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ヒューマロボティア ―暁の傭兵と幻影―

作者: 海水

これは茂木 多弥さまの

『ヒューマロボティア -人工生命体に纏わる物語-』

の世界観をもとに書いた、企画の副賞の二次SSになります。


https://ncode.syosetu.com/s2844f/


設定、世界観などは上記リンク先の短編3作をもとに、私が推測したものになります。

 炎に赤く染まる礼拝堂を背に、ルドニーはひとりの少年兵を見つけた。

 歳は、ルドニーの半分にも達していないだろう、あどけなさを残した顔だった。

 足を撃ちぬかれ、地に這いつくばっているが、その瞳の闘志はまだ消えてはいない。痛みに耐え歯を食いしばり、ギロリとルドニーを睨みつけていた。


「マスター、処置を進言いたします」


 ルドニーの背後から、漆黒の装備に身を包んだ女性が主張した。

 傭兵をサポートするために開発されたヒューマロボティアだ。


 女性兵士「ルージュ」型ベース試作品番号1

 個体名:幻影ミラージュ


 アジア人をモデルとした、やや小粒と言っていい身の丈のヒューマロボティアだ。

 彼女が姿を現すや、少年の瞳が怒りに染まる。


「……いや、作戦は終わった。無用な殺生は慎むべきだ」


 ルドニーはそう言い、少年に背を向け歩き出した。


 ヒューマロボティアの軍事転用に根強い反発があるものの、王国を取り巻く情勢は、そうもいっていられないところまで追いつめられていた。

 世界的な食糧難から宗教系過激派組織が力をつけ、実効支配する土地を増やしていった。

 彼らは人間を神の子と主張し、人間を模倣したヒューマロボティアに対し、明確な敵意を示していた。

 軍としての組織だった行動はできない過激派だったが、ゲリラ的なテロにより王国内で悲劇が繰り返されるようになると、世論は一変した。

 自分たちを守るためにヒューマロボティアを差し向けようという声が高まったのだ。 感情のないヒューマロボティアはゲリラ対応にはうってつけだと。


 国民を守るためにヒューマロボティアの軍事転用を提案してきた軍部に対し、国王が下した判断は、NOだった。

 建国理念にある、ヒューマロボティアの軍事不使用。

 王はそれを堅持した。


 表向きは否定されたが、秘密裏に計画は始動していた。きれいごとだけでは国民の安全が担保できなかったのだ。

 とはいえ、直接的な戦闘に加えることは、開発者の中からも異論が出た。

 そして、初期ヒューマロボティア「ルージュ」をベースとした、戦闘支援型ヒューマロボティア「ミラージュ」が開発された。


 王の手前、正規軍に配備することができなかったミラージュはベテラン傭兵ルドニー・ダウンのサポートとして配属された。サポートが主目的だが、彼の卓越した技術を身につけることも使命だった。


 ルドニーと共に行動し始めて数か月。

 過激派による襲撃を阻止するための逆夜襲作戦が発案される。これがミラージュにとって初めての実戦だった。


 彼女は、無用心に背を晒すルドニーに向かって淡々と告げる。


「しかし、彼の戦闘意識は継続されております。このままではマスターに危険が及ぶ可能性は99%と試算されました」

「いいんだよ。もうここでの戦闘は終わったんだ。あとは正規軍がうまくやるさ」

「ですが」

「彼はまだ若い。やり直しもきくはずだ。俺はそう信じたい」


 ルドニーの言葉に、ミラージュのニューロン回路が活発化する。

 彼の言葉を理解するためだ。

 だが彼女は、敵意を持ち続ける相手を赦すという感情が理解できなかった。

 マスターの安全を確保するために障害は排除する。

 彼女の基本行動理念はそこにあった。


 何故見逃すのか。


 ルドニーの真意がわからず、ミラージュはポツリとこぼした。


「やり、直す?」

「あぁ、そうだ。貧困が彼を苦しめ、憎しみを植え付け、そして戦いへ駆りたてていく。もうこんな繰り返しは――」


 ルドニーの言葉が終わりきらぬ前に、少年が立ち上がった。


「お前らに、なにがわかるんだッ!」


 憤怒の顔で叫ぶ少年の手には、明らかに手製とわかる爆発物が。

 ミラージュは流れるような動作で腰のホルダーから拳銃を抜きだし、彼を撃った。

 銃弾は少年の眉間を通過し、後頭部に赤い幕をひろげ、闇に消えた。

 足から崩れるように倒れる少年。ルドニーは唇を噛んだ。


 少年の命よりもマスタ―の命を優先するミラージュ。当然の選択だった。だが、使命を達成した彼女のニューロン回路が熱を帯び始めた。

 ミラージュは突然、腹を押さえた。


「バイタルに問題はありません、しかし、お腹の辺りが鈍く痛むという情報があります」


 無表情だが、どこか苦しそうに喘ぐミラージュ。


「マスター、これはいったい……」


 ルドニーは静かに歩み寄る。そして、彼女の頭にそっと手を乗せた。


お前(ミラージュ)は、優しいな」

「やさ、しい……?」


 ミラージュは無表情でルドニーを見つめている。彼の行動を、インプットされている数多の事象から導き出そうとしているのだ。

 ニューロン回路を駆け巡る情報は、しかして答えを導き出せなかった。


「理解不能な現象です。私にはそのような機構は存在しないはずです、何か呼称が……」


 ミラージュは淡々と、だが、不安げに呟いた。そんなミラージュにルドニーは目を細め。


「それは機構じゃない、心の痛み、だ」


 ルドニーはミラージュの頭に手を乗せた。


「お前が覚えるべきもの(感情)は、これであってほしくはなかったんだけどな……」


 と寂しく笑うルドニー。

 そんなふたりを、明けの太陽が照らし始めた。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  ありがとうございます!  二次創作を頂けるなんて、企画の副賞を当てた介がありました!  世界観が出ていて凄いです! [気になる点]  恐らく二次創作もとがポイントを入れたら駄目だと思うの…
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