月に恋する そよいだススキ
とある平野に、一株のススキがおりました。
儚くて物憂げなススキは、とても魅力的でした。
秋山を彩る目映い紅葉も、幽玄なイチョウも、みんなススキのことを褒め称えました。
けれどもススキは、自分のことが好きではありませんでした。
風にそよぐほど頼りない自分の姿に、いつも肩を落としていました。
そんなススキですが、恋をしました。
お相手は、お空に浮かぶ、お月様です。
美しい撫子も、凛々しい桔梗も‥‥みんながみんな、月とススキはお似合いだと言いました。
けれどもススキは、自分に自信がありません。
遠くに浮かぶお月様を、いつもそっと見上げることしかできませんでした‥‥
お月様もススキのことを、憎からず想っていました。
けれどもお月様は恥ずかしがり屋でした。
ススキのことを雲に隠れて、そっと見つめるしかできませんでした。
お月様もそんな自分に自信がありませんでした‥‥
時は巡り、十五夜がやって来ました。
けれども、いつもの十五夜とは違いました。お月様がその身を隠せる、たなびく雲がおりません。
満月で浮かぶお月様は、恥ずかしさの余り泣きそうです。
なので、ススキは頑張りました。空いっぱいに、自分の綿毛を飛ばしました。
それは雲と比べれば、とても薄いヴェールでした。
それでもお月様は、自分の為に贈ってくれた、ススキのヴェールが嬉しくて‥‥
綿毛の向こうの月明かりは、ちょっぴり赤く見えました。
そして少しずつ、冬の足音が聞こえてきました。
けれどもこの頃、月とススキの間には、いつも厚い雲が覆っています。
ススキがよけて欲しいとお願いしても、雲は「ごめんなさい‥自分の力じゃ動けないの」そう言うばかりです。
ススキは冬、魂を大地の下に移し、眠らないといけません。
けれどもススキは待ちました。
眠る前にせめて一目‥‥ あと少し、あともう少しと待ちました‥‥
雲の切れ間が広がった頃‥‥もうすっかり雪が積もっていました。
ススキは少しだけ待ち過ぎました。
お月様は心が乱れ‥‥でも、それからまっすぐ‥‥ 初めてまっすぐ、ススキを見つめました。
お月様の柔らかい光に包まれ、ススキはゆっくりと、天に召されて行きました‥‥
それからしばらくして‥‥お月様の周りに、小さな星が回っているのを誰かが見つけました。
あれはススキの生まれ変わりなんじゃ‥‥ 誰もがそう、心に浮かびました。
けれども恥ずかしがり屋のお月様は、それを教えてはくれません。




