、あのご神木みたいに、強くて丈夫で長生きできる体で生まれたいなぁ……」

 そう呟いて、眠りについた――。



 ――体が軽かった。

 私史上、例のない軽さだ。

 痛みもない。……これは痛み止めのお陰かもしれないけど。

 それを差し引いてもやたらと気分がいい。

 ベッドから跳ね起きて、やったこともないスキップとか致しちゃうかもしれない。

 気持ちのいい朝。過去一で体調の良い新年が迎えられると目を開いた――。



 どこ? ……ここ。

 どこかの庭だった。上に目線をやると青い空。

 写真で見たことのある、西洋の伝統的なレンガ造りの家が見える。結構大きい。

 家と言うより屋敷と言った方が正しいかもしれない。

 私は寝ている間に、病室からどこに運ばれたのだろうか?

 体は動かない。頭はこんなに冴えているのに、病気の体は何一つとして動いてくれないと、そういうことか。

 何なら悪化してるんじゃないかってくらい微動だにしない。

 屋敷の大扉から、少年が二人出てきた。兄弟かな?

 可愛い。

 とか考えてる場合じゃない! 不法侵入だよ、私。謝らないと!!

 声は出ない。

 やっぱり悪化してる。

 どうしよう、身動き一つ取れず、声も出せないガリガリな見窄(みすぼ)らしい病気持ちの女が突っ立っていたら警察を呼ばれてしまう!

 いや、その方が良いかもしれない……。

 観念するも、二人は慌てる様子もないし、私の存在を気にも留めない。

 不思議に感じながら、よく兄弟を見ると、日本人って感じの風体ではなかった。

 金髪碧眼、絵に描いたような美少年。身なりも綺麗で、ライトノベルに出てくる貴族の子供のようだ。

 なおも近づく二人は、私に気付かず、聞いたこともない言語で会話している。

 二人お揃いの木の棒を持って、なにがしか話しながら、時折棒を私に向けている。

 そして、目が合った――ように見えた。

 二人は私を見ているけれど、見ていないという不思議な感覚を覚えた。

 背が少し高い方の少年が、目を閉じ、私に棒の先端を向けながらブツブツと何かを言い始めた。

 何を言っているのかは声が小さくて聞き取れない。

 たとえ聞こえていたとしても、言葉が分からないだろうから同じことだろう。

 そしてブツブツと何かを言い終わると、目を見開いて、棒を振り、その先端を力強く私に再び振り降ろしながら、今度はよく聞こえる大きさで叫んだ。

 ――ファイアーボール!!

 あ、言葉分かった――えっ、今なんて!?

 私に向けられた木の棒の先端から炎が現れ、小さな玉になってこちらに飛んできた!?

 いや、確かに不審者で全く動かないけれど、そんないきなり実力行使とか、どんな教育を受けてるの!?

 それは違くて!

 これって魔法!?

 それも違う!!

 いや、全部正しい!!

 最大の問題は、火球が私に向かってきてるってことだ!!

 頼むから動いて私の体あああああああ!!!

 だが、二進も三進(にっちもさっち)も言うことを聞かない私の体は、迫りくる火球を受け止めるしかなかった。

 ――うぎゃああああああああああ!!!!

 ――あ?

 一瞬熱かったような? 何か当たった感覚はあったけれど、継続して燃えているという感覚はない。

 目の前の少年はやったやったと大喜びして、隣の小さい子はお兄ちゃんを褒め称えている。

 二人は私にさらに寄ってきて喋り始めた。

 今度は言葉が分かった。何故かはわからないけど。

「見ろよルイン、この焦げ! 3セルメンはあるぞ!」

「すごいよロイドお兄ちゃん! もうファイアーボールが撃てるなんて! まだ6歳なのに!」

「そうだろうそうだろう! 将来はお父様みたいな大魔術師だぜ!」

「すっごーい!! ロイドお兄ちゃんなら絶対なれるよ!!」

 微笑ましい兄弟の語らいじゃあないか、なんて涙の一つでも流したいところではありますけど、さっきから私の胸に手を当てて寄りかかるのをやめてもらえますかね、ロイド君!!

 というか、人を焦がしておいてよくもまぁそんなことが自慢げに言えますね!

 保護者の方はどちらにいらっしゃるので!?

 まぁ、一言も発せないし動けない今の私にはどうしようもないんですけどね。

 いいから胸触るのをやめろエロガキ。主治医さんだってあんまり過ぎて涙流してそっとしまってそれ以降一切触れなかった程度には貧相で傷だらけな胸だけど、胸は胸なんだよ!

「こら!! ロイド! ルイン! 庭木に魔法を撃って遊ぶなといつも言っているだろう!!」

 若々しいお父様がご登場して、ご兄弟を叱りつけましたよ!

 どうぞどうぞ言ってやってくださいな、お父さん!

 そうそう、庭木みたいな(ほっそ)い女に魔法を撃つなんて――ん?

 みたいなとは言ってないな……。

 では、なんと言ったか思い出してみよう!

「庭木に魔法を撃って遊ぶなといつも言っているだろう!!」

 庭木!! みたいではなくそのもの!!

 え、ちょっと待って!

 私、ひょっとして、木になってるの!!?

思いついたものをとりあえず書いて上げておく。

きっと何番煎じかしてるネタだと思う。


アニメとかでいつも主人公たちの魔法の的にされる木が可哀そうだなって思いまして。

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